第3話 side:A 起草高等学校

静かで、穏やかなな田んぼが広がる場所にそれは立っている。

決して多くはない生徒数だったが、それぞれ二クラスずつあった、学校、起草高等学校、かつては賑わいをみせたその学校も、今はただの廃墟になっていた。


「あの事件以来、生徒があまり集まらなくなって、三年前くらいにやめたんだと・・・」


「ひどいよなぁ・・・」


「ああ、そうだな」


「でも、一体だれがやったんだろうな・・・?」


「さぁ、それも含めて、聞き込みに行くぞ」


「はーい!」


眺野さんから話を聞いた、俺たちは、彼が青春を過ごしていた、高校へとやってきた。

こんなのどかな場所で悲惨な事件が起きたとは、到底思えない。


「あー、彼かー・・・わしたちもねぇ、信じられないんだよ、あの子は後輩からも先輩からも慕われていたからねぇ・・・勉強もできて、運動もそこそこで、とってもいい子だったんだよ・・・それが、負担になったのかねぇ・・・」


「眺野君?ああ、いい子だったのにねぇ・・・まさかあんな事を仕出かすなんてねぇ、おばちゃん、信じられなかったよ、でもまぁ、人なんて、分からないからねぇ・・・」


短くまとめたが出てくるのは大体こんな評判だ、眺野真人は、人柄もよく、先輩、後輩から好かれ、近所のみんなにも優しい子だった。

それが負担になって爆発したのではないかという感じだ

確かに刑務所で会った彼は、人のよさそうな顔だった。

人なんてわからない、確かにそうだが優しくしてくれていた青年を疑いもせず犯罪者扱いするのはいかがなものだろうか、人間とはほんとにひどい生き物だ。


「みんなひどいな、優しかった子が犯罪を犯したって言っただけでひどい、言い方するんやっつまで出やがったぞ・・・!!そんな人じゃないのに!!」


「そんなもんだろう」


俺が怒りながら車に帰ってくるときくは呆れながら言った。


「だって!!」


「人なんてそんなものだ、優しくていい子が犯罪を犯したって言う噂を聞いただけで、自分たちのみていたものは全部、上っ面だけだったんだって思うんだよ、ちょっと人と違う趣味を持っているだけで変人扱いする奴らと同じだ、やると思ってたって言う奴は大抵、人を見ていない奴らだ、だから、住人の証言なんかいらないって言っただろう!」


「聞き込みならまずは、住民からだろう!!」


「その結果はどうだった?」


「・・・・・・・・・・・みんな、眺野さんが・・・・犯人になってもおかしくないって・・・・」


「ほらな、無関係の奴らの情報なんか当てになるわけないだろうが・・・」


「でも・・・基本だろう!!なんか、知らない情報が出てくるかもしれないじゃん!!」


「なんで知ってるやつがいるんだよ・・・明らかにそいつか怪しいだろうが・・・」


「だって、基本だろう!!」


「俺たちの扱っている事件は何十年前のだと思っている!街の聞き込みなんていうの警察が終わらせて同じようなことを言われているに決まっているだろうが!」


「だからってなんで交番!!、道に迷ったわけじゃあないのに!!」


「殺人事件だ、近くの交番だって多少なりとも関わっている可能性があるだろうが、それで、担当した刑事の名前がわかれば十分だったんだよ!」


なんか納得がいかない、というかしたくない、こいつのこういうところが少し、いや、だいぶ好きじゃない


「教えてくれるとでも?」


「何年昔の話だと思ってる、守秘義務なんぞ守る奴がいるとでも、それにこれだけ不可解なことが多いのに気にならない奴がいないとでも?」


「・・・・・話してくれるとでも?」


「それは行ってみないと分からん、もやめている刑事だったら好都合だがな」


「・・・俺、おまえのそう言うところ好きじゃない・・・」


「別に好かれなくてもいい、人の印象なんぞに信用性なんてないからな」


「・・・・卑屈」


「好きに言え」


「・・・・・・・・はぁー」


散々言い合っても黒田に勝てる気がしないのはなぜだろうか、とにかく車を走らせる、とりあえず交番を探すために地図を見る


「えーっと・・・どこの交番がいいかな・・・」


「なら、ココの交番がいいだろう、現場からもそんなに離れていないから、何らかの形でかかわった人がいるはずだ」


「・・・・・ホントに?」


「疑うのか?」


「ホントに交番なんかでいいの?」


「いきなり警察署を行ったとこで、門前払いを食らうだけだ、なら、外堀を埋めるのは当然だろう?知り合いがいると言うだけで少しはこちらの話を聞いてくれるはずだ」


「そんなので、いいの?」


「なんだってそうだろう?知らない奴で行くよりこの人の知り合いだと言われた方が、人は心を許しやすい、ましてや交番勤務の中には歴が長い人がいる可能性が高い、そう言う人には住民のどうでもいい情報から関係者の必要な情報が手に入りやすい、特に関係者の情報はな」


「うわー、ききたくなかったわーその情報・・・ていうか、エグイよ、怖いよ、おまえ・・・」


「なんでだよ・・・捜査を効率良くする方法の一つだ、面倒な手間を多少なりとも省けるだろう?というか、記者を名乗るならそれくらい確実な情報を手に入れろ、そうすれば多少なりとも読者はつくと思うぞ?」


「おまえ、絶対、ドラマとかの主人公に成れない系だよな、むしろ、悪役だよね!」


「それがどうした、むしろ、ドラマを真に受けるなよ、多少違いはあるからな!俺がそんな人間じゃあないことも分かりきっているだろうが!」


「俺のヒーロー像が・・・・」


「そんなもん捨てちまえ」


「ひでぇ・・・」


どうでもいいような問題の発言をしているような会話をしながら、学校から一番近い交番に到着した。


「すみません」


そう言うと若い警官が顔出した。


「どうされました?」


「えっと・・・」


「すまない、この近くの起草高等学校で起きた事件について、詳しい者はいないだろうか?」


「え・・・・えっと、失礼ですが・・・あなたたちは・・・?」


「探偵をやっている、とある人の依頼でこの事件について調べているんだ、誰かいないだろうか?」


ストレートの物言いで警官に聞く、若い警官は困ったような困った顔をしていると彼の後ろ、交番の奥から少し年を取った男が現れる。


「あんたら、あの事件を調べて、どうするって言うんだい?」


「依頼人が真相を知りたがっている、犯人と言われている眺野氏が犯人のはずがないと、わたしも聞けば聞くほどおかしいと思う、だからこうして調べている」


「・・・・・奥に入りな、立って話す事じゃあねぇからな」


火里と名乗った、歴が長そうな男と、里中と言う若い警官に連れられ、交番の奥へと案内された。

よっこらせっとオジサンくさい事を言いながら火里は座った。


「そうか・・・おかしいと思うか・・・」


「ああ、そうだ、学生の犯罪にしては度が過ぎている」


「そうは言っても、証明ができないんだよ、警察は現場にある証拠を基に犯人を見つける、だから、彼が、犯人ではないと証明ができないんだよ・・・」


「悪魔の証明」


「あったと言われたものを無いとは証明できない・・・か・・・」


「ああ、そう結論付けるしかなかったのが正解だ、現場の刑事は捜査を続けさせろと言ったらしいが早期解決を目指した上が打ち切ったのさ、それで彼が犯人だという事になったのさ」


「・・・・・」


「そんなぁ・・・」


「私らはもう、捜査はできない、新しい証拠か何かが出てこない限り、動けないんだよ、真相を見つけてくれるというのなら大いに協力しよう、私の名前を使ってくれてもかまわない」


火里の言葉に驚いた、それほどにこの事件は違和感だらけだったのだろうという事がここで証明されたものだった。


「この事件に詳しい人、担当刑事か、今も捜査をしている奴とかを知っているか?」


「それなら、一人・・・担当で何度か、ここに来た刑事なら知っている」


「ほんとか!」


「ああ、ちょっと待ってろよ」


そう言って、火里は手帳から一枚の名刺を取り出した。


「彼に会いに行くといい、きっと私より詳しい話を知っているはずだ」


そう言って差し出された名刺には【木島 夏男 警部補】と書かれていた。

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