第6話 彼女からの送り物


「蒼太くん、そういうことだからうちの子を向日葵をよろしく頼むよ。」

 向日葵のお父さんの切なく、しかし誠実でまっすぐな言葉に僕は口を開けることができなかった。

 

すこしでも向日葵のために何かできないかとすぐに病院へと足を運んだ。

 重たい病室の扉を開けて中に入ると、そこにいたのはパソコンに向かって熱心に小説を制作をしている向日葵の姿だった。

「おはよ。調子は大丈夫?」

 熱心にパソコンに向かっている向日葵はいつもとは違い、すごくそわそわしているように見えた。

 そして向日葵はパソコンから手を放し、涙を流して話した。

「蒼太くん、私どうなっちゃうの?このまま私の小説で人を喜ばせることもできず死んじゃうの?ねぇ答えてよ・・・」

「大丈夫だよ。向日葵はそんな事で負ける子じゃないって僕は知ってるよ。調子もすぐよくなるし、小説もきっと一人でも多くの人に見てもらえるよ。」

「嘘、そんなの嘘だよ!そんなこと聞くために君に質問したんじゃない!」

「でも、僕は・・・」

 向日葵は泣きながら僕の言葉を否定し続けた。まるで全てを見通してるかのように・・・僕の言葉はただの飾り言葉に過ぎなかったのだ。

「ごめん、今日は帰って・・・」

「うん、わかったよ」

 僕は静かに病室を出て、家へと帰った。

「なんで、怒っちゃったんだろ。私、どうかしてるよ・・・あんなに励ましてくれたのに。もう一度、蒼太くんに会いたいよ・・・」


 家に着き、異様に重たい家の扉を開けて中に入ると玄関先の電話に留守番電話が一件入っていた。学校の先生からで何でも、渡すものがあるという。

 僕は後悔するとともに何もかも面倒になった。向日葵に影響されて書いていた小説を破り捨て、そのままベットに横になり、次の朝を迎えた。


 学校へ行くといつものように向日葵の席は当然、空いていてすごく虚しい気持ちと共にまた後悔の念が込み上がって来た。

 悲しい気持ちを堪えながら、席に着くと担任が茶色の見るからに重たそうな封筒を持って教室に入って来た。

「清水!これは高階のお父さんが向日葵の気持ちだと蒼太くんに言って渡してくれと頼まれたものだ。ちゃんと受け取れ。」

「そんなもの・・・」

 僕はこの時、無意識に担任に反抗していた。

「コラァ!清水!ちゃんと受け取れと言ったはずだ!お前は人の気持ちも受け止められんのか!」

 担任はすかさず物凄い剣幕で僕に喝を入れた。

「わかったよ」

 僕は面倒そうに受け取り、席へと向かった。

「なんだ?その封筒、見てみろよ」

 前にいた友達に言われ、イラっとしてしまい殴りかけてしまったがそれを必死にこらえた。

「お前、彼女と喧嘩でもしたのか?」

「ご察しの通りで」

何も知らない友達の返答に知っておきながらイラつきを覚える。学校の方にはみんなには諸事情によりと伝えて言っているらしい。

 

結局貰った封筒は1時間目から4時間目まで開けることはなかった。

 

やる気のなかった僕は授業中もただふさぎ込んでいた。そして昼休みになり、ようやく高校の裏庭で決心して開けることにした。

 中には大量の原稿が入れられていて、一番上には一つの手紙が添えられていた。

「また、読んだら感想よろしくね。私はいつまでも待っています。」

 僕はその手紙を下にして読み進めていった。

 題名は「ひまわり日記」

 私の名前は高階向日葵。この物語は高校生の女の子がある男の子、蒼太と恋をする物語。

 この一文を読み、僕は照れながらもこの小説の内容を薄々感じることできた。

 この小説は実話と空想の話が混ざった物語。

 ということは向日葵がどんな気持ちだったかが分かる・・・僕は小説を読み進めた。

 すると、向日葵が何故あんなに怒っていたのかその全てが記されていた。

「私はうすうす感じ始めていたんだ。もう私の体は限界なんだって・・・病室の外から聞こえて来たお父さんとお医者さんとの会話で確信した。」

 僕はこの文を見てはっきりとわかった。

 向日葵はすでに体のことを知っていたんだ。しかもお父さんたちとの話を聞く前からもうすでに・・・

 僕は向日葵がどれだけ辛い気持ちをしていたのかはっきりとわかった瞬間、涙が零れ落ちてきた。

 そして、その続きにはこう記されていた。

「私はこの高校生活を舞台にした物語と高校1年生にしては早い婚姻届けをお守り代わりに入れてあなたに届けよう。」

 ここで文章は途切れていた。

 僕はその一文にびっくりして、もう一度その封筒の中身を確認すると本当に婚姻届けが入れられていた。

「気が、早いんだよ・・・」

 僕はそれをみてさらに涙が溢れだした。

「向日葵はこんなに、僕の事を・・・僕はあの時ただただ質問に答えただけ、もっと他に言ってあげることはたくさんあったのに」


 そう後悔した時だった。

「一年 清水蒼太、お電話です。至急、職員室に来て下さい。」

 いきなり、呼び出しがかかった。なにか急ぎの電話らしい。僕は嫌な予感がした。僕は急いで職員室まで駆け上がり電話に出た。

 嫌な予感は的中した。

「向日葵があの子が・・・」

「すぐに向かいます!」

 僕は全身が脱力しそうになったのを堪え、職員室を飛び出した。

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