第0章

第1話 アリスとミリィ

ーー6年後ーー


寝室のソファーで本を読んでいたらノックなしに扉が開く。


「アリス、今日は天気がいいから庭園でお茶にしよ。」

可愛らしい声でそう私に話しかけてきたのはこの国、レガリア王国の第二王女であるミリアリア・レーネス・レガリアご本人様。


平民出身である私アリス・アンテーゼは、なぜ王女様から親しげに話しかけられているかと言うと、実は両親が6年前ある事件に巻き込まれて死んじゃったんです。


お父さんの両親はすでに亡くなっていたし、お母さんはどこか別の国から来そうで、身寄りの居なかった私は施設に入るそうになったのですが、両親と大変親身だった国王陛下ご夫妻が私を有難くも引き取ってくださったんです。


亡くなったお母さんは王妃様の専属の侍女、しかも王妃様になる前公爵令嬢の時から侍女のをされていて大変仲良しだったそうなんです。実は私が生まれたのもお城なんですよ。

一方お父さんは国王様の直属の騎士をやっておられ、子供の頃からの付き合いなんだそうです。

以前お酒を飲まれていた時にお父さんの事を泣きながら教えてくださったのですが、国王様が子どもの頃お城から抜け出して時にお父さんと出会ったそうで、それ以来お城を抜け出してはよく一緒に遊んでいたそうです。


その関係で、ミリィとは幼い時からずっと一緒に過ごしているので、今では友達以上の仲良しさんなんですよ。

陛下も王妃様も、血の繋がっていない私を実の子のように育てて頂いてるので、今はとってはとても優しいお父様とお母様なんです。


っと、ついつい考え事してました。

読んでいた本に一旦しおりを挟んで立ち上がり、ふと先日騎士団長様から頂いた、アルタイル産の茶葉を思い出しました。なんでも香りがとても良かったそうで、お土産に頂いたんです。


「まってミリィ、この間騎士団長様から頂いたアルタイル産の茶葉一度飲んでみよ。」

私とミリィは同じ年の12歳、2人の寝室であるこの部屋はね、もうびっくりするぐらい広いんです!


お母さんが亡くなってからはミリィの部屋で一緒過ごしていて、ベットも天蓋付きの超豪華なんです!二人で寝ても十分な広さなんですよ。

そんな部屋の中から私専用の、紅茶コレクションが入ったチェストから、赤色のリボンが付いた可愛い小瓶を取り出し、部屋の前で待ってくれていたミリィと一緒に庭園へと向います。


庭園に着くとミリィの侍女のエレノアさん達がお茶の準備をしてくれていたので、もってきた茶葉の小瓶から3杯すくってポットに入れ、蒸らす時間を計る砂時計をセットします、最近紅茶の淹れ方を習っていて、時々ミリィと一緒にお茶をする場合、私がお茶を入れたりしているんです。


「アリスは紅茶好きよね」

「紅茶はね同じ種類の茶葉でも、取れる地域や季節で香りや味が違うんだよ、それにいろんな葉を組み合わせたりして、新しい味を探すのって楽しいんだよ。」

「ん~私にはそこまではわかんないかなぁ、あっ、でもこの間のフォートナムのアッサムで作ったミルクティーは美味しかったよ。」


フォートナムのアッサムは、隣国にあるフォートナム地方で取れる品種で春積みの一番茶、香りがとてもまろやかでミルクと一緒にして飲むとても美味しいんです。


「アリスさん、そろそろ時間よ。」

そう言って、エレノアさんが教えてくださいます。

エレノアさんはとても優しくて(時々強いけど)、最近では私が侍女の学園に通う為に必要な実習をいろいろ教わっているんです。


「そういえば来週だよね学園の入学式、お母様がアリスの晴れ舞台を見に行くんだって張り切ってたわよ」

「ぐぶっ」

今なんていいました!?不意をついた驚きに思わず口の中のお茶を吹き出しそうになりながら。

「ちょっと大丈夫?もうアリスは。」

そう言ってミリィが侍女さんからハンカチを受け取って私の口元を拭いてくれます。

「ごめん、ありがとう・・って、、お母様入学式に来るの!?」


来週から私の念願が叶って、ある有名な専門学校に通う事が出来るんです。

ある専門学校というのは執事・侍女を教育する学園で、卒業生さんたちのほとんどが、貴族様のお屋敷で働かれている名門学園なんです。


亡くなったお母さんのような立派な侍女になることが私の夢なんです!

だってよく考えてみてください、平民の私が国王様ご夫妻に育ててもらってる変じゃないですか?

そらぁ、小さいときは何も考えていませんでしたよ?でも私も12歳になったんです!いずれ自立してご恩を返さないといけないじゃないですか。


でも育てていただいたお父様やお母様とは離れたくないじゃないですか、血が繋がってなくても大切な家族だって言ってくれてるんです。


だからミリィに相談して考えた結果、お城で働くことを決めたんです。だからといってお父さんの様な騎士なんて運動音痴の私にはできませんから、ここはやはり侍女しかないでしょ。

お父様とお母様にも相談したら、賛成してくれた上にこの学園の事を教えてくれたんです。


お母様なんて次の日から学園に入学するまで基礎勉強としてダンスやテーブルマナー、礼儀作法にウォーキングレッスンなんかを、わざわざ先生を付けて本格的に教えてくださったんです。私頑張りました!やればできる子なんです!

  

でも今までお稽古していたダンスやマナーが侍女になるために必要だったって知りませんでした。さすがお母様です、私が侍女になりたがるって分かっておられたんですね。


最近ではエレノア先生からも立派なレディになりましたねって褒めてくださったんですよ!

レディ=立派な侍女ってことだよね?


って、それどころじゃなかった。

お母様が入学式に来られるって、これは嫌な感じしかしないんですが・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る