第3話

「それじゃあ、犯人の顔とかは見なかったんだな」


「……………………はい」


 ダニー少年が入れられた個室でハチェットは彼の証言を聞こうとしたが、結局、大した成果は得られずに終わった。


 そもそもダニーの体調と精神面を考えればすぐに話を聞きに行くというのは、もっと後にするべきだったが、ハチェットの強引さとダニーのそれでもという協力によって行われたので、思った以上に収穫が少ないのは落胆する事実であった……。


 落胆からか天井をぼんやりと見つめながらハチェットが病室の丸椅子に腰掛け、カナタが(やれやれ)といった様子でそれを見ていると、ダニーが「あの」と声をかけてきた。


「何だ」


 視線を天井からダニーへと向け直すハチェット。


「2人は……親子とかなにか?」


「いや、違うって!!!! そんなわけねえだろ!!!!」


 ダニーの疑問を即座に否定するカナタ。……190センチで80年代少年漫画の登場人物のような体格のハチェットと159センチで一見少女のようにも見えるカナタを比べれば、そう思えなくもない。


「大体どこが似てるのさ! 何か共通点ある、ボクら!?」


「髪、髪の色」


「そりゃ2人とも黒いけどさ!」


「……シッ。静かにしろ」


「え、何それ」


 カナタの質問を無視してハチェットは窓際まで行き、カーテンを閉める。


「何してんの、この人。おじさんなのに中2病なの?」


「心配するな、俺にウイルスやバクテリアに感染している兆候は無い」


 ハチェットは至って真面目な顔で言った。


「いや、そうでなくて。ん、ああ、……なるほどね」


 いつの間にかハチェットの隣にいるカナタがカーテンの隙間を覗きながらダニーへと告げる。


「いま見たけど、隣のビルの屋上に引き下がる人影を見た。君を狙ってたと思うよ」


「ウソついてんじゃねぇ、子どもだと思って僕を怖がらせようとしてるんだろ。親が死んだばかりの子どもにそんな事して良いと思ってんのか――」


 その時、病院内に連続した破裂音が鳴り響いた。――銃声、このアメリカ国内に住んでいる人間なら直感的に理解できる音だった。


「ああ。もう突入して来やがったか。さて、どうするかな」


 捜査官ハチェットは実に淡々とした口調で言うのであった――。


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