ラブコメと広告学

ワンタン太郎

第1話 広告前のPR

人の意志や行動には必ず理由がある。俺はそう思う。でも現実でそんなのいちいち考えてたらやってられない。だってそんなの俺がモテないのは人と話すのが下手とか根暗とか理由を挙げたらキリがないし死にたくなる。こんなん全部わかって改善できたら今頃俺はクラスで一番の人気者になってるし毎朝下駄箱開けたらラブレターバサーって出てくる展開になってるわ。いつの時代の妄想だ。

何が言いたいかというと、つまり現実で起こる他人の行動っていうのは、まあだいたい理解の及ぶ範疇で、俺から見ても納得できるし腑に落ちる。サッカー部エースで学級委員もこなしちゃうアイツは男女ともに人望があって勉強もスポーツもできて先生にも一目置かれているし、なんちゃらティーンの読者モデルかなんかやってるっつーアイツは女子から羨望の目で見られ男子には少し怖がられてる(ギャル怖いよね。わかるわ~)。こういうやつらはだいたい昼休み集団になって中心で弁当広げてんだよな大声で話しながら。そうそう。そんで俺みたいなのは焼きそばパン片手にスマホいじりながら昼食を済ませるわけですわ。あ~俺の昼休み自由~。周りの会話に合わせて面白くないところで笑ったりしなくていいしみんなが見てる番組無理矢理見て予習とかしなくていいから楽だわ~。集団で笑い合ってる声とか良い感じのBGMだわ~。良い感じの作業用BGMだわ~。そう思ってないとやってらんねえ。


そう。それが普通。これが俺の日常だった。


「ねえいつも思うんだけどさあ!なんで机の上に女の子の人形置いてんの!?面白すぎるんだけど!今日とか先生に取り上げられそうになってて笑いこらえんの必死だったわ~」

「いやこらえられてなかっただろ。めっちゃ爆笑してたじゃん一人で。」

「逆になんでみんな笑わないの!?絶対おかしいって~今日イチの爆笑だったわ」


なんか色々言ってますけども。この語尾にやたらビックリマークのついた声の大きいやつがなんちゃらティーンの読者モデルかなんかやってるーっつー派手めの女子、矢作。合間に冷静なツッコミを入れてたのがサッカー部エースで前期の学級委員だった橘。


「じゃ、学食行こうぜ、岸谷」「キッシーその女の子連れて行かなくて大丈夫?」


この岸谷とかいうのは俺である。ちなみに机の上に女の子のフィギュアを飾っているのも俺!俺!俺ーーーーー!!!授業中(HR)いい加減にしろとか言われて担任の先生に取り上げられそうになったのにはガチでビビって泣きながら「それがないと勉強できないんです!」っつったもんな。いやこれも、橘がこの立場だったら周り爆笑もんだったと思うんだけど、残念!俺でしたーーー!どうも!陰キャラ岸谷です!心の中では元気100万点!実際しゃべろうとすると空気でカッスカスみたいな声になってしまう岸谷です!!そんな感じだからクラスも静寂に包まれたんだよな。学校の勉強机にアニメキャラのフィギュアを置く男。ドン引き。


そんな俺が、なんで目立ちまくり人気ありまくり、ついでに妬まれまくりの二人と学食に行くまでの仲になったのか。理由の一つは接点で、これはまあ俺にも説明できる。でも接点だけじゃ一緒に昼休みを過ごすまでの仲になるにはいささか不足がありすぎる。その辺が今の俺にはさっぱりわからなくて、謎なんだ。理解の一つもできないまま、俺は自分の根本の問題は何も解決しようとせず、モテないままで、甘えて、このいつまで続くのかわからないぬるま湯につかっている。

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