第15話 side:B 蕾だった恋

僕の眼前に広がったのは、廃墟のようなボロボロの体育館だった。

黒田さんが先生に懺悔の時間だと言った瞬間に、体育館に灯っていたり、差し込んでいた光は術でが途絶えていた。暗闇に目が成れたと同時に灰色の世界に支配された。

僕の目の前には探偵の黒田さんと花隅先生がさっきまで話していた、体育館の中心にいた。


「な・・・・なんだ・・・ここは!!」


驚いた様子で花隅先生はあたりを見渡していた。

彼はこの世界を見た事がなかったのか。


「―――っ!!眺野・・・・・・・お前の仕業かああああああああああ!!」


「え・・・」


先生と目があった瞬間に、先生は僕に飛び掛かった。

不可解な現象を起こしたのを僕だと思ったのだろう、僕に向かって飛び掛かってきた。

避けようと思ったが今の僕は俊敏に動くことができなかった。

このまま、襲われるそう思って、目を閉じた。


「      ひっ!!ぁ・・・・・あ・・・・・・ぁ・・・・・」


いつまでも衝撃は来なかった。

それどころか、覚えるような声を上げていた。

ゆっくり目を開けると、花隅先生は僕から距離を取って、怯えていた。


「先生?」


「あ・・・・なぜ・・・・・ぁ・・・・」


何に怯えているのか、僕にはわからない、でも、花隅先生の眼は僕ではなく、僕の後ろを見ている。

僕は、後ろを振り返ったが、ボロボロの体育館の壁が見えるだけだった。


「・・・・?」


「あなたには見えないですよ、花隅が今、見ているのは自分で殺した奴らですから」


「ころした・・・?」


「ええ、」


「や・・・やめろ・・・・たすけてええええええええ!!」


黒田さんがいつの間にか、僕の近くまで来て、車いすを引いて、その場から動かしてくれた。先生は動く僕らを見て助けてほしいと言うように手を僕に伸ばした。

僕は思わず伸ばしそうになったが黒田さんが彼の手を蹴り飛ばした。


「触るんじゃあねぇーよ、テメーの仕出かしたことだろう、テメーでどうにかしろ」


「い、いやだあああああ・・・・た、助けてくれ!死にたくない!!死にたくない!!」


「安心しろ、死なねぇーよ、おまえは一生、悪夢の中だ」


僕が何かを言う前に黒田さんが彼の言葉に返答する。

何が起きているのか、僕にはわからなかった。


「探偵さん・・・・なにが・・・起きているんですか・・?先生は、どうしちゃったんですか?」


「ああ、この世界は死者があの世に行くための通路のような世界だと俺は解釈しています。今、アイツの眼の前にいるのは、アイツが殺した、アイツの罪が目の前に現れているだけです。俺らに見えないのは、あいつ自身が作り出したものだからです」


「作り出した・・・・?」


「ええ、アイツが作り出した、悪夢があいつの前に立っているだけですよ」


僕の目に見えない、彼らは先生が作り出した幻だという、なら、なぜ、僕らはここにいるのだろう、僕がこの世界を観ているはなんなんだろう、そう考えたいたとき、ガタンという、音が聞こえた。善人がその音の方を見る、古くなって軋む体育館のトビラが開いたその場所に立っていたのは、僕があの日、あの頃に憧れた、彼女、谷真音がたっていた。


「・・・・・・・先輩・・・・?」


「・・・・さぁ、彼女をこの場所から、解放させてあげてください」


「え・・・」


「彼女は、貴方とあいつによってこの世界に留まっていたんです、奴は欲望によって彼女を捕まえようと、そして、貴方の彼女を守りたかったという思いに導かれて、この世界をさまよっていたんです。

奴は、悪夢に囚われた、もう彼女を触ることは許されない、あとは、貴方だけです」


黒田さんは、そう言って車いすを押して、彼女の前まで連れて行ってくれた。


「先輩・・・・?」


「・・・・・」


不思議だった。

自分の放った声があの頃の高さに戻っているようだった。


「ごめんなさい・・・・・ぼくが・・・・もっと・・・」


眼から自然と涙が流れる。

あの頃の姿のまま、止まってしまった、彼女や、他のみんなを思う。

もっと、強ければ、もっと賢ければ、貴方を、皆を救えたかもしれない。


「守れなくてごめんなさい・・・・みんなを・・・あなたを・・・守りたかった、怖かったですよね・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」


もうそれしか言えなかった。

何を言っても、言い訳にしかならないからだ、もう、彼女も先生たちもあの時いたみんなも、もう戻ってこないのだから、この声が彼女に聞こえているかは分からない、確認のしようもなかった。届いてなくてもいい、それでも謝りたかった、生き残ったことを後悔していた。

友達も先輩たちも後輩たちも先生も死んでしまったのに、自分は生き残った、生き残ってしまった。警察に捕まったとき、死ななかった事への罰だとさえ思った。

だから、すべてをあきらめた。


「みんな・・・・ごめん・・・・」


取り返しのつかないことだと分かっている、もう、何もかもが遅い事も、それでも言葉も涙も止まらなかった。

その時だった。温かい何かが僕の頬を撫でた気がした。

それに続いて、頭も撫でられる、それを皮切りに体にたくさんの重みを感じた。

よく見るとみんなが、僕の周りにいた。


みんな、あの頃の姿で笑っていた。


「みん・・・・な・・・・・っ、ほんとに・・・・ごめんね・・・・」


そう言うと先輩たちは呆れた顔をした。

それを見て、同輩と後輩たちはクスクスと笑っている様子を見せた。

けど声は聞こえなかった。


「さぁさぁ、みなさん、そろそろ、終わりの時間ですよ」


黒田さんの声を合図に、みんな、体育館を出て行く、扉を超えるとみんな霧のようになって消えてしまう、その時の表情をみんな、苦しそうではなく、僕に手を振りながら笑っていた。

最後になり、木村先輩が先に出て行こうとした、後、谷先輩も行こうとする。


「ま、まって!先輩!!」


思わず呼び止めてしまった。


「僕・・・・ずっと・・・・あなたの事・・・・!!」


ずっと、胸の中に残っている物、叶わないと分かっている、でも、いま、言ってしまえと心が叫んでいる気がした。


「ずっと・・・・、好きでした・・・・憧れてました・・・・・こんな時に何言ってるんだと思ってます。聞こえていなくてもいいです、ただ、言わせてください・・・・俺、先輩の事、大好きでした。」


幼稚な言葉、大人になったのにいい言葉がまったく思いつかなかった。

これで終わり、これが最後、返事のない、手紙の用にこの言葉は、彼女に届いていないのだろう、そう思っていた。

また、ふわりと感触が僕の顔を撫でた。


「せんぱ・・・・・」


『・・・・・・ありがとう、真人くん』


そう、先輩が言った。

それと同時に扉から差し込みだした。光の眩しさに目を細めた。


「・・・・・眺野先輩!!」


大人びた声が聞こえた。

昔はついテールのよく似合う、可愛い後輩だった、水谷の声だ

ゆっくりと目を覚ます。

そこは、少しボロくなった、懐かしい体育館だった。

心配そうな顔で僕を見ている、水谷と安道先輩がいた。


「驚いたぞ・・・電気が急に消えて、ようやくついたと思ったら、君の意識がなかったんだから・・・・」


「・・・・・・よかったぁ・・・・先輩・・・・無事で・・・・」


泣きそうな水谷が僕の膝の上で顔を伏せた。


「きく!・・・きく!!」


舞台の方では探偵さんを起こそうとする記者さんがいた。

するとようやく目が覚めたのか、探偵さんが体を起こした。


「ひいいいいいいいいいいい!!やめろ!!やめろ!!オレに、オレに近づくなああああああああああ!!」


「・・・おい・・・こいつどうしたんだ?」


「目を覚ましてから、ずっとあの調子なんだ・・・」


警察の人も先輩たちも、先生の様子に戸惑っている。

だが、探偵さんだけは、平然と答えた。


「ああ・・大丈夫だ、ちょっと、精神をきたしたように見えるが問題ない、奴は正気だ、いや、いっそのこと狂えたら良かっただろうな、明日には戻ってるだろうから平気だ、連れてけ」


「お、おう・・・・おい!たて!!」


「ひいいい、たすけてくれええええええええ!!」


「うるせぇぞ!大人しく、歩けってんだ!!」


二人の警察官に両側を支えられながら、体育館を出て行った。


「・・・・・」


「お、わったの・・・・・」


「これで・・・俺たちの事件は、おわりなのか・・・・」


「ええ、おわりですよ、奴は裁判にかけられ、罪の重さが決定されるでしょう、アイツが生きている限り、彼らへの償いは終わらないでしょうがね」


「・・・・・・」


僕らの苦しみはここで終わったと告げられた。

肩の力が抜けた気がした。



僕らが見ていた、悪夢がようやく終わったのだ。


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