第5話
「……こいつらから目的とかを聞き出したいところだが、いつまでもここに居る事の危険の方が大きい。というわけで、ここを出るぞ」
「賛成だね。警察が捕まえてくれれば後で聞き出す事もできるだろうし」
カナタが同意したところで、ダニー少年が納得していない面持ちで話しに入ってきた。
「いや、あんたら、今さっきのどうやったんだよ? もしかしてあんたらよくテレビやネットで騒がれてるエスパーってやつなのか?」
「ん~、ふふふふふぅ~。実はですね~」
「それはそうとして、ここから出るぞ。周囲に連中の仲間が居ないか気を付けろ」
「そんな事言ったってどこへ行く気だよ。デカいおっさん」
「病院地下に車が停めてある。そいつで逃げるぞ。それから俺はハチェットって名前があるんだ、ダニー君」
「あれ? ボクはスルーですか? ねえ!?」
どうにか襲撃者たちに見つからずに病院地下の駐車場まで来た3人。
「……おいおい。マジでスルーかよ」
「喜べよカナタ、これからお前の車で逃げるんだからな」
「で、どの車で逃げるのさ」
「コイツだ」
ハチェットはすぐ横に停めてあった乗用車を指さす。
(え、何これは……)
ハチェットが指さした先、そこにあったのはかなり派手な色使いと共にアニメか何かに出てくるような黄色のツインテールの少女の絵がボンネットやドアにデカデカと描かれている車であった。
(……マジか)
「フフ~ン、驚いたかい? オレの自慢の痛車なんだぜ」
カナタが本当に10代の少年のような表情で自慢気に語りだす。
「この日本でも人気のソングロイド、『始音ミカ』のイラストを車体に描いてもらうのは、まあそこそこの出費が……」
カナタの自慢話は途中からダニーの耳には入っていなかった。彼が考えていたのはただ一つ。
(乗りたくねぇ……)
「んじゃあ、行くか。連中もまさかこんな派手な車で逃げるとは思ってないだろ。これなら裏をかけそうだ」
カナタの自慢話など放っておいて、自分はさっさと運転座席に乗り込むハチェット。続いて仕方なく後部座席に乗り込むダニー。
「え、ちょ、待てよ!」
カナタが遅れそうになりながらも助手席に乗り込むと同時に発進する。
「何だあの車は!! 撃て! 逃がすな!!」
3人が乗り込んだ車はすぐさま発見され、容赦なく銃弾が撃ち込まれる。
「ギャアアア! やめろ! 撃つな! オレの車だぞ!!」
すぐさま発見され撃たれる自分の車にパニックになり叫びをあげるカナタ。
「おい、カナタ! 何が良い考えだ! すぐ見つかったじゃねえか馬鹿野郎!!」
「ああ?! これで行こう、つったのオメーだぞ! 1ページどころか数行前の話だぞ! ふざけんじゃねえぞハチェ公!」
「おい! そこのクソFBI2人組! 後ろから火が出てるって! てか前見ろ! あいつら車でバリケード作ってるって!」
ダニーは完全にパニックだが、当然である。
「やべえ、ハチェット降りるぞ! 一緒に来い、ダニー ……ああ、ミカさん」
カナタがダニーを抱えて車から跳び降りたのを確認すると、ハチェットはアクセルを踏み込み、撃った連中が固まっている所へと突撃する!
「オラッ、これでも食らえ――――っ!」
そのまま痛車は車のバリケードへぶつかり爆発した! その少し前、ぶつかる前にハチェットは運転席から飛び降りていたので無事だった。起き上がると炎上している痛車へと駆け寄る。
「てめえら……」
痛車のドアをつかみ、何とそのまま車体から引きちぎるとそのドアで手近に居た襲撃者へ殴りかかる!
「てめえら! よくも俺の親友の車を壊してくれたな! こいつはお礼だ!」
全力でドアをぶん回し、襲撃者の男は放物線を描きながら吹っ飛んだ。
「よしっ……!」
ハチェットが襲撃者たちを吹っ飛ばしている一方で、カナタは炎上する自身の車を前に呆然と立ち尽くしていた。
「ミカさん……」
落ち込んでいるカナタの肩へハチェットが手を置く。
「ミカさんの犠牲があったから俺たちはこの状況を脱する事が出来たんだよ。……彼女は英雄だ」
「ハチェット……」
……正直、引っかかる物が無い、いや、貯水量限界のダムのように言いたい事が今にも溢れ出てきそうだったが、それはそれとして自分の好きなキャラを“英雄”と呼ばれてカナタはまんざらでもなかった。
「いつかブロンズ像を建てような」
「いらねーよ!! マジで!! ……ったくさてと、色々と危なかったけどダニー君は無事だぜ。これからどうする、ハチェット?」
「そうだな……そこにあるまだ無事な車に乗って逃げようぜ。持ち主はまだそこでのびてるようだから勝手に乗っていこう」
「さんせ~い」
捜査官ハチェットの暴力的な事件簿 @tora_icet09
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