第2話
「さ~き! 聞いてる?」
向かいに座る琴が、私のおでこを突っついて苦笑した。私がぽけっとしてちゃんと話を聞いてないことがあるのはいつものことだ。
「え? なんの話?」
「夏合宿のことよ。さっき聞いたんだけど、一日目の夜に肝試しがあるんだって。それもペアを組んでって……どうしよう」
琴はしっかりしてて隙がないように見えるけど、実は怖いのが大嫌い。ついでに言うと、男の人も嫌い。というか苦手。普通に話はできるけど、距離を詰められるのは嫌いなの。何度も嫌な目にあってるから。
だから男女ペアの肝試しなんて苦行でしかない。
だけど基本的に真面目だから断る口実を考えつけず、グダグダしているうちに当日になってしまった。
集合場所で、樹先輩はいつものように女の子たちに囲まれていた。彼女たちは、誰が樹先輩とペアになるのか、きゃいきゃい楽しそうに騒いでいる。
くじの結果、その相手が私だとわかると、「代わって!」とみんなが押し寄せてきた。
「どうぞどうぞ」と差し上げたいところなのに、「交換はなしだぞ~」と当の樹先輩が言っている声が聞こえてきた。
確かに揉める原因にはなるものね。
私のお目当ての要先輩の相手は、なんと琴が引当てた。「代わって!」と言いたいところだけど、このタイミングでは言い出せない。
「いいなぁ。要先輩とペアなんて。羨まし~」
なんて言ってみたけど、琴はそれどころじゃない。スタート前から真っ青だ。
「大丈夫だよ。琴、私のすぐ後ろじゃない。待っててあげるから」
スタート後、少し歩いてから樹先輩に一言声をかけて、琴の元へ駆けつけた。
案の定ガッチガチに固まっていた琴は、私の顔を見てほんの少しだけ、頬を緩めた。安心させるようにきゅっと手を繋いで歩く。
「俺、立つ瀬ないじゃん」
と頭を掻く要先輩。
いえいえ、そんなことはないです。そこにいてくれるだけで私は幸せです。
とは口には出せない。緊張して何を話していいかわからないから、私の後を追って戻ってきてくれた樹先輩と軽口を言い合いながら歩く。
こういう時、樹先輩ってすごいと思う。怖がりの琴のために、ことさら明るい話をふってきてくれる。
実を言うと、本当は私も肝試しは苦手。琴ほどではないし、暗がりが怖いわけじゃないんだけど、こう、何か出そうな雰囲気っていうのはやっぱり怖い。すぐ先にお墓があるのを知ってるからなおさらだ。
お墓のすぐそばまで来たその時、琴と繋いだ手と反対側の手を樹先輩の大きな手が包み込んだ。怖さを吹き飛ばすためにぺらぺら喋っていた私が、びっくりして顔を見上げると、にやっと笑って反対の手で軽くデコピンされた。
琴と一緒にいるのに、私のことに気づいてくれたことに本当に驚いた。大概の男の人は、私たちが一緒にいると琴にしか関心を持たないのに。
そしてゴールの灯りがと見えてくると、さりげなく手を離した。
手を繋いでいるところを他の女の人たちに見られたら騒がれるから? それとも、私が琴に本当は怖がりなことを知られたくないと思ってることを察したから?
ただのチャラ男だと思っていたのに……。
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