彼女からの送り物
きたばぁ
第1話 再開へ
君は文学について考えたことがあるか。
小説を読むのは好きか。一度でも自分から進んで物語を考えたことはあるか。
僕の名前は清水蒼太。
僕は文学が好きだ。こんなに文学に惚れ込んだのもあの子に出会ってからである。
このお話は文学を教えてくれたあの子と出会い、文学の道へと進んでいく僕と1人の女の子のお話。
あれは、辺りの雪が解け始めて木々が精一杯、蕾を芽吹かせようとする3月。僕は学力が乏しく、唯一できる国語を武器に文学の高校への入学を決め、悠々と卒業式に出席していた。
中学時代は作文などをうまく書けることを理由に小説を書き始め、完成させては友達に見せてすごいねと言われるごとに小学生のように喜んではしゃいでいた。
しかし、書くのが面倒になり、すぐにやめてしまった。何の目標もなく中学校生活を過ごしたせいか、点々と泣いている子も見受けられたが、僕は卒業式で一度も泣くことはなかった。
見慣れた並木道や商店街、その1つ1つを僕は懐かしなぁなどという感情も持たず、ひたすら帰路を歩いていった。
家に着き、玄関を開けると珍しく母が立って、迎えてくれた。
「卒業、おめでとう!」
式典で嫌というほど聞かされた事をまた聞き、なんとも言えないなという気持ちになる。
僕は投げやりに「ありがとう」と答えて自分の部屋に入り、高校へ行く準備を始めた。
高校の制服を見ているとどこか新鮮な気持ちになった。今ならできると思い、書くのをやめていた小説を書くことにした。
しかし、中学1年から2年の頃のような楽しくてのびのびとした小説は書けず、いつも誰かが命を落としたり涙を流している小説ばかり書いていた。
親からはもっとハッピーエンドな小説は書けないのかと言われ続けていたが、無理矢理、ハッピーエンドに繋げようとすると次は曖昧なストーリーになってしまい、話の流れがおかしくなってしまう。
試行錯誤を繰り返しているうちに春休みが終わっていて気づけばもう入学式の日。
入学式は恒例と言わんばりに校長のとても長い話が始まった。しかし、なにか小説の題材にならないかと小学生の頃からまともに聞いたことがなかった校長の長くて退屈な話を聞くことにしてみた。
内容は入学祝いと文学について。
文学の高校なのだから当然の事だろうと思い、特に題材になるものは見つけられず、そのまま入学式が終わり、誘導されるがままに教室へと向かう。
つい最近、改築されたばかりの高校らしく、教室は中学校の時のような独特なホコリの匂いはせず、すがすがしい気持ちになった。ここなら新しい高校生活をスタートさせることができる。そう思った時だった。
「ちょっと、いい?」
前の男の子が話しかけてきた。
「あ、いいよ」
「君はなんでここにきたの?」
「え?」
僕はいきなりの核心的な質問にびっくりしてしまった。
「あぁ僕は国語しかできないから。だからここくらいしか来るところがなかったんだよ」
「そうなんだ。俺、なんにもないなぁ。ただ家から近いって理由だけで来たからな。なにか見つけられるかな」
男の子は遠くを見て思いに浸っていた。
「まぁそれはそうとこんな事を言うために話しかけたんじゃなかった。どこか遊びに行こうぜ。他にも行くやついるし、この際みんなと仲良くなろうぜ」
自由人すぎるだろと思いながら、すこしぐらいにならといつもは断るような誘いを受け入れた。
こうして、高校の生活も慣れていった頃だった。
僕はいつものように遅刻ギリギリに起き、いつもの通学路を自転車で猛ダッシュして学校前の急な坂を駆け上がった。
学校に着くといつもとわからない顔ぶれを見ながら教室へと向かう道中のこと。
職員室のほうで多数の先生が1人の見かけない子とその親らしき人を囲んで話をしていた。また、悪さをして呼び出されているんだなと思いながらその場を離れた。
教室に入るとまたいつも、同じ友達にどこかに遊びに行こうぜと声がかかる。
そんな会話をしているとその直後に朝のチャイムが鳴り響く。
「チャイム、狂ってる?鳴るのが早い気が・・・」
「お前がもっと早く来たらチャイムが鳴るのが遅く感じるぞ」
こんなアホみたいな会話を席でしていると担任が入ってきた。
「お前ら静かにしろ〜!」
担当がいつものように面倒くさそうに生徒を黙らせる。
そこから出席に入ると思いきや今日はすこし雰囲気が違う。
「今日は編入生を紹介する。入ってきなさい」
もしかして、編入生って朝、先生達としゃべっていた子か?珍しく、僕の頼りない勘が働いた。
真新しい教室の扉がゆっくりと開き、1人の女の子が入ってきた。教壇の上に行き、黒板に自分の名前を書いて元気よく自己紹介を始めた。
「
文学の高校というのに、小説を描くと言った瞬間、皆からどよめきが起きた。
「それじゃあ、席は清水の横の空いている席があるからとりあえずそこに座ってくれ」
不自然に空いていた僕の隣の席に向かって歩き始める。
制服を綺麗に着こなし、笑顔があふれる編入生の子に僕の周りの友達は口々に「可愛いなぁ」などと感想を並べていた。
女の子が席に座り、持っていたカバンを机の横にかけ、僕に声をかけてくれる。
「よろしくっ!」
「こ、こちらこそよろしく」
僕はぎこちなく、返事をする。その一部始終を見ていた。前の席の友達にからかわれながら女の子を見て思ったことがあった。
この子とはどこかで1度会った気がする。
しかし、どこで会ったのか、どのような関係だったのか思い出すことができない。
やはり、彼女の様子を見る限り僕について何かを知っている。いや僕たちの関係を全て知っている。そんな気がしたのだ・・・
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