第5話 仲直りの先に
9月に入り、向日葵との関係を修復しようと必死になっている頃の事だった。
向日葵はいつものように放課後になると原稿を取り出して小説の制作をするはずが今日はそのまま帰ろうとしていた。
夏休みの事で傷つけてしまったことを自覚していた僕はとっさに向日葵の事を呼んだ。
「向日葵!」
「どうしたの?清水君。私に何か用?」
向日葵に名字で呼ばれたのは初めてかもしれない。夏休みの事で本当に傷ついしまったのだと確信した僕は 修復のために必死に説得し、ようやく約束をこぎつける事に成功した。
立ち寄ったのは高校の近くにある喫茶店。
僕は必死に謝った。そして遅すぎる誕生日プレゼントを渡した。
「本当にごめん・・・自分の事ばかりで周りの事、見えなくなってた・・・」
「・・・。」
「僕なりに考えた結果・・・気に入らないかなぁ・・・許されないという事はわかってる・・・でも、
もう一度・・・」
「いいよ・・・ありがとう〜。蒼太くんの気持ち、ちゃんと受け取ったよ。今回はこのプレゼントに免じて許してあげます!」
向日葵は渡した僕と向日葵との思い出の写真とメッセージが書かれた色紙を見ながら、いつもの無邪気な笑顔で答えてくれた。
「ありがとう〜これかもよろしくお願いします!」
こうして向日葵との仲を取り戻した僕はまた一緒に小説活動を始めた。
この時、僕は思っていた。こんな楽しく過ごせる日々がずっと続けばいいのにと・・・
しかし、現実は甘くなく楽しい日々は簡単に砕け散る事を僕は知る由よしもなかった。
あれは、太陽の力が衰え始める一方で月は凛々しく輝き、秋の訪れを感じられる頃の事だった。
学校では僕たちの関係はすでに友達に知られていて、気付けば温かく見守ってくれるようになっていた。
いつものように放課後、向日葵のそばにいき一緒に小説を制作をし、また一日を終えようとしてる時にその日は突然やってくるのだった。
「じゃあまた明日ね〜」
いつものように、私は蒼太くんと別れを告げると家へと足早に帰った。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
お父さんと弟の明るい声が私を迎えてくれた。
「棗、今日もお利口にしてた?」
「うん!」
私の弟、棗は元気に返事をした。
そして夕食を家族一緒に食べ、さっそく小説の制作を始めた。
「お姉ちゃん、早く寝ないとだめだよ〜」
「うん、わかったよ〜棗も早く寝なよ」
「ふぅ〜。今日も蒼太くんと小説作りたのしかったなあ〜。たまには蒼太くんに何かお礼をしなくちゃいけないなぁ。今日は遅いし寝ようかな。あれ、おかしいな、体に力が・・・入らない・・・」
いつものようにパソコンを畳み、寝ようとした時だった。
私は体に力が入らず、そのまま意識を失ってしまったのだ。
気づいた時には見慣れない天井が見えていた。
その周りにはお父さんと弟の姿が見えた。
「目、覚めたかい。今、ナースさんを呼ぶからね」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
棗が心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫だよ。そんなことより、早く学校に行かないと。」
「だめだよ!お姉ちゃんがいつまで寝てたか知ってる?」
珍しく、棗が怒った姿を見た気がする・・・
私は棗に言い返そうとするとナースさんが来た。
「高階さん、大丈夫?」
「今は何月何日ですか?私は何をしていたんですか?」
私は慌ただしく、ナースさんを問い詰めた。
「落ち着いて、今日は10月22日ですよ。」
私は驚いた。確か、蒼太くんと別れた日が20日ということは、2日も私は寝ていたということになる・・・
そんなことを考えると私は焦りを隠せなかった。
「蒼太くんは?学校はどうなってるの?」
「落ち着くんだ。目を覚ましたことを蒼太くんにも学校にも連絡しておくから安心しなさい。」
お父さんは焦る私を必死だ安心させようとしてくれた。
「それで、私はなんで、病院にいるの?」
「過労だって・・・」
お父さんは何かを隠すように教えてくれた。
「目を覚ましてすぐ、動くのはよくないからもうすこし休んだ方がいいですよ。」
ナースさんの優しい声を聞き、私は嫌々ベットの方に潜り込んだ。
「じゃあ、お父さんたちも行くね。」
そういうと、私の病室からは誰もいなくなってしまった。
ふと目に飛び込んでくる窓からの景色は殺風景に見えてすごく虚しく、哀しい気持ちになった。
私は哀しくなる気持ちを抑えながら、言うことの聞かない体を動かして空気を吸いに病室のドアを開けようとした時だった。
すると外で、知らない低い声とお父さんの声が聞こえてきた。
「うちの子は大丈夫なんですか?」
「今は、大丈夫ですよ。しかし、昔からの持病でしょうか?体が弱くなり回復が著しく低下しております。このままだと・・・」
「もう、あの子の悲しい顔を笑顔がないあの子をもう見たくないんです!どうにか、ならないでしょうか?」
私は体に何が起こっていることを全て聞いてしまった。その時、人生で2回目の絶望を感じた・・・
「蒼太くん、今頃何をしているの?」
そしてその事はすぐに僕のところまで入って来た。
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