第3話

俺たちは荷物を部屋の中に入れ、少女に連れられて再び一階へと降りてきた。


「おとーさーん、おかーさーん!働ける人見つかったよぉ!」


少女は両親に聞こえるように大きな声でそう言って、俺たちを厨房と思われる場所に案内してくれる。


お父さんの顔を拝見しようと、厨房の入口から恐る恐る覗いてみると、そこで俺たちを待ち構えていたのは…


…………ドラゴンだった。


いや、少し違う。見た目は人なのだが頭に大きな角が二本あり、背中には翼の様な物が付いていた。


「な、っ…え、ええええ!?ドラゴン!?」


初対面にも関わらず喚き散らす俺にそのドラゴンさんはゆっくりと振り返り、睨んでくる。

その眼光は睨まれただけで射殺されそうで、しかし、目をそらす理由にもいかず負けずに睨み返す。


暫くそうしていると、ドラゴンのおじさんはニャりと口を歪め、ガッハッハと豪快に笑い出した。


「え、え?ど、どどぉどうしました?」


ドラゴンおじさんの突然の大笑いに戸惑い、驚きを隠せない俺達。

すると、ドラゴンおじさんは俺の方に寄ってくると肩をバシバシと叩き、


「よく、目を逸らさなかったな。最近の若いもんはすーぐに顔を背けるからなぁ。大したもんだ」


「は、はぁ…」


怖くて逆に目を逸らせられなかった何て言えないな…


「お前さんなかなか見込みがあるな。どうだ?ここで働かないか?」


「いいんですか?是非!働かせてください!!」


仕事を探していた俺にとってはめちゃくちゃ嬉しいお誘いだ。断る理由なんて微塵もないな。イリアとルウ、特にイリアの世話にもお金は必要だし。


「おお、話が早いな。おいリサ、こいつにエプロンを持ってきてくれ」


リサと呼ばれた奥さんと思われる女性は倉庫を漁ってる。

俺はリサさんのいる倉庫の近くまで行き、


「あの、すみません?」


「はい?どうかした?」


リサさんは少しこちらに振り向き柔らかい笑顔をしてくれる。


「あの、僕。保護者とか初めてで…何を揃えたら良いのかとか分からないので後で教えてもらえませんか?」


「あ、そんなこと。いいわ、後でリストアップしとくから」


柔らかい笑顔のまま俺に新品のエプロンを手渡し、了承してくれる。


俺は少女とおじさんの所に戻り、エプロンを身につけた。


すると少女は何故か目を輝かせ、キラキラした瞳を向けてきた。


「似合ってるじゃない!えぇっと…」


少女は急に言葉に詰まる。

(こいつ誰だっけ?)と思ってそうに眉をひそめる。


あ、そう言えば自己紹介してなかったな。

俺は背筋を伸ばし、襟を正した。


「自己紹介がまだだったな。俺は三奈坂白。歳は18。特技は家庭業務?…んで、この子がイリアでこのふよふよ浮いてるのがルウ」


それぞれ紹介するとイリアとルウはペコリとお辞儀をした。


少女は急にパァっと表情を明るくさせる。


「白くんにイリアちゃんにルウちゃんね!おっけー。あ、私はフィーナっていうの。歳は15だよ〜♪」


そう言うとその場にかがみ込み、イリアの頭を撫で始める。


フィーナに撫でられてイリアは顔を綻ばせて少しくすぐったそうにしている。


この可愛さ天使かっ!?あ、イリア天使だったわ。


フィーナとイリアを見て和んでいる俺を見てルウが機嫌が悪そうに半目で睨んできた。


「ど、どうしたんだよ。風邪でもひいたか?」


「いや…『この可愛さ天使か!?あ、イリアは天使だったわ』と思ってるような顔をしていたので。あと、妖精族は風邪になんてかからないですから。」


「そそっそ、そそそそそんなこと無いし!?それにイリアが天使級に可愛いことなんて世界の心理だっ!」


「………………」


相変わらず半目で無言で睨んでくるの ルウさん…

思ってた事と一言一句違わないとは恐れ入りました。


「そ、そんなことより。俺は何をしたらいいんだ!?」


ルウの無言の圧力に耐えられなくなった俺は無理やり話を変える。


「あ、白くんは基本的にお父さんの厨房の手伝いで、それ以外は………うーん、雑用かな!」


手近にあった椅子に腰掛け、膝にイリアを座らせていたフィーナがそう言ってくる。


「分かった。要は雑用しながら厨房手伝えばいいんだな」


「うん。そーだよー」


すると「てーいんさーん!すいませーん」


と客から呼び出しがかかり、「はーい」と返事をして、フィーナはウェイトレスの仕事に戻っていく。


「しろにぃ、お仕事するの?」


不意に下からイリアから尋ねられる。


「そうだよー。俺はここで店員さんとして働くんだよ。ルウといい子にしててくれよ?」


「はーい!」と元気よく返事するイリアの頭にぽんぽんと手を乗せる。

そしてルウの方を見て


「ルウ、イリアの事見ててくれよ?」


「いいですよ。白はしっかり働いてくださいね」


「おう!」


うん、こういう時ルウって凄く頼りになるな。まだ会って間もないけども。


「よしっ」と気合を入れ直した俺は厨房に再び足を踏み入れた。


すると、中で待ち構えていたおじさんが調理台に置かれた大量の野菜や肉、魚を指差していた。


「新人には取り敢えずこれの下ごしらえをしてもらうか(ニヤリ)」


(ニヤリ)じゃねぇえええよ!!!

一体どれだけあんだよこの食料達は!!


「頼むぞ」


言い返そうとしたがドラゴン顔で睨まれた俺は反抗心が叩き壊され、頷くしか出来なかった……

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