第6話side:B 疑い

二人の死体、ぶら下がった首つり、呆然と見てしまっていた、僕と谷先輩、どうして、だってさっきまであんなに・・・・。


「う・・・」


「見ない方がいい・・・みんなの所へ帰ろう・・」


僕が吐きそうになったとき、安道先輩が、教室のドアを閉めて遮ってくれた。

図書室に行く途中のトイレで僕は吐いた、限界だった、どうしてこんなことになった、どうやってみんなを殺している、見えない殺人鬼の考えは僕には理解できない。


「うそでしょ・・・・」


「なぜ・・・・こんな・・・」


「・・・・・・・」


図書室に帰ってから、皆に二人が死んでしまったことを話した、皆は驚き、嘘であってほしいと言ったような様子だった。

ほんの数分間、ほんの少し離れただけでこんなことになったのだ、誰だって信じられないだろう。


「・・・・・あ、あんた達が・・・みんなをやったの?」


「え」


「は?」


突然の言葉に僕らは驚いた。


「小林、なにを・・・?」


「だから!その二人が、皆を殺したんじゃないの!!だって、私たちはずっと、ここにいたんだもの!」


「ちょ・・・ちょっと、まって・・・!!」


「た、たしかに・・・先輩二人なら、できますよね・・・・?」


「細田君?」


みんなここにいた、僕と谷先輩は塩田先生と犬飼と一緒に外にいた、なるほど、確かに僕らならやれないこともない、でも、僕らじゃない。


「ま、まって・・・僕らは二階で探索していたんだ!、できるわけがない!」


「・・・・・・」


「え・・・うそだろ、僕らを疑うの?」


「どの道、証拠がない、ここに来る前だって怪しい人物を見たわけではない・・・君らがやってないという、証明もできない、意味がないな・・」


「木村先輩・・・僕らは・・・・!」


冷静に木村先輩が言う、何の証拠もない、疑われるのは仕方がなかった。

すると、谷先輩が口を開いた。


「私達が、探索していた時にこんなものを見つけたの」


「え・・・」


彼女が取り出したのは、あの折り手紙だった。


「谷先輩それは!」


「なんだそれは?」


「内容は・・・・混乱を生むものだからできれば、聴かないでほしい、どうしても知りたいというのなら、こっそり教えるわ、でも、わたしと眺野君はこれを発見していたから、殺害なんて無理よ」


「・・・・・・」


「内容が、言えないってどういうことなの!?」


「聴きたいのなら、あたしか、眺野君にこっそり聞きに来て、自分の中で納められるって言うのなら」


「・・・・・」


谷さんが出したあの紙の内容、聴きたい人だけに言うという行動は驚いた、だがある意味、さらなる混乱を避けられる、でもそれを信じられない人は当然出てくる。


「そ、そんなの!信じられるわけないじゃないか!!、」


「もう、もういやあああああああ!!」


「小林!」


そう叫んで図書室を出て行ってしまったのは小林さんだった。

極限状態の疑心暗鬼、殺されるという恐怖が彼女に限界を与え、逃げ出した。


「私が追いかけますから、火村先生はここに・・・・!」


「ま、待て・・・猫背!!」


火村先生の返事も聞かず、猫背先生は出て行ってしまった。

僕らが追いかけようとしたときにはもう、その姿は闇に消えていた。


いったいどの位まただろう、どんなに待っても猫背先生も小林さんも帰ってこない


「・・・・遅い・・・いくらなんでも遅すぎる・・・」


火村先生がそう苛立った声を出す。

木村先輩が立ち上がり、こう提案した。


「探しに行きましょう、今度はみんなで・・・」


「木村・・・」


「二人ずつに行動してもダメなら、固まって行こう、時間はかかるだろうが致し方ない」


「・・・・分かったわ」


「は、はい!」


皆が立ち上がる中、一人はしゃがんだままだった。

細田君だ、体を震わせ固まっていた。


「い、いやだ・・・ぼ、ぼくは・・・こ、ここから・・・う、動きたくない・・・・!!」


「何言っているのよ・・・」


「細田君!行かないと一人になるよ・・・・」


「む、無理・・・こ、これ、以上・・・・もう、人の死体・・・見たくない・・・」


「細田・・・」


「木村、安道、皆で先に行っていてくれ」


震える細田君を見かねたのか、火村先生が言い出した。


「俺は、細田と後から行くよ、必ず、連れて行くから、お前らは猫背先生を探してくれ、いいな」


「でも・・・先生!」


「生徒を一人にする訳には行かないだろう・・・」


いつも、面白い事をやってくれる先生は優しく笑って僕らを送り出した、ぼくは、振り返りながら図書室を後にした。

一階から二階にはいなかった、なので三階へと行った。

すると、チャプンと言う不自然な音がした。


「なに・・・この音・・・?」


「水の音?」


「・・・・・っ!!まさか!!」


僕らが昇って来た方から反対の奥に水道がある、まさかと思った。

僕は水道に向かって走った。


「眺野!!まて!!」


「眺野先輩!!」


嫌な予感がしていた、いや、そんなはずはだって、そんなに時間は立っていないはずだ、なのにそんな、そんなことを思いながら廊下を走った。


「――――――っ!・・・・・・あ・・・・・・うそ、だ・・・・」


ジャーっと流れる透明な水と、ちゃプンと音を立てる、バケツにたまる水、水道に顔を入れてだらりと力のない、セーラー服の少女、バケツに顔を入れて、同じように力のない大人の人、間違いなく、さっき逃げ出した、小林先輩と猫背先生だった。

僕はその場に崩れ落ちた、どうして、なぜこんな事ができる?人を殺してそんなに楽しいのか、犯人の思考が分からない、僕らに何の恨みがあるんだ、どうして、こんなことになるんだ。


「・・・・くそ・・・・」


「せん・・・せい・・・・」


「せ・・・ん・・・ぱい・・・・?」


後から来た、皆もこの光景に絶望する、さっきまで、ほんの少し前まで生きていたんだ・・・ほんの少し前まで、話していたんだぞ、なのに、みんな、思考が停止しかけた時だった。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――っ!!」


「-っ!!」


「この声って・・・・」


「細田!!」


「水谷さん!」


突然の叫び声、その声を聞いて、水谷さんが走り出した。

僕らも走った、彼がいたのは図書室だ、僕らは図書室に向かって走った、閉められた扉を水谷さんが勢いよく開いた。


「・・・・・ほ、そ、だ・・・・?」


「水谷!どうし・・・・・・え・・・・」


「先輩!・・・・・っ!!」


水谷さん、安道先輩が固まっていた、僕もその光景を横から見た。

そこには、頭や腕から血を流している、火村先生の姿、彼のもっと奥に壁に座った状態で頭から血を流す細田の姿があった。


「そんな・・・・・」


「もう・・・なんなのよ・・・・もう、やめてよ・・・・許して・・・よ・・・」


「・・・・・・許せって言ったって・・・誰に・・・・っ!」


後ろで谷先輩と久世さんが話していたが、急に谷先輩の言葉が途切れた、僕は心配になり、振り返ったら谷先輩も後ろを見ていた。


「たに・・・せんぱい・・・?」


そう声をかけると、肩を跳ねさせた、その顔には少し汗をかいていた。


「どうした?」


「う、うん・・・ごめん・・・誰かに、見られた気がして・・・・」


「え・・・?」


「だれだ!どこに居る!!」


「わ、分からない・・・でも・・・確かに・・・」


「おまえ、それいつから!いつからあった!?」


安道先輩がそう問い詰める、他に人がいたかもしれないという確かなものだった。


「い、いや・・・さ、さっきのが・・・初めてよ!だから、驚いて・・・・」


「やはり・・・俺たちのほかにだれか・・・」


「もう、そんなのもう、どうだっていいわよ!!もう・・・かえりたい・・・・・うちに・・・かえしてよ・・・・」


しゃがみこんで泣いてしまう、水谷さん、僕も折れてしまいそうになる、でも、たとえ僕が死んでもみんなを外に出してあげないと、意を決して、水谷さんの手を握ってあげる


「え・・・」


「水谷さん、もう少し頑張ろう・・・玄関のカギを見つけて、ここから逃げよう、そしたら、警察に行って助けてもらおう・・・・ね、だから、もうすこし、頑張ろう」


こんな事しか言えないけど、水谷さんは頷いてくれた、頼りないけど、皆を守らないとせめて後輩と先輩たちだけでも、だが、これからどうしようと思っていた時、安道先輩が火村先生に近づく


「おい、何をしている、安道」


「なぁ・・・これ、何だと思う?」


「え?」


そう言って、安道先輩が持ち上げたのは一枚の写真だった。

それは、学校の行事で撮られた三年生の写真、そこには谷先輩、木村先輩、ちょっと離れたところに安道先輩と小林先輩が写っている、が、違和感があった。

僕はこの写真を見た事がある、みんな楽しそうな顔が写っているはずなのに、谷先輩以外の顔が削られて分かりずらくなっていた。


「なんだ・・・これは?」


「いったい誰がこんなことを・・・」


「いい写真だったのに・・・・」


「・・・・・何かの手がかりかもしれない、持っておこう」


「なんで、その写真がここに?」


「犯人が二人を殺した時に落としたのかもな・・・」


「とにかく、ここを離れよう・・・」


「玄関のカギを探しましょう」


「そうだな、探しながら行こう・・・」


僕らは再び、廊下を歩きだした、後ろから僕らを見ている悪魔の気配に気づかないまま

僕らは希望を探し求めた。





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