彼の目的

 体が痛い。四肢のあちこちから出血しているのがわかる。駄目だ、動かなければ。こんな痛みに負けていたら、なんにも守れない。仲間の2人は戦っているのに、手も足も出ない己が情けない……!


 目の前にいるのは、必ず何があっても守るって誓った大事な仲間たち。今まで一人で生きていた自分に、喜びも悲しみも、怒りも嬉しさも全部与えてくれた。そんな2人と一緒に旅をすることがただ楽しくて、だから強くなろうと努力した。

 でもそれは所詮、自惚れだったと思い知らされた。いつだって世界は非情で、上には上がいることなんて、わかっていたのに。それを見て見ぬふりをしてしたのは他でもない自分だった。


 目を逸らし続けた結果が、今の目の前の光景だ。急なことだった。襲撃してきた相手は狩人で、こっちは狩られる側。彼らの目的は自分じゃなくて、大事な仲間の方だった。

 圧倒的な力を前に、自分のなかまが一気になくなるかもしれない。湧き上がってきた恐怖を振り払うように、ただひたすらに剣を振るった。


 仲間の制止を振り払って、ただ剣を振るう。出来ることはそれしかないから。とはいえ、そんな剣が通じる相手ではないことはわかっていた。その時の自分は、泣きじゃくる子供のようだったかもしれない。

 本当に怖かったのだ。仲間が目の前から消えてしまうかもしれない、そんな予想を覆したかった。でも、そんな覚悟のない剣はことごとく狩人に弾かれ、結果として地面に伏してしまった。


 そんな自分を、仲間たちは身を呈して守ってくれている。狩人相手に愛用の鎌を振るっている彼女と、自分の傷を癒している彼。こんな時に嬉しいなんて感じているのだから、自分は相当の愚か者だ。


 鎌を持つ彼女はいつも冷静で、何かと熱くなりがちな自分のストッパーとなってくれている。厳しさの中に正しさがあり、いつも自分を叱咤して成長させてくれる存在だ。その冷静さに何度助けられたことか。

 揺るぎない誇りを持って、決して屈しなくて、そんな彼女が羨ましいと思うことが何回あったか。それに見合うだけの実力も持っているし、頭もキレる。強者という言葉がまさに似合う。

 手当てしてくれている彼は心優しくて、本当は争いごとが嫌いなのに。いつも戦いの中にいる自分や彼女を、いつも心配してくれて傍にいてくれる。豊富な知識を持ち、それを活かすことが得意で、その頭脳にいつも助けられていた。考えなしの自分にも色々教えてくれるし、彼女を宥めるのも彼じゃないと無理だ。自分の信念を貫く気高ささえも感じて、見習う点が沢山ある。


 自分が旅を始めて掴んだ大切な光。神にも祈った、守って欲しいと。なのにどうして神はこんなにも残酷なんだろう。いや、神なんてものは始めからいないのだろう。

 己の弱さを神のせいだと責任転嫁して、それで得られるものなんて当然なくて。


 だから自分は光を失ってしまったんだ。



 気が付くと、天上には青い空が広がっていた。2人の仲間もろとも、狩人もいなくなっている。夢なのかと錯覚したが、傷の痛みが忘れるなと現実を突きつけてくる。


 空っぽになった世界を見て、自分が感じているこれはなんだ?

 解放感? そんなわけない。

 悲壮感? 自分が原因だというのに馬鹿げたことを。

 義務感? 何に対してだ。


 あえて言うなら、孤独感だろうか。見知らぬ世界に一人取り残されたような、そんな感覚。無理だ、そんな世界で対して強くもない自分が生きていけるわけがない。


 ならここで死ぬか──なんて、そんなの無理に決まっている。

 勇気も決意もないのに。


 ならどうしたらいいのだろう?


 自問自答してどのくらい時間が立ったのか、わからない。それでもようやく答えを見つけ出せた。


 とにかく、2人に謝りたいと。

 謝って謝って、それからもし許してくれたらまた一緒に旅をしたい。


 目的が出来たのだ、いつまでも置物のままではいられない。痛みを堪えながら立ち上がり、贖罪のための一歩を踏み出した。

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