第4話 すれ違い
「あ、そうだ。ここまで来たんだし、お父さんに会いに行こうよ。久しぶりに、蒼太くんの顔を見たら喜ぶと思うよ。」
向日葵のお父さんに会うのは当然、小学校以来の事だ。妙に緊張していた。
「う、うん」
向日葵の家はこのヒマワリ畑の近くですぐに到着した。
家にはいろんな種類の花が植えられていて、すこし懐かしく感じた。
玄関の扉を開けて向日葵のお父さんを呼ぶ。
「蒼太くんが来てるよ~」
向日葵が呼んだ瞬間、おとうさんが飛んでやってきた。
「こんにちは。何年ぶりかな。高校に入ってまた会えるなんてって向日葵も喜んでいたよ。大きくなったね」
僕はいきなりの展開に戸惑いながらも挨拶を返した。
「中学校の一件は申し訳ございませんでした。家の事情で引っ越しをして、向日葵の事も考えずに連絡もよこさず・・・」
お父さんはとても冷静だった。
「自分を責めるのはダメだよ。それだけ向日葵の事を思っていてくれているなんて嬉しいよ。」
「いや、そんな僕は向日葵に何もしてあげられていないです。」
「そばにいってやってくれるだけで十分だよ。これからも向日葵の事をよろしくね。」
僕とお父さんのやり取りをみて向日葵は顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。
「せっかくここまで来たんだし、お母さんにも声をかけにいこ。」
お父さんはそういうと向日葵の弟の
「この人だれ?」
「この人はね、向日葵お姉ちゃんの大切な人だよ。」
向日葵のお父さんは丁寧に説明していた。それを聞き、僕たち2人は顔を真っ赤にしてお父さんの方を見ていた。
「よ、よろしくね。棗君。」
こうして僕たちを乗せた車は10分ほどでお墓に着いた。
「ここに来るのは、去年以来かな・・・お母さん、蒼太君が来てくれたよ。もう何年経ったかなあ。向日葵も棗もこうして元気に過ごしています。」
お父さんのの語り掛けに続けて僕たちは手を合わせてお母さんに向かって誓った。
「何があっても向日葵を大切にしてみせます」
横で一緒に手を合わせていた向日葵の表情はとても悲しく切ない表情をしていた。
「さあ、お母さんに挨拶もしたし、そろそろ帰ろうか。みんな笑顔を見せてあげないとお母さんが悲しむよ。」
お父さんは必死でしんみりとした雰囲気を和らげようとしていた。
「いい時間だし、蒼太くんを駅まで送ってあげよ。」
「ありがとうございます!」
僕は元気よく返事をして駅まで送ってもらった。
「今日はありがとう~また来てね。」
向日葵が無邪気に返事をしたことを確認して手を振ってホームへと向かった。
夕方のプラットホームは夏なのにも関わらず、とても涼しい風が足元を吹き抜けた。
今日の事をしみじみと考えながらガラガラの電車の座席に腰掛けると1つの広告を見つけた。
『未来の小説家募集! 題材は自由、気軽に原稿を送ってください!」
僕は広告を見て、居ても立っても居られずにすぐさま向日葵に電話をかけた。
「もしもし、向日葵?」
「急にどうしたの?電車で何かあった?」
なにも知るはずのない向日葵が心配そうに声をかけた。
「うん、電車は大丈夫。突然の事なんだけど、原稿をコンクールに出してみない?」
「・・・。」
急な申し出に向日葵は困惑していた。
「無理にはとは言わない、一回出してみようよ。向日葵ならきっといい結果が返ってくるよ。」
「う、うん。」
向日葵はなにか気がかりなことがあるのだろうか。戸惑いながら返事を交わした。
こうして高校生活、初めての夏休み初日が終わった。
小説のコンクールの締め切りは8月の半ば。よくよく考えてみれば、この日は向日葵の誕生日だった。
僕はたびたびコンクールの為に向日葵の家に足を運んだ。
しかし、小説をかいている向日葵の姿は学校で書いている時のようにいきいきしておらず、どこかつまらなそうだった。自分が出すわけでもない小説に熱心になりすぐていて向日葵の悲しい表情に気づくことすらできなかった。
小説制作が続き、とうとう締め切り当日になった。
「今日は締め切りだよ。ラスト頑張ろ。」
僕が話しかけると向日葵はいつもより暗い表情をしていた。
「そんなんじゃだめだよ。早く仕上げよ。」
向日葵の誕生日だとういうことも忘れて小説に真剣になっていた僕は何も考えず言葉を発していた。
「今日・・・何か覚えてる?忘れたかな」
「なにって・・・小説の・・・」
「違うよ!蒼太くん最低・・・もういいよ。小説はもういいからよく考えて!」
向日葵は僕の発言に怒りを爆発させた。
「1年生最初の夏休みだよ?私、蒼太くんともっといろんなところに遊びに行きたかった。もっと楽しみたかった。私の誕生日、今日だよ。プレゼントはいらない。でも声だけでもかけてほしかった・・・そんなの嫌だよ。」
僕はやっと我に返った。誕生日を忘れて、しかも向日葵のことをわかってあげられなかった。
「ごめん・・・」
僕は誤ることしかできなかった。
今の僕は、ただ小説に没頭する小説家の姿に過ぎなかったのだ。
結局、本来の向日葵の小説は引き出せず、読んでも何の感情も生まれない物語はコンクールにも出すことができず、そのまま消えていった。
向日葵との関係もうまくはいかず、たまに遊びに行っても話がかみ合うとこがなく、まる初対面の人と話しているような気持だった。
このような日々が続き、高校最初の夏休みは向日葵にとっても僕にとって最悪なものになってしまったのだ・・・
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