第5話

冒険者ギルドに足を踏み入れた俺達はいきなり当てられた気迫に気圧されそうになった。


それもそのはず、冒険稼業で稼いでる屈強な人達の中に子供も連れた、いかにも弱そうな俺達が入っていったからだ。


俺達がギルドの入口付近で固まっていると1人の見覚えのある冒険者が声を掛けてくれた。


「おう!お前らソルティーヤのだろ?こんな所でどうしたんだ?」


「あ!おじさん!いつもありがとうございます〜。白が冒険者志望だから連れてきて上げたんだよ〜」


そう、この気作な冒険者は我が下宿先のソルティーヤの常連さんなのだ。

因みにアップルパイが大好物らしい。


「お、坊主冒険者志望だったのか!」


「ま、まぁ一応…」


「それにしちゃあヒョロヒョロだなー、もっと筋肉付けろ!」


そう言ってバシバシと俺の背中を叩く。

い、痛い!冒険者の力って頭おかしいくらい強いんだから手加減してくれよ…


「ま、冒険者やりたいってんなら止めないさ。なんたって夢が詰まってるからな!ほら、あそこのギルドの姉ちゃんとこ行って登録してきな」


「ありがとうございます。…フィーナ、イリアの面倒見といて貰える?」


「いいよ〜任せといて!」


そう言うとフィーナはイリアの手を引きテーブルの方に歩いていった。


よし。と気合を入れ直した俺はルウと共にカウンターの方へ近づいた。

…ま、周りからの視線が痛い。


「本日はどうされました?ご依頼ですか?それとも冒険者登録ですか?」


俺とルウに気づいた若い女性のギルド職員は丁寧に尋ねてくれる。


今気づいたけど、ギルドの職員さん達って皆めちゃくちゃ美人さんだ…

このギルド職員さん達と話すために冒険者やってるって人が居るって言う噂もあながち間違ってないのかも知れない。


「あ、あぁ…ぼ、冒険者登録で、お、お願いします」


「しっかりしてくださいよ!恥ずかしいです!いくら美人のお姉さんだからって言って鼻の下伸ばしすぎです!!」


しどろもどろしている俺を見かねたルウが注意してくる。

あと、別に鼻の下伸ばしてないから…


「あはは…では、まずこちらのカードに必要事項を記入してもらえますか?」


「分かりました…」


お姉さんは顔を引き攣らせているように見えた。

俺は名前や歳などを記入し、お姉さんにカードを渡した。


「ありがとうございます。それでは今から職業適正検査を始めますね」


「職業?」


俺は小声でルウに質問する。

すると、ルウは俺の肩から飛び立ち頭の上に移った。

そしてわかりやすくこの世界のシステムを教えてくれる。


「この世界では冒険者から始まり、非常に沢山の職業があります。例えば剣士だったら一概に「剣士」ではなくて、盾を持ち防御力に特化した「シールドナイト」だったり攻撃スキルの強い「セイバーナイト」だったりです」


「なるほどなー、それは楽しみだな」


「では、ここに一滴血を垂らしてください」


そう言ってお姉さんはとある魔道具を指指した。

言われた通りに針で指に少し傷を付け、一滴垂らした。

すると魔道具に備え付けられた宝石が目まぐるしく色を変え、銀色に変わった所で落ち着いた。


「あら」


「また白は珍しいのを引きますねぇ」


お姉さんは驚いた顔をし、ルウに至っては笑いを堪えている様に見える。


「ん?なんだ?もしかして強いの引いた?」


「いやぁ、珍し過ぎるんですよ。この職業」


「笑いながら言うんじゃねぇよ」


笑いをもはや堪えようともしなくなったルウの反応に心配になりながら俺はお姉さんの方を向き直る。


「ど、どうだったんですか?」


「え、えぇーとね?」


お姉さんもどことなく戸惑っているらしい。

そんなに強い職業だったのかな。


「白さんが職業として判定されたのは「グリモア」です」


「グリモア?」


「グリモアって言うのは魔法職の一つですよ」


ルウがグリモアについて説明をしてくれる。


「お、魔法使い!良いじゃん。何が珍しい職業何だよ」


「いや、魔法職自体は珍しく無いんですが、グリモアの方が珍し過ぎるんです。」


「え?」


「魔法職には大きく分けて「ウィザード」と「グリモア」の二つがあるんですけど、普通ウィザードに適性を示すんですよ」


「何でだ二つしか無いんだったらグリモアだけが珍しいとか有り得なくないか?」


「まぁ、最後まで聞いてください。魔法職の振り分けはある条件が関係してると言われているんですよ」


「条件?」


「はい。性格や魔力量、魔力適性など合わせて128個の条件に置いてグリモアを発現するのはたった三通りしか無いんですよ」


「三個!?じゃあ俺はその狭き門を突破したのか!」


自分の引きの強さに顔を崩したその直後、ルウによって再び絶望へと戻された。


「珍しいのは珍しいんですけどかなり癖の強い職業なんです」


「癖?」


「グリモアは攻撃系統の魔法以外は全てアーカイブと呼ばれる魔道書を読み解く事で使えるんですが、戦闘においてイマイチなんですよね」


俺はお姉さんに視線をそらすと


「はい。グリモアが使う魔法は基本的に付加魔法になりますので直接的な殺傷力は皆無。また、防御魔法に至ってはウィザードの足元にも及ばないんです」


そう言うお姉さんは苦笑いをしてる。


「なんで…こうも上手く行かないんだ」


俺は膝から崩れ落ち、両手をついて項垂れる。


「そ、そんなに気を落とさないでください!幅広い魔法が使えるのは大きなアドバンテージですし、今までの偉大な魔導師はグリモアが多かったんですよ!」


「そうなんですか…」


お姉さんの励ましにますます気分が沈む俺であった。






俺たちは冒険者ギルドを出てソルティーヤに向けて帰路についた。


未だ落ち込み気味の俺に片腕で抱き抱えられているイリアが「どうしたの?」と

心配してくる。


「大丈夫だよ。ちょっと自分の運命力の低さに絶望しただけ」


イリアは小さく首を傾げる。

すると、俺の横を後ろ手を組みながら歩いていたフィーナが不思議に思ったのかルウに尋ねかける。


「白くんの職業ってそんなに酷いものだったの?」


「いえ、そういう事では無いですよ。少々癖の強いだけで」


「なら、頑張ろうよ!きっと偉大な魔法使いになれるよ!」


そう言って俺が荷物を持っている手に抱きついてきた。

完全な不意打ちをくらい、女の子特有の柔らかさに顔が熱くなる。


「な、慰めてくれるのは嬉しいけど、荷物落ちるから…離れてフィーナ」


フィーナから顔をそらし、そう告げた俺に対しフィーナは俺の腕から離れるとむぅっと膨れて見上げてきた。


「な、なんだよ…」


「いや?そんなに私って魅力無いかなぁって思っただけ」


そんな事考えてやがったのかこいつは。

むしろフィーナより理想的な女の子が居るかって位魅力的な癖に。

ふわふわな水色の髪の毛に優しく柔かな表情と顔つき、それに人懐っこい性格だぞ?

年下だけど日本にいた時だったら告白してたわ。


俺が顔をしかめながらそんな事を考えていたら


「フィーナさん、安心していいですよ。こいつは多分『世の中でフィーナ以外に魅力的な奴なんて居ないだろ。』とか考えてますから」


「あ、やっぱり?」


「おい、ルウ!何で俺の思考が読めるんだよ!あと、フィーナもやっぱりってなんだやっぱりって!」


俺がほぼ照れ隠し気味につっこむとフィーナとルウは二人して顔を見合わせ、ニヤニヤと笑っている。


もう、勘弁してくれ…


「まぁまぁ、元気出してくださいよ」


「誰のせいだと思ってんだ」


俺はルウに対して半眼で唸る。

すると、ルウは「しょうがないなぁ」と言いたげな表情で腕を腰に当てた。


「私が直々に魔法を教えてあげますから元気出してください」


「お前、人に魔法教えられんのか?」


「し、失礼ですね!私を誰だと思ってるんですか!妖精族屈指のエリートですよ!?」


ルウは怒りながら俺達の前をふよふよと飛んでいる。


「はーい。じゃあよろしくお願いします。エリートさん?」


「あぁぁぁ!ムカつきますね!!覚悟しといてくださいよ!?みっちり鍛えますから!」


「くすくす」

「あははは」


そんな俺とルウのやり取りを見てイリアとフィーナは笑い出す。


夕日に照らされる俺達は傍から見たら家族の様に見えたかもしれない。

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