第14話 side:A 悪夢の恋

「私はただ、真音を、愛していただけだ!!」


決定的で最低で、最悪の一言。

生涯、私は、これほどまでに嫌悪する愛はないだろうと思う。

人を殺し、生徒を殺し、挙句にその愛していた人を奴はその手で殺めたのだ。

何と恐ろしい、何とおぞましい、彼の愛は、もはや形容してはならない物だった。


「・・・・・・・なら・・・・なら、なぜ殺しだんだ!!」


「そんな・・・・そんな言葉が、通用するものか!!」


眺野氏と安道氏が、奴に言った。

その言葉に反応してなのか、奴は目の色を変えた。


「・・・おまえが・・・・・お前が言うな!!眺野!!」


「――――っ!」


「おまえが、おまえが、おまえがあの子に近づくんじゃない・・・・あれは、私の物なんだよ・・・・なのに、あの子は、わたしに気付きもしない!!、木村もだ!!私の許可なく、彼女に近づいて!馴れ馴れしく話しているんだ!!死んでよかったさ!!他の奴らだって、そうだ!!私が真音を贔屓するのは、当たり前だろう?なのに・・・なのに、なのに、なのに、火村は!!塩田は!猫背は!!それはよくないことだからやめろと、注意してきたのだ!!なぜだ!!何がダメなのだ!!あの子は私のなのだ・・・私の物だ!!」


ついに本性を現した男、にしてもひどい言い分だ、正気とは思えない

自分のしている事を正当だと言い張っている、何とも救いようがない。


「はははははは・・・私は間違っていない、それに、毒死している奴らはどう説明するんだ!!私は直接、手を下していないんだぞ!!」


「そんなものは簡単だ、あんたは、あらかじめコップにニコチンを溶解させたものと睡眠薬を塗ったんだ、誰が当たろうと、あんたはどうでもよかったんだろう?それに毒死だしな、使われようとつかわれなかろうとどっちでもいいトラップだった。自分の痕跡をなるべく残さないようにするのにはちょうど良かっただろう」


「――――っ!!あの時の木村が言ったのは!!」


「ええ、おそらく、見たのでしょう、外にいた、花隅先生の姿を・・・・」


「――――っ!しんでない・・・!」


「ええ、彼が最後に残した言葉、花隅先生、あの人は死んでない、という事だったんだと・・・」


「おまえ!、それいつ聞いた!!」


「おまえがいないときにな」


いつ知ったのか知らない情報を聞いて、問い詰めたら俺がいない時だと!あの時か!あの見失ったときか!

木村さんが最後に残した言葉、それは、死んだはずの先生が生きている姿だった。

それを知らせようとしたが毒に侵され途切れたものだったらしい。


「先生たちは生徒を人質にとって殴ったり、首を絞めたりして殺したんでしょう、水死は些か、大変だったでしょうがうまくやり逃げて、発見させた。毒を飲んだ二人を見届け、見事睡眠薬を引き当てた皆が移動したのを見計らって殺そうと思った。しかし、眺野さんはコップを洗い流していたので睡眠薬を飲まなかった。だから、頭を殴り気絶させた。そのあと、あんたは谷真音の首を絞めた。みんな殺してしまおうとしたが、貴方はもっといい方法を思いついた。

眺野さんにすべてをなすりつける、あんたはすべての証拠を抹消し、作り上げたんだ、時間はいくらでもあった。学校があくまでの時間をたっぷり使ってな、そして、あんたは、まんまと逃げだせたってわけだ」


「・・・・・・」


「ひどい・・・・」


「なんて・・・むごい・・・・」


立った一晩に起きた出来事、教師たちは生徒を守ろうと死の恐怖を受け入れ死んでいったに違いない、だが、彼らの願いもむなしく、生徒もろとも死体で発見された。

こんなひどい事を奴は一体どんな顔でやっていたのだろうと想像もしたくない。


「だが、オレを捕まえられないはずだ!!だって、証拠はなーにんもないんだからなぁ!!あはははははははははは!!!」


確かに、すべての証拠を抹消し、作り上げた、どんなに探してもヤツがやったという証拠はどこにもない、これでは、奴を捕まえられない。

というか、もう、隠そうとしなくなったな。


「きく・・・」


「確かに、生徒、教師の殺害の隠ぺいは、な、しかし、ホームレス殺しは、どうかな・・・」


「は?」


奴の大笑いが止まる。

もうだめかと思ったが、きくにはまだ、何かあるようだ。


「おまえは、ホームレスの男を自分と入れ替えた、そうだ、おまえの来ていた服、被害者の物だとばかり、思われていたもの、それをな、よーく、調べると髪の毛が一本出てきたんだよ、それを調べると、どの遺体のDNAにも当てはまらないそうだ、だが、おまえ、健康診断を受けたな?」


「なにィ?」


「そこにあった、花隅みつるの血液を少しだけもらって検査したそうだ、そしたら、一致した」


そう言って、きくが取り出したのはさっき警察の人達に渡された、紙だった。

そこにはこのDNAはほぼ同一人物と書かれている。

何故程というのは、交友検査結果ではたとえ、本人であっても99・9しか表示されない

これらは、まぁ、DNA検査の歴史を調べれば自ずと見えてくる、何が言いたいのかと言われれば、99・9は本人だと断言できる物だという事だ。


「それから、火村先生たちの遺体発見現場からも、人の汗が発見されていた。だが、死人の物だと検査されていなかった。すべての証拠を一から検査診断、判別すべてやらせた、もちろん足跡もな、おまえは速めに死んでいるはずなのに、縄から、撲殺現場から、水死死体の一人からも本人の物ではない物が発見され、おまえの物だと判別されている」


「なんだと・・・・」


「まぁ、死人の物だと思われていたんだ、いくら分かっても、事件の前に着いた物だと思われ、詳しくは調べられなかったのだそうだ・・・・そして、おまえの罠にどんどんはまってしまい、眺野氏の逮捕に至った、しかし、おまえの死体が別人だと分かれば、いくらでもあんたにつながる証拠は出てくるんだよ」


「そんな・・・はず・・・」


それ、昨日の夜からずっとみんなに頼んでいたことだったらしい、リストの中から気になるものを調べさせた。

古い物かどうかを判別させ、その時でない物は除外し、ほしい情報だけを集約させた。

居てはならない時間に彼が動いていたという、証拠を片っ端から調べたんだと鑑識さんたちがのちに語った。


「決定的な、殺しの証拠はおまえがすべて、変えてしまったからないが、おまえが死んでいなかったという証明はできた。

いやー、最近の科学技術は進歩しているし、優秀な鑑識官、調査官たちがいることだ、人の皮膚から指紋が取れたんだ」


「しもん?」


「ああ、事件が起きた時の科学ではものすごく難しくて、取ることが不可能に近かった。しかし、最新の方法で壊れずに取るのことができた、おまえが唯一自らの手で殺した、谷真音の首からお前の指紋が検出された、手袋をはずしてやったみたいだな、死んでいたおまえが生きていたことを証明できた。そして、最後の被害者の首を絞めた、決定的な証拠、もう、言い逃れはできんぞ・・・・」


事件現場の学校に、花隅が動いていたという間違いのない証拠たち、あの時の警察は前提を間違えたがために犯人の罠に引っ掛かってしまった。

納得がいかない、そう思っていた刑事さんたちすべてが思っていた事だった。


「ここにある証拠がすべてではない、あくまで持ち出し許可が取れただけの物だ、署に行けばいくらでもお前がいたという証拠は揃っているぞ」


見せられるモノだけを持ってきてもらった。だが、それだけでも十分だった。

この男が現場を動き回っていたそれが証明できたのだから、これで、十分だと少なくとも私は思っていた。


「フ、フフ、フフフフ・・・・」


「な、何がおかしいんだ!」


なぜか花隅は笑った。

私は奴に問いかけた、がばりと顔を上げたとき、ヤツの目は我々を見てはいなかった。


「そうか!!真音の首に私の・・・・・この私の指紋が!!あは・・・あはは・・・・あははははははははははははははははは――――――っ!!そうだ、もう、真音は、私の物だ、誰にも触れない、あの子は私の手の中で死んだ!!ずっと、ずっとずっとずっとっずっとず――――――っと、私の物だ!!彼女の魂は、永遠に私の物だ!!あははははははははははははははは!!!!!」


「なんだよ、こいつ・・・くるってやがる・・・・」


この状況でここまで大声で笑っていられる、花隅は狂っている、自分が何を言っているのかホントに分かっているのだろうか、嫌悪と恐怖が我々の身を震え上がらせた。


「・・・・いい加減にしろよ・・・・」


「きく・・・?」


私の横で探偵はそう呟いた。

普段頑丈なぞあるのかと思うほど表情の変わらない男、だが、今は、その声が恐ろしく低かった。


「簡単に連れて行かせるわけねぇーだろうが・・・・お前の懺悔はこれからなんだよ・・・・」


「あはははははははは・・・・・あ?何か言ったか?」


奴には聞こえていたのか、きくを挑発する。


「ああ・・・・・懺悔の時間だ」


きくがそう言った瞬間、体育館に入ってきた明かり、照らしてくれていた光がすべて、途絶えた。次に私が花隅を見たとき、彼は怯え謝罪の言葉を繰り返していた。まるで、気が狂ったように、ただ、謝り続けていた。



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