第7話side:A 少女の影

現場を一通り見回った。

当時の被害者は相当、心に負担があったのだろうと思う、逃げ出したり動きたくないと言って、留まろうとした者、先生たちは見捨てず親身になって説得や追いかけたりして、死んでしまったのだろう、大人がいなくなった後の生徒たちは、苦労を重ねた、だが結局生き残れたのは三人だけ、その悔しさは相当だっただろう。


「そういえば、生徒たちの持ち物に何かヒントになるものはなかったのか?」


「ええ・・・何にも無かったですよ、なのに、折り手紙があっただの、写真があっただのと言われましてね」


「折り手紙?」


「ええ、なんでも当時はやり始めた、手紙を折り紙みたいに折った物らしいんです」


「それで、その内容は?」


「ええ、なんでも、先生の弱みを握ったとか、それでしばらく遊べるとか、そんな内容だったと・・・」


「それを言ったのは?」


「眺野容疑者ともう一人の生存者です」


「ウソですよ、きっと」


「写真は?」


「ああ、なんでも行事の時に撮った写真だったらしいんだが、一人の生徒以外の生徒の顔が削られていたとか」


「それは誰が?」


「生き残った三人全員です」


眺野が言った、手紙の内容は当時では重要な内容だった、教師もいた中でその内容を言ったら、どんなことになっていたか、容易に想像できる、だから言わなかった、もう一人が知っていたのは、こっそり聞いたのだろう。


「いい証拠になったのに、ないだなんて・・・」


「それがあったら、困る奴がいたんだろう」


「ひどいよなぁー・・・」


「犯人は、自分がやったという証拠を全部、眺野さんに押し付けるほど醜悪な奴だ、そんなものが見つかっては全部、台無しだろうからな・・・」


「でも、そうなると、それらを持っているのが誰かを知っていたってことだよね」


「・・・そうだな」


「どこかで、見ていたのかな・・?」


犯人は彼らの行動を全部知っていた。

先回りをして、群れからはぐれた羊を狩るように殺していった。

ある、馬鹿げた考えが浮かんだ。


「なぁ、」


「んー?」


「死体に成りすますなってこと、できると思うか?」


馬鹿げたことだ、ありえない話だと思う、だが、行動が読まれすぎている、傍で聞いていたとか、見ていたとかそんなことがない限り、無理だろう


「えー、ないでしょ、だって証明されているんだよ、死んでいるって!それにもしできたとして、どうやって成りすましたのさ」


「だよな・・・・」


「まぁ、そんな奇想天外な事で来たとしたら、学校の関係者ではない奴が一人混じっていることになるんじゃない?」


「どういうことだ?」


「だから、別の死体を作っておいたって言う事だよ、それを自分に成りすませたとか?あれ?意外とできそう?」


「・・・・つまり、この事件は、計画されたものだと?」


「まぁ、そうだろうね」


なるほど、確かに、殺し方には疑問を持つが計画的にされていたのなら、分からなくもない、という事は彼らが拾ったものはすべて、犯人が用意した物だったのか、それなら誰が持っていても分からなくもない、つまり彼らは、犯人の掌の上で踊らされていたという事になる。


「・・・・・・っ」


ふと視線を感じ、横を見ると、黒い灰色の人が見えた。

短い髪にセーラー服と思われる服装をしている、少女だった。


「・・・・・」


「ん?どうした?きく?」


朝日の声も時期に聞こえなくなり、目の前に広がる灰色の世界、

この学校にたまっている悲しみの世界、少女が一人、かけて行く、俺はそのあとを追いかけようと立ち上がた。


「おい・・・まて・・・・!」


彼女の後を追いかける、真っ直ぐの廊下は異常な長さで彼女から俺を遠ざけようとする。

彼女が俺を怖がっているのはわかるが、これは違う意思が働いているようだ。


「くそっ!埒があかねぇ・・・・」


少女はこちらを見ている、どうすることもできないこの状況にひどく困っている様子だった。


「何も心配しないでくれ、俺は君の話を聞きたいんだ、でも、この世界は君たちの意志で作り出したものではないんだろう?なぁ、頼む、君たちを救うには何をしたらいい?俺にできる事を教えてくれ」


いつからか見えるこの世界、何かの条件がそろったときにしか見えない。

一つだけ分かるのは、この世界に死した人たちの魂が捕らわれているという事。


「君は、眺野という少年を知っているか?」


そう言った、瞬間、世界は大きくゆがんだ、


「―――っ!!」


まるで少女を閉じ込めるように、俺を彼女から遠ざけられる、その時見えた少女の顔は何か言いたげな表情に見えた。

どれだけ流されたのだろうか、ひょいっと投げ出され、目を開いたところは、車の中だった。


「あー、やっと、起きたな!」


「・・・・・おれは・・・一体・・・・」


「今から旅館に行くよ、で、」


「ん?」


「なにか、見えたのか?」


「・・・・何がだ?」


「いや、おまえがいつの間にか眠っているという事は、何か見えたんだろう?知ってんだぞ」


「別に大したものは見ていない・・・・」


「えー・・・」


学校から二時間ほど行ったところにある、島旅館という名の古めかしく、風勢のある旅館だ。


「よくこんなところを取れたな、高いんじゃあないか?」


「大丈夫、大丈夫、刑事さんたちが話をしてくれて、安くしてくれたって!それに事件の同級生もいるらしいし!」


「・・・・・」


そう言って、意気揚々と入っていくと、隣刑事がいた。


「おお、やっと来たかい」


「遅くなってすみません・・・こいつ、どこでも寝ようとするんですよ」


「おい・・・木島刑事はどうした?」


「彼なら、署にいったん戻っているよ」


「そうか・・・」


そう話していると女将が来て、部屋に案内される、景色のよく見える和室、二つ部屋があり襖で仕切られている、二つ目の部屋には、椅子、一つが入るだけの細いバルコニーがある、向き合せの椅子に朝日は座る。


「さぁて、これまでの事を整理しよう、おまえが分かった事まででいいから」


「・・・・・まず、彼らは無差別だった可能性がある、体育祭の後に起きた事も含めて殺す相手は誰でもよかったというわけだ、次に教師の中の誰かが生徒に脅されていたという事、次に犯人は異常なほど、眺野さんを嫌っている・・・・と・・・・」


「は?」


自分でも何を言っているのか、分からなくなりそうだが、先ほどの灰色の世界で起きた事を思い返す、眺野という名を出した瞬間、世界は俺を拒絶した。

つまり、犯人は眺野さんの事をあまりよく思っていない人物だと思われる、役に立つか分からない情報だ。


「いや、気にするな、なんとなく思っただけだ・・・」


「ふむ、つまり、犯人は眺野さんが大っ嫌いだと?」


「いや、本気にするなよ、彼に擦り付けたからそう思っただけで・・・確証は・・・・」


「いやいや、意外と重要かもよ?」


「はぁ?」


「人の好き嫌いは、案外と馬鹿にできないという事!」


「おいおい・・・」


「つまり犯人にとって、眺野さんが邪魔だったという事か!」


「だったらなぜ、殺さなかった?」


「タイミングが無かったからじゃない?」


「・・・・・それで、罪をなすりつけたのか?変じゃないか?」


「うむ・・・確かに・・・」


「まだ何か足りない気がする・・・・」


情報が少ない、あの世界を見たからと行って何かが、わかるわけじゃない、亡くなった折り手紙と写真を見たいところだ。


「でも、先生を脅せるほどの弱みってなんだろうね?」


「ああ、そうだな、一体何の事なんだろうな・・・」


「万引きしていたとか!」


「人を殺す程度の事だぞ・・・」


「分からないじゃないか!教師生命を危ぶまれたら、何をするか分からないぞ!」


「・・・・・そんな、単純な事か?」


「まぁ、さっぱりだがね、可能性の一つという事でいれておこうぜ」


「・・・・・」


そう話し合っていると部屋の襖が勢いよく開いた、あけたのは木島だった。


「あ、木島さん!どうしたの?」


「ああ、ちょいとな、当時の現場写真だ、やっと見つけてよ、持ってきたんだよ」


「いいのか、そんなものを持ってきて」


「構うもんか!これで、謹慎を食らおうが、納得できる事実にたどり着けるならどうってことねぇよ!」


渡された現場の写真、まだ死体がある状態で撮影された物ばかりだった。


「うへー・・・・ここまで、やる?」


「・・・・・・・」


映し出されているのは、見るに堪えない物ばかり、おびただしい血の光景、現場で見せられた首つり死体、見ずに沈められたびしょるれの二人、ひどく苦しんだ様子の死体たち。


「ありゃ、ずいぶん、きれいだな」


ただ一枚だけ、異様な光景の写真、そこに倒れているのはあの世界で見た、影の少女だった。



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