第6話 ミリィの決意(後編)

・・・10日程前、私は父様と母様に一人呼び出された。

そこで聞かされたのは、アリスの母でるセリカさんの事。


セリカさんの話は侍女達の噂?で良く聞いていたけど、どれも信じれない内容ばかりだった。

神様に喧嘩を売った、隣国との戦争を一週間で終わらした、社交界でどこかの貴族を投げ飛ばしたなど。

でも父様の話を聞いた後では「セリカさんなら本気でやりそう。」と思えてしまう。


父様達の話は詰まるところ『セリカさんは聖女』であること、しかしレガリアには、王家の血筋以外に聖女と呼ばれる力の者は存在しない。


セリカさんの名前はセリカ・アンテーゼ、実は平民でファミリーネームを使っているのは商人など一部の資産家のみ、さらに貴族や王族ならファミリーネームの前にミドルネームが付いてくるのが一般だ。


当時国王だだったお爺様が密かに調べさせたら、セリカさんのアンテーゼはファミリーネームではなくミドルネームだったらしい。

(本人は誰にでもファミリーネームがあるものだと思っていたらしい。この辺りの一般常識の無さがアリス継承されているんだけど。)

結果、『ある国』にある『とある公爵家』の正当な後継者なのだと。


この事を知っているのは私達王族と一部の最上級貴族、あとはわずかな人間のみ。

もっともセリカさんは、自分を聖女だ元貴族だとは言った事もなければ、自身の過去の話をした事はなかったらしいけど。




「兄様、もちろん剣の組手に付き合って下さるんでしょ?」

ここに来た理由は剣の練習をする為、せっかくですから兄様に稽古をつけてもらいましょ。


「組手って、剣を握って10日程度でそれは無理じゃないかなぁ・・・、まだ模擬剣に振り回されてるだろ。」

「うっ・・、けっ、剣が重いんです!」

12歳の私には、木を削って作られた練習用の模擬剣でもそれなりに重い、いや結構重かったりするんです。


「まぁ子供用の剣はここには無いからなぁ。」

「兄様だって子供じゃ無いですか!」

私はアリスと違い子供じゃないんです!二ヶ月も私の方が大人なんです!

「それに今まで体を動かす事といえば、アリスと一緒にやってるダンスの練習くらいだろ?」


私は王女としてダンスや礼儀作法なんか、小さな時から各種様々な先生方に教育されてきてるんです。

(たまにしかサボってませんから!)

もちろんアリスも当然のごとく私と一緒に練習していますよ?いずれ一緒に社交界デビューするんですから!

アリスは嫌がる?そんなの母様が罠を・・・いやいや、うまく説得してくれるはずです!


「とりあえず基礎練習から見てやるから。」

「うぅ・・、わかりましたぁ。」

まぁ兄様の言われるとおり剣術はおろか、運動なんてほとんどした事がなかったから、仕方が無いんだけれど。


「あっ、でもアリスよりかは運動神経はありますから!」

アリスはその何ていうか、運動音痴だから。一緒にしてもらっては困ります!

ダンスとかは大丈夫なんですよ、ただ・・・走った!と思ったら転ぶし、ボールで遊ぶと必ず顔で受け止めるし、かくれんぼしたら頭だけ隠してそれ以外が丸見えなんです!

もうギャグです!侍女達が笑うのを必死で我慢してるんです!


「あぁ、まぁ、アリスは運動の精霊に見放されてるから。」

兄様が困った顔をしてぽりぽり掻きながら適当に誤魔化してます。

「そんな精霊いないと思うけど・・・。」




現在のレガリア王家には聖女は存在しない、多少力がある者が生まれる場合があっても、聖女と呼ばれるまでの者は生まれないと言われている。

長い間、聖女による祈願がなければ国の大地は枯れ果て、いずれ人々が住めなくなると言われている。

10年前のレガリアの大飢饉まさにそうだったらしい。


当時の国王であったお爺様と神殿関係者は困り果て、他国から聖女をお呼びし、祈願をしてもらおうとまで話がでていたくらいだ。

だがいくら同盟国といえど、国の運命を左右する聖女を他国貸し出しするなど、とても頼める内容ではない。

良い案もでず、皆が疲れて果ててきた時、国内の視察に行かれていた父様達が戻られた。


国中の変わり果てた大地を見てきた父様達は、己の無力さに全員暗い顔をされていたそうです。ただ一人セリカさんを除き。

母様に同行されていたセリカさんは、落ち込む視察団の中で一人怒りの顔でお城に着くなり、「ちょっと神様に話つけてくる!」といって一人『女神の神域』に乗り込んでいったそうです。


「あの時は本当ビックリしたわよ。」

「周りの人間はセリカの言ってる意味が、まったく分かってなかったからなぁ。」

父様と母様が当時の事を思い出しながら笑って教えてくれました。


「行き先に気づいて周りが止めようとしても、急に風が吹いて近づく事もできないし。」

「セリカはお構いなしにどんどん進んでいくでしょ?うふふ」

「もしかして『神域に一人で乗り込んでいった』って噂、本当なんですか?」

父様達はお互いの顔を見つめあって、

「・・ぷっ。」

「・・ふはははっ!」

盛大にわらっていました。

・・・あぁ、本当なんだ、あの噂・・・。


その後セリカさんはお爺様や父様、神官様に説得されるも聖女になる事を断ったそうです。

侍女から待遇面や生活、貴族の位なんかを用意していて、まさか断られるとは思っていなかったお爺様はものすごく焦ったそうで、最後は母様がお願いしてなんとか『アルバイト聖女』として儀式を手伝ってくれるようになったとか。


セリカさん曰く「本業は侍女、聖女はバイト!」だそうです。

セリカさんカッコよすぎです!

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