第2話 彼女の小説
編入生の女の子、向日葵。僕は彼女に違和感を覚えた。
どこかできっと会った気がすると。
編入生の女の子を迎えて、一時間目の授業が始まった。教科は国語。
周りの友達は問題を出題されるとこれ見よがしに手を挙げて答えていた。その様子を微笑みながら見る彼女。その笑みを見るとどこか懐かしく感じたのだ。
一時間目の授業が終わり、当然のように彼女のもとには記者のように、ここに来る前に何をしていたのか、ここに来た経緯などをひっきりなしに聞かれていた。
しかし、記者人は一週間も経たないうちに彼女のもとを離れていて気付けば、一人で座って黙々と何か作業をしていた。
「おい、蒼太!遊びにいこうぜ!」
僕は友達に声をかけられたのにも関わらず、それにも動じず彼女の姿をストーカーのように見ていた。
「おい!大丈夫か。またあの子を見ているのか。」
さすがに2回目の言葉は気づく。
「違う違う。でも、今日はパスで。」
「そうか、珍しいこともあるもんだな。また今度な。」
「おう!」
僕は友達が教室を出ていくとこを確認して、彼女に話しかけた。
「何をしているの?」
「小説を書いているの。私、小説を書くのが好きなの。」
彼女は持っていたペンを置いて返事をする。
「蒼太くんは本を読むのは好き?」
僕は彼女の問いかけにうんと頷く。
「やっぱり、そうだと思った。」
彼女の元気な姿、懸命に作業している姿を見て、僕は彼女の小説を無性に読みたくなった。
そしてダメを承知で聞いてみる。
「ちょっと、いい?君の小説、読んでみたいな・・・」
「・・・いいよ。でも、その代わりに私からのお願い。私の事を名前で呼んで。そして、良ければ私の小説を手伝って。」
彼女は原稿を差し出すと同時に条件を提示した。条件だからと言って無理難題が飛んでくるかと思いきやそんなことはなかった。僕も小説を作っている最中だ。すこしでも力になればと承諾をした。
「いいよ、向日葵。」
僕は顔を赤くする。
「じゃあ、感想をよろしくね!蒼太くん!」
僕は彼女、いや、向日葵から原稿を受け取って教室を後にした。
「君は私のこと、いつ気づくかな・・・私はとっくに気づいているよ。蒼太くん。」
僕は急いで家に帰り、さっそくベットに飛び込んで向日葵からもらった原稿を手に取り、読み始めた。
タイトルは「いつも笑顔の君へ」
あらすじはこうだ。高校生の2人が互いに魅かれていき、最後は結ばれるというどこにでもありそうな青春ラブストーリー。
僕はそんな単純で純粋なストーリーに感激を受けた。僕のような捻くれた物語とは違い、正直でまっすぐな物語。
「すごい、こんなまっすぐなストーリーが書けるなんて。」
僕は原稿をカバンにしまって、つい最近書いていた小説のデータを削除して眠りについた。
翌日、ちょうどこの日は一学期、終了の日。成績が思ったより悪く、もやもやしながら終業式に出た。
終業式もまた、校長の長い話から始まり、諸連絡で終わる。
そして、教室でまた昨日と同じように友達からの誘いを断って向日葵の元へと向かった。
「どうだった?」
話しかける前に向日葵から感想を聞かれた。僕も感極まり、即答する。
「うん、とてもよかったよ。まっすぐで純粋な小説。僕、もっと向日葵の小説が読みたくなった!」
「ほんと?よかったよ!私、もっと頑張るよ!」
その向日葵の元気な声と嬉しそうな姿に本格的に小説を手伝うことを決意すると共にすこし、恋心も芽生えていた。
「実は今日、蒼太くんに読んでもらいたい物語があるんだ。とりあえず、図書室にいこ。あそこなら静かだし。」
もちろん、僕は向日葵の小説を読むために向日葵に負けないくらい「うん」と元気に答えて一緒に図書室へと向かう。
女の子と一緒に歩くのは小学生以来の事で少し緊張してしまった。そんな中、向日葵は楽しそうに鼻歌を歌っていた。
図書館に着き、空いている席を見つける。ここは教室と違ってとても静かで、校舎を隔てて聞こえる運動部の掛け声と冷房の音くらいで、別世界にいるような感覚だった。
「この、小説を読んで欲しいの。その間に私は新しい小説の内容を考えておくね。」
「ありがとう~」
僕は向日葵から新しい小説の原稿を渡されて、読み進めた。
今回の小説のジャンルも青春ラブストーリー。
題名は「愛する君の元へ」
とある小学校に仲のいい男の子と女の子がいた。2人にはある1つの約束があった。
それは「いつまでも一緒にいよう」というものだ。
しかし、その約束は簡単に破られてしまう。男の子が転校して離れ離れになってしまうのだ。
だが、一転。男の子が高校へと進学したときに編入生として女の子がやってくる。最初は気づかないものの、女の子と接している間に気づくことに成功する。
そして2人はまた小学校の頃と同じ約束をして、今度は絶対に破らないと誓うという物語だった。
僕はこの小説を読んだ瞬間、最初に向日葵に見た時に感じた何とも言えないもどかしさ、違和感が一瞬にして消え、昔の事を全て思い出した。
小学校の頃、僕にも仲のいい女の子がいた。名前は高階向日葵。
元々、僕は体が弱くていつも教室で本を読んでいた。
そこで、気を使って仲良くしてくれたのが向日葵だった。
どんどん仲良くなっていく僕たちは後のちにこの小説と同じ約束を交わし、そして同じように約束を破ってしまう。
僕は馬鹿だ。なんで、すぐに気づくことができなかったんだ。
この小説の内容を見た限り、向日葵はもう僕の事を...
「向日葵!僕は・・・」
図書室に響きを渡るような声の大きさで呼んだものの、反応したのは向日葵ではなく、明日から夏休みというのに、熱心に勉強をしていた人たちだけだった。
よくよく考えれば、本を借りると言ってそのまま姿を消してしまったのか・・・
そしてぽっかりと空いた席には手紙が置かれていた。
「私から呼び出したのにごめんね。明日から夏休みだったよね。明日の朝は暇かな?蒼太くんに見せたいものがあるんだ。小説の事じゃないんだけど付き合ってくれる?」
僕は手紙を見て、即座に行くことを決めた・・・
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