第3話 追憶

 翌日、相変わらず外は太陽の日差しが容赦なく地上に降り注ぎ、セミが命を削りながら鳴いている頃、

僕は早めにセットしていた携帯のアラームより早く起きて家を出る準備をした。

 あまり外出しない僕にとってタンスの中はほとんどもぬけの殻...適当にある服を丁寧に着こなして家を出た。


 待ち合わせは高校近くの公園。ここには小説が行き詰った時に気分転換に散歩をするところだ。

 僕は余裕を持ってという意味で20分前に待ち合わせの場所に到着した。しかし、そこにはもういつもの制服姿ではない向日葵がすこし退屈そうにしていた。

 「ごめん、遅れた・・・」

 「大丈夫だよ。私もさっき着いたところなんだ。」

 暑い日差しの中、待っていたことを考えるとすこし罪悪感を感じた。

 「暑いし、早く出発しよ!」

 向日葵は早々に駅の方へと進んでいった。

 暑い中、タオルを首にかけて商売をしている人たちを横目に僕たちは駅へと進んでいく。

 ビルが立ち並ぶ並木道や繁華街を越えようやく駅に着いた。久しぶりの電車に慣れない手つきで切符を買ってホームへと向かった。

 運よくホームに着くと同時に電車がやってきた。

 「おぉ~タイミングばっちりだね。」

 向日葵はうれしそうに電車に乗り込んでいく。休日だからだろうか。車内は人で混みあっている様子はなく、座る余裕があるくらいだった。


 僕は座席に座り、景色を見ながら向日葵に話しかけた。

 「今日はどこに行くの?」

 「それは着いた時のお楽しみだよ!」

 向日葵が元気に答えたと思った瞬間、次はどこか悲しくつぶやくように話す。

 「慌てたり、先走っちゃうことはよくないことだよ。今を大切にするべきなんだ・・・」

 そんな悲しい姿を見た僕はなにも声をかけることができず目的の駅に着くまで2人の間には気まずい空気が流れていた。


 やっと、目的の駅に到着した。無言の状態が続いて5分ほどしかたっていないのにとても長く感じた。

 ゆっくりとした足取りでホームから出るとそこに広がっていたのは町から離れたのどこかな田園地帯で自然が溢れるところだった。

 「ここが私の住んでいるところだよ!蒼太くんもここは見覚えがあると思うよ!ここに見せたいものがあるんだ。」

 先ほどの気まずい雰囲気から一転、向日葵は元気そうな声を僕にかけて先に進んでいく。

 昔、ここに住んでいたことを思い出しながら向日葵の後についていく。


 田園地帯を抜けていき、丘を越えて見えてきたのは見かけない家が徐々に増えていった。

 その間、僕たちはたわいもない会話で盛り上がっていた。

 「そういえば、なぜ僕の高校に編入したか聞いてなかったね。」

 「ああ、そうだったっけ・・・」

 「うん。」

 「ただの家の都合だよ。特に意味はないよ。」

 珍しく曖昧な返事をする向日葵に僕はすこし違和感を覚えた。

 「あ、もう少しだよ!」

 向日葵は空気を換えるように僕に話しかけた瞬間、目の前にはとても美しい光景が目の前に広がっていたのだ。


 野原一面にヒマワリが広がっていて、太陽に顔を向けて一生懸命に花を咲かせていた。その中央には一本の大木が立派に育っていたのだ。

 「見せたかったのはこの景色!」

 僕はすごいの一言しか出なかった。

 素晴らしい景色に見とれながら僕たちは大木まで近づいていき、木陰に入りおもむろに話し出した。

 「昨日、図書室で渡した小説、読んでくれたよね・・・あの小説を読んだ感想を教えてくれない?」

 「うん、全部思い出した。小学校の頃に向日葵と出会った事や起きた事、全て。」

 「よかった。思い出してくれたんだね!私と蒼太くんは小学校からの幼馴染。」

 「そう、僕が1人で本を読んでいる時に声をかけてくれた。それがきっかけで僕たちは仲良くなった。」

 「それで、小学校6年生の時にお母さんが弟を産んで亡くなってしまった時、蒼太くんが私にしてくれた約束。」


 僕はその言葉も小説を通じて思い出した。

 『僕はずっと君のそばにいるよ。』

 「でも、僕はそれをすぐに破ってしまった。小学校を卒業したと同時にこの町から離れることになったんだ。でも、この知らせを向日葵に伝える事なく、黙って行ってしまった・・・」

 「うん、何も知らない私はお父さんからその話を聞いたよ。その時ね私、もうどうしていいかわかなくなったんだ。理由を聞いて仕方ないことをわかっていたんだよ。でもね。生まれたばかりの小さな弟の前で思いっきり泣いちゃった・・・それで私は、お母さんとの唯一、記憶に残った思い出であるこのお花畑に毎日通って大木に寄り添って考えた。いっそのこと蒼太くんの事を忘れたほうが楽になるんじゃないかって・・・」


 「この時に私、思ったんだ。この大木にはお母さんが宿っているじゃないかって。そう思うと少しは安心するの。でもね、どうしてもお母さんの事を考えていると、一度は忘れようとした蒼太くんの事を考えてしまうんだよ。忘れる事なんか無理なんだ。そしたらまた急に涙が出てきて・・・」


 僕は泣きながら話している向日葵を見て、思わず抱きしめた。

 「ごめんね・・・もう大丈夫だよ。僕はずっと向日葵のそばにいる。絶対だ・・・」

 「ほんと?」

 「絶対にほんとだよ。」

 「この際だから、蒼太くんに話すね。私、前の高校で全然うまくいかなかったんだ。たぶん、いろんな事で悩んで、知らない間に友達から仲間はずれにされて・・・それで最後、家の都合ということでこの高校に入ったんだ。でも、蒼太くんは小学校の頃のことを忘れていた。すこし悲しかった・・・でも横に座っている蒼太くんのしゃべり声を聞くだけでうれしかった。」

 「ほんとにごめんね、僕は最低なことを・・・でも今度は絶対に離れないずっと向日葵のそばにいるよ。」

 「うん!次、破ったら絶対に許さないからね!」

 向日葵は涙を拭って元気に話した。


 この時の2人は周りに咲いているどの立派なヒマワリよりも元気で明るかった・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る