第4話 いつも一緒の2人
受験当日、2人はいつもより早めに起きて朝食を済ませていた。
「ちょっと早いかもだけど、もう行くね」
睦月がそう言うと、母の優美は――
「忘れ物ない? 受験票持った?」
と、ありきたりな質問をした。
「持ったよ、大丈夫。じゃあ、行ってきます」
そう言いながら、玄関扉のドアノブを押し下げて扉を開けた。
むつきは玄関で靴を履いて座り、そわそわしていた。
「もう、行っても良いかな? 早すぎないかな?」
睦月とは違い、落ち着きなくそう母の麗華に聞いていた。
「早すぎて困ることはないでしょ? 大丈夫よ」
諭すように言う母に対して父の恭太郎が――
「必要な物をちゃんと持ったか? 忘れ物するなよ」
と、娘と妻の会話を聞いていたのか、慌て気味にリビングから声をかけてきた。
「持ってるよ!」
父に聞こえるように大きな声でむつきは言った。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」
そうして、むつきは家を出た。
睦月とむつきはそんな風に両親に見送られて家を出た。しかし、タイミングがほぼ同時であったのか、廊下で鉢合わせる。
「あ」
「あ、おはようむつき」
「おはよう」
先に気付いたのはむつきだったが、先に挨拶をしたのは睦月だった。
「タイミングすごいね」
「ね、びっくりした。せっかくだから、一緒に行こうよ、むつき」
「うん」
それから2人はマンションを出て最寄りの駅へ向かい、地下鉄に乗って志望校へと向かった。
2人が志望校の最寄り駅で降り、地上への階段を上がると、少し雪がちらつき始めていた。それに混じっておそらく、同じ高校を受験するであろう人達がたくさん歩いていた。
「たくさんいるね。あれ、みんな同じ学校に向かってんのかな?」
「多分、そうじゃないかな」
緊張し始めていた睦月は、いつもより素っ気ない態度で返事をした。
「睦月、もしかして緊張してんの?」
「そりゃあするでしょ。むつきはしてないの?」
「してないこともないけど、睦月ほどじゃないかな」
などど、緊張が
しばらく歩くと、志望校の校門が見えてきた。
「受験票見た限りだと、別の部屋っぽいよね」
「うん、そうだね」
流石のむつきも少し緊張しているようだった。
「じゃあ、私先に行くね」
「あ! ちょっと待って。約束、覚えてるよね……?」
「忘れてるわけないでしょ、じゃあ行くね」
「うん、お互い頑張ろうね」
睦月がそう言うのを見届けてから、むつきは校門を通り抜け、校舎へと入っていった。
それから、少し遅れて睦月も校舎に入った。
全ての科目の受験が滞りなく終わった2人は帰路に着いていた。
自宅マンションに着いたところで、これまた偶然鉢合わせ、エレベータに乗り合わせた2人。
「やれるだけはやったし、大丈夫だよね」
「むつきがそう思ったなら、大丈夫だよ。お疲れ様」
「睦月こそ、お疲れ様」
2人が
エレベーターを降りた2人はいつものように廊下を歩き、自宅玄関の前に着いた。
「あのさ、むつき」
「うん? 何?」
「この前の約束なんだけどさ。合格発表は別々に見に行って、この前行った
「何それ、面倒だね。でも……いいよ、睦月がそうしたいなら」
睦月の要望に渋々、応えるむつき。それを聞いた睦月は――
「本当? それじゃあ、合格発表は1時間くらいずらして行って、結果を見るので良い?」
「それで良いよ。で、大通公園には何時に行けばいいの?」
「お昼ちょうどの0時にしよ」
「うん、わかった」
2人は改めて約束しなおすと「それじゃあ」とお互いに別れを言い、家に入っていった。
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