第2話 15年後の幼馴染み

 同じ日に同じ病院で産まれた2人は15歳になる14日前、すなわち2015年の元日を迎えていた。

 1月は冬、真っ只中なだけあって、地面は白い雪で埋め尽くされていた。

 そんな雪道を慣れた足取りで高橋家、松中家、合わせて6人で市内にある一番大きな神社に向かって歩いていた。

 毎年6人で初詣をする、それが両家の恒例行事となっていたからだ。


「ねぇ、睦月は今年どんなお願いするの?」

「そんなの言ったら、叶わなくなりそうだから、言わない」

 神社へ向かう道すがら、睦月とむつきがそんななんてことない会話をしていると――

「今年で2人も15歳……、4月には高校生になるのね」

 麗華がひとり言のようにつぶやいた。

「もう15年も経つのね、本当にあっという間」

 優美はそれに反応して答えた。松中と高橋はそれを聞いてうんうん、と頷くだけだった。

 それからしばらく歩き、神社の鳥居前に辿り着いた。

「やっと、着いたよー」

 鳥居をくぐりながらむつきがぼやく。

「何言ってんの、10分も歩いてないわよ」

 麗華がそう返し、母娘らしい会話をしながら手水舎ちょうずしゃに行き、手と口を清めた。


 神門しんもんまで来ると、人の波がすごいことになっていた。

「毎年そうだけど、あまりの人の多さに酔っちゃうよね」

「そうだね。あ、はぐれないように手繋ご?」

 睦月は去年までそうしていたように、ごく自然に手を繋ぐことを提案した。

「え……いいよ、大丈夫」

「でも……」

 睦月はただ心配に思い、食い下がったが――

「本当に大丈夫だから」

 と、少し冷たく言い放つむつき。そんな風に言われると、睦月も流石に出した手を引っ込めざるを得なかった。

 ものすごい人の数だったが、ちょっとずつ列が進みようやく、拝殿はいでん前にある賽銭箱の前まで行き、6人全員で参拝を済ませた。


 賽銭箱から離れたところで。

「そうだ! 高校受験の合格祈願しようよ、絵馬に書こ?」

「いいね! 書く書く」

 むつきの思い付きに睦月は快く賛同した。早速、2人は絵馬を購入してお互いに合格祈願のむねを絵馬に書き込み、絵馬を奉納ほうのうした。

「よし、これで同じ高校に通える事間違い無しだね!」

「神頼みばっかりじゃなくて、ちゃんと勉強しなよ、むつき」

「言われなくても、わかってるわよ」

 松中夫妻はお互いに優しく真面目だが、その子どもであるむつきは、それとは正反対な性格で割と強気な性格をしていた。一方、睦月も両親のあっけらかんとしていたり、適当な感じとは違いすごく真面目な性格をしていた。

 そのせいもあってか、睦月とむつきはお互いに本当は両親が違うんじゃないかと疑う時期もあった。しかし、今はお互いそれぞれの両親とちゃんと似ている部分も出てきて、やっぱり親子なんだなとそれぞれ納得していた。


 家に帰る道中、睦月が思い出したように――

「そうだ、今年の誕生日はどうする?」

「うーん、そうだねー……あ! 私見たい映画があるんだ。それ観にいこうよ」

「良いね、どんな映画?」

「アクション……かな」

「むつきは相変わらず、派手なのが好きだね」

「別にいいでしょ」

 そんなことを言っている間にマンションに着いていた。

 エレベーターにみんなで乗り込み。15階に着きそれぞれの自宅玄関まで行くと――

「それじゃあ、また」

「ええ、失礼します」

「またね、麗華さん」

「はい、優美さん、それではまた」

 などとお互いの両親は挨拶すると先にそれぞれの自宅へと帰っていった。それを睦月とむつきは見送った。

「じゃあ、私も。睦月、15日だよ、絶対忘れないでね」

「今さら忘れるわけないよ。お昼ご飯は家で食べてから行こう。だから、家を出るのは……13時でいい?」

「うん、それでいいよ。……あ、だめじゃん! 15日は平日だよ、学校あるじゃん」

「あ、そうだったね。じゃあ、今年は……17日の土曜日にしよっか」

 携帯端末でカレンダーを見ながら睦月はそう提案した。

「わかった、じゃあ17日の土曜日ね。じゃあね」

「またね」と睦月が言い終わる前に、むつきは家の中へと入っていってしまった。

 そそくさと家に入ったむつきは――

 年齢的にもそろそろ気恥ずかしさもあり、幼馴染みってここまでするのかな、と思い悩んだりしていた。そのせいか、近頃は少し素っ気ない態度を睦月に対して取ってしまうことも、また悩みの一つだった。

 しかし、むつきはその行動が恋のせいだとは、今はまだ気付いてはいなかった。

 一方、廊下に一人取り残された形になった睦月。

 睦月も表面には出さないが、ただの幼馴染みの関係よりも一歩先へ進みたい、そんな淡い恋心を抱き始めていた。

「あーあ、うまくいかないなー」

 誰もいなくなった廊下で、思わず口に出してぼやく睦月。そんな自分に嫌気が刺すわけではないが少し肩を落としつつ、家へと入っていった。

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