8話:不信

「先に言います。僕は、貴女を信用していません」

 早朝に近い時間、今日は少し早めに出る必要があるから、と宰相に起こされて身支度をした里琉は、連れて来られた門で待つラバカ大臣と名乗る男性に、のっけからそう言われた。

 はあそうですか、としか里琉には言えない。

「ですから、妙な真似をしたら、即座に貴女は置き去りにします」

「分かりました。別にいいですよ」

「…………では、どうぞ」

 あまりにもあっさりと承諾を口にする里琉を胡乱な目で見ながら、彼は鳥車へ乗るよう促す。

 この間より比較的穏やかな揺れの中、里琉は外を眺めていた。

(あの給水タンクっぽいの何だろう。この国の中にあるって事は、重要な設備かな)

 訊きたいが、答えてくれるとは思えないし、それで間違った知識を与えられても困る。黙って後で他の人間に訊いた方が確実だ。

 無言のまま、がたごとと鳥車は進む。

 その間に里琉は、頭の中で情報を整理していた。

 昨日会った大臣は全部で四人。どれも癖が強いが、各々の分野に特化しているのはすぐに分かった。だからこそ、今後どれだけ彼らの仕事を理解出来るか、にかかっていると思っていいだろう。

 問題は今日会う大臣達だ。目の前の彼は、正直言って、情報を得るのは難しい気がする。

 だが本来ならば、彼が一番当然の反応でもあるのだ。

(正直、いきなり素性の分からない女を連れてきて、宰相の部下にしたいから教育しろとか、私だったらやってられない。信用出来るわけないし、武器も携帯してるわけだから、背後なんか絶対見せられないよな)

 見た目は大人しそうだが、その目はじっと里琉を観察しているようだ。別にいいが、見ても特に怪しい事はしていない。

 もっと言うなら化粧もし忘れた。この際諦める事にする。

 第一、昨夜は大変だったのだ。筋トレが終わってぐったりしていたらメーディアが来てしまい、そのまま風呂に入れられ、エステに直行。終わった頃にはほとんど人が居ない食堂で冷めかけた晩ご飯を食べる羽目になった。そして部屋に戻って泥のように眠ってしまったほどだ。

 あれがこれから続くのかと思うと憂鬱である。しかし、一ヶ月でどれだけの大臣が匙を投げるか、少し面白くもあった。

(思い通りにならない生徒って、教師にとっては邪魔者でしかないんだよな)

 何かあると「女らしくしない里琉が悪い」と言う教師や、里琉の夢を否定し続けた教師。そんなのばかりだったせいで、学校生活にいい思い出は欠片もない。

 中学の卒業文集に至っては、自分の夢を書き直せと強要され、拒んだら自分のだけ載せられなかった。当然だが、捨てた。

 兄達には教えていない。特に次兄の和矢は弁護士の為、訴えようと思えば勝てる気はしたのだが、自分の為に他人の力を当てにするつもりもなかったし、何よりそんな惨めさを教えたくなかったのだ。

 嫌な記憶を振り払って窓の外を眺めていると、広い広い街道は、ところどころに村があり、家が建っている。それらは全て白い石で出来ており、四角い外見をしていた。陽射しを反射する白と、中で冷気を維持しやすい石の組み合わせは、こういう地域ではよくある建造物だろう。

 だからこそ、あの村のように火事寸前となれば、中は逆に蒸し焼き状態になりかねない。

 そうならなかったのでいいのだが、結局あの村についてはあれから何も教えられていなかった。あくどい事とは何だったのかも、里琉は知らない。

 そして何も教えないのは、目の前の大臣も同様だ。

(せめて目的地と目的くらい言わないのかよ。教育する気が無いなら、最初から引き受けなきゃいいのに)

「何か?」

「……そうですね。信用してないなら、このまま私を砂漠のど真ん中に捨てて帰るつもりなのかと思ってます」

「!」

 ラバカ大臣は目を見開く。心外だ、と言いたそうだが、何も言わないのならば邪推くらいは当然、考慮してもらいたい。

「最初に言いましたよね。私に何か怪しい動きがあれば、即座に置き去りにすると」

「ええ」

「……であれば、あなたがその怪しい動きとやらをでっちあげて私を一人放り出せば、勝手にどこか行ったなどと報告するだけで済みますね。で、どの辺りに捨てる予定ですか?」

「な……」

 教師受けが悪かったのは、多分こういう所もあったのだろう。怒りなのか何なのか知らないが、ラバカ大臣はわなわなと震えている。

「あ、言っておきますけど、捨てられたくらいで訴えに戻りはしませんよ。面倒なのでそのまま他国に逃げさせてもらいますね。ああ、その時はこの武器もお返しします。どうせ扱えないんで邪魔ですし」

「いい加減にしなさい!」

 耐え切れなかったのか、ラバカ大臣は声を荒げた。意外だ、と思った里琉に、怒りを盛大に含ませた態度で彼は続ける。

「人を何だと思っているのですか。信用していないのは、貴女も同様でしょう!」

「そりゃ、初対面から信用とかしませんよね、普通に。加えてあなただけが今の所、最初に私に対して信用しないと告げたので、私もそうしただけです。教育の為にと言われたから私はここに居るんです。教える気が無いならどうぞ、その辺で放り出して下さい」

 この場で放り出されたところで、里琉は困らない。他国とやらの話も聞いたので、適当に探して辿り着くだけだ。メーディアやガルジスには悪いが、こちらも命が惜しい。

「貴女は……この国の為に教育を受けている身であるという、自覚はないのですか」

「無いです。この国の未来に興味はありません。ただ一つ、言わせてもらうならば」

 彼が信じようが、信じまいが、それさえも里琉には興味が無い。言わなければ気が済まないというだけで。

「私が教育を受けた理由は、私を助けてくれた人達の為です。だからこそこの国に不利益になるつもりはありませんが、だからと言って利益をもたらすつもりもありません。あなた一人が私を信用しなかったところで、別に失うものもないので」

 愛国心やら忠誠心やら、そんなものはこの国で生まれ育った人間が抱えるものだ。余所者が示したところで、偽善以外の何物でもない。

「…………」

 深いため息をラバカ大臣は吐く。もうやだ、と思っているのがありありとうかがえた。

「馬鹿正直にも程があります。本音と建前すら使いこなせないとは」

「政治に関係ない一般人でしたので」

「では、僕が何もするなと言ったら、何もしないのですか」

「しませんよ。自分からは」

「自分からは?」

「他人に助力を求められれば、可能な限りの手を貸します。荷物運びだろうが何だろうが、それは仕事とは関係ありませんから」

 残念ながら、それとこれとは別なのだ。困っている人間が手を伸ばしたら掴めと、次兄には何度も教えられている。

 ただ、手を伸ばされない限りは掴まない主義だ。大きなお世話というのもある。余計な事をして、反感を買う気はない。

「それを偽善とは思わないのですか」

「いえ、全然。偽善でも善でもなく、私がそうするよう教えられたからです。厚生大臣でしたよね。何でそんな当たり前のことを訊くんですか?」

 国の為に様々な利便を考え、動く。それが厚生大臣の仕事ではないのだろうか。国を住みよくする為に、民の言葉を聞き、最善の結果を求めて動くのが役割なはずだ。

 が、確か就職難と人手不足が同居状態だと聞いたので、つまり動けていないのだろう。

 ふりかかった仕事とやらで全く結果が出せないのでは、お気の毒、としか言えない。

「……貴女はよくわかりませんね。何故、そんなに矛盾しているのですか」

「矛盾? していませんよ。全て自分がしたい事をしているだけです」

 利己的だと言われようが、そうしなければ生きていけなかった。家族が理解者だっただけ、まだマシだと思える程度には。

「……ならば貴女は、身内が悪事に手を染めていても、同じことが言えるのですか」

「言えますよ。好きにさせます。当人を変えられるのは当人だけですから」

「…………それが、どんな悪事でも……ですか」

 さすがに殺人などにまで発展したら、好きにしろとは言えない。だが、その事実が発覚したところで、自分なら、と里琉は想定する。

「取り返しのつかない事をしてしまった、と当人が嘆き苦しむ場合なら、そこからやり直す余地くらいは、あってもいいのではないかと。その為に法があるんですし。死刑が免れないとかだと、ちょっとさすがに庇いようが無いですけどね」

 そこまでいくと潔く死んでもらうしかない。人間は一線を踏み越えると加速していくものだ。

 ラバカ大臣は眉を寄せて目を伏せる。何か思い当たる節でもあるのだろうが、その意見を、信用していない人間に聞くものではないだろうに。

(めんどくさい人だな)

 だが、やる気が無いなら放っておくだろう。運よく王宮に戻れたら、教育が一つ減るだけの事だ。


 ――やがて、鳥車は一つの村の前で止まった。



※ ※ ※


 サルジュを含め、オアシス近隣の村の子供たちは、大人たちを頼らない。

 そしてもう一つ、暗黙の了解がある。それは「大臣を信じるな」だった。

 盗賊をめぐる問題が起こった時の事で、近隣の村は緊急会議を開き、そこに大臣も呼ばれた。それ以降、定期的にこの村で近隣のオアシスを水源地とする村の者達が集まり、会議がされている。その間、子供達は絶対に外に出ないよう言い含められた。

 したがって今日も、大臣が来た為に、同行してきた子も含め、子供達は一か所の家に集められた。

 だが、今日は例外が居る。


「初めまして。里琉です」


 ぺこりと頭を下げたのは、短髪の女性だった。服装が女性なのだが、髪がとても短く、更には剣を提げている。もしやついに子供達の監視まで始めるつもりか、と思いきや、彼女はへらりと笑って言い放った。

「ごめんね。私、あの大臣に信用されてないから、子供達と居るよう命令されただけなんだ。隅っこで座ってるから、好きに遊んでていいよ」

 それを聞いて、他の面々が顔を見合わせる。

「大臣様から、信用されてない?」

「じゃあ何で連れて来られたんだろう」

「あのお姉ちゃん、お化粧、してないね……」

「大丈夫かな。もしかして大臣様に、いじめられてるのかな」

 本当に隅に座る彼女は、特にしたい事も無いのか、剣を抱いて目を閉じている。

「サルジュ、どうする? 本当に信用出来るかな」

「分からないけど……じゃあ、俺が確かめるよ」

 大人のようだが、どこかまだ近い年齢にも見える。何にせよ、珍しい存在ではあるのだ。この先を考えたら、今のうちに知っておきたい。

 サルジュは近付いて、里琉という女性の傍にしゃがんで声を掛けた。

「なあ、寝てる?」

「……起きてるよ。どうしたの?」

 ふっと目を開けた彼女は、静かに問うてくる。

「何で大臣様と一緒なんだ? 今まで、大臣様と誰かが一緒に来るなんて事、無かったのに」

「……大臣より上の人からの命令で、仕方なく一緒に来ただけだよ。お互いに、ね」

「どうして? 正直、俺達は大人を信じてないんだ。だから、姉ちゃんも信じられない」

「そう? じゃあ別に信じなくていいよ。でも私は何もするなって言われてるし、何かしたら砂漠に捨てられるから、放っててくれた方が助かるかな」

 淡々と告げる彼女に、嘘の様子は微塵も無い。サルジュを含めた子供達との誰とも、視線を合わせるつもりがないらしく、顔を伏せている。

「…………あの大臣様、どう思う?」

 一歩踏み込んだ問いかけに、里琉は小さく、だが確かに笑った。


「どうでもいいかな」


 その答えに、サルジュは確信を抱いた。彼女は明らかに、こちら側だろう。

「……なあ、リル姉ちゃん、って呼んでいいか?」

「いいよ。好きに呼んで」

「偉い人じゃないのかよ」

 あっさりとした態度に、偉そうなそぶりはない。

「私が? 新参者だよ。しかも他所から来たから、この国の事なんて全然知らない」

「……え、そうなのか? じゃあ、オアシスの事も?」

「へえ、オアシスあるんだ。この近く?」

「……それも知らないの? じゃあ、大臣様は何も教えてくれなかったのか?」

「そうだね。オアシスあるなら、放り捨てられてもどうにかなるかな」

 ――駄目だ、とサルジュは少し血の気が引いた。彼女は本当に何も知らずに連れられて、しかも最悪、この近辺に放り捨てられるという。いくら何でも、放っておけるわけがない。

「お前ら! ちょっとこっち来い!」

 サルジュの呼び声に、他の子供達も集まる。

「えっ、どうしたの?」

「このお姉ちゃん、信じていい?」

「ああ。っていうか、あの大臣様酷いな。この姉ちゃんが変な事する素振り見せたら、この近くに捨ててくらしい」

「ええっ!?」

「盗賊だらけのこの辺に!? 一人で!?」

 おや、と里琉が軽く目を見開く。

「盗賊居るんだ?」

「めちゃくちゃ増えてるみたいなんだ。……この半年で」

「ああ、そういうことか。あの大臣一人じゃ、どうしようもないだろうね」

 他人事のように言うが、彼女が犠牲者となる可能性があるのだ。もっと危機感を持って欲しい。

「お姉ちゃん、お化粧は?」

「ちょっと朝早く起こされて、急がされちゃって。する暇が無かったんだ。でも屋内だし、移動は鳥車だし、もうこの際、諦めようと思って」

「…………お前ら、どう思う? この姉ちゃん見て」

 サルジュはこめかみを押さえながら彼らに問いかけた。自分のみならず、ここに居る子供達は皆、大人を見る目を持っている。誰が信用出来て誰が信用出来ないかは、その態度、言動ですぐ見破れるのだ。例えどんなに人好きのする笑顔を持つとしても。

 そしてサルジュは、目の前の女性が「非常に危うい」と感じた。

「……正直、ちょっとヤバいんじゃねえの」

「あの大臣様、何考えてんだよ……」

「お姉ちゃん、お化粧はしなきゃ駄目だよ……?」

「そうだよ。あたし達もしてるんだから」

 男子は困惑を浮かべ、女子は当人を諭している。

 里琉はそれに苦笑しながら、首を横に振った。

「いいんだ。化粧道具もないし、化粧も下手だし。……それより、あまり近付かない方がいいよ。ラバカ大臣がどんな理由で私を置いて行くか分からないし、そのせいでみんなが怒られるのは嫌だから」

 離れて、と手ぶりで示す彼女に、サルジュはだが、子供達へ告げた。

「よーし、お前ら、姉ちゃんに化粧してやって。それから俺達は、姉ちゃんにその武器の扱いを教える。いいな? こっそりだぞ」

「やった!」

「まかせて!」

 彼らは喜色を浮かべて従った。どうやら、全員の見解は一致したようだ。

「いや、あの……私も下手な疑い掛けられたくないから、言ったつもりなんだけど……」

「その時は、任せてくれよ。姉ちゃんは信用出来ると思ったし、何より、オアシスの事も盗賊の事も知らなかったんだろ?」

「うん。そもそもこの村が、国のどの辺なのかもちょっと分かんない」

 土地勘無しでは、盗賊のいい獲物である。例え捨てるにしても、やり過ぎだろう。

 だったら、それに逆らうだけだ。サルジュ達はそうして、子供達だけでの秘密を作り上げている。

「はい、お姉ちゃん、こっち向いて!」

「ちゃんとお化粧、覚えなきゃ駄目だからね!」

「……分かった分かった。じゃあ、教えてくれる?」

 少女達が広げた化粧品に観念したのか、里琉は大人しく教わる事にしたらしい。

 その間に、隠していた武器を持ってきた男子たちが、それぞれ得意な武器を持ってサルジュに言った。

「あの姉ちゃん、もしかしなくても、武器も持たされただけだろ」

「全然気を配ってないよな。隙だらけっていうか」

「何か見てて、可哀想になってきた」

 化粧をする手つきもたどたどしく、少女達に指摘されて手を入れられている。まるで幼子だ。

「……俺達だけでも、味方になってやりたいな」

「サルジュ、惚れんなよー」

「馬鹿、違うっての」

 その間に別の少女達は、里琉の手首に紐を巻いていた。

「ん、何……?」

「なんでもないよ」

 すぐにそれは外されて、その少女は離れていく。だが、何をするか分かっていたサルジュは、少し苦笑を浮かべた。確かに、彼女には必要かもしれない。

「はい、お姉ちゃん、後は口紅だけ!」

「鏡を持っててあげるから、ちゃんと言った通りにやってね」

「ええっと……こう……?」

 もう少しで化粧は終わるらしい。それが終わったら、こちらの番だ。

「で、できた?」

「うん、大丈夫よ! お姉ちゃん、ちゃんと出来るじゃない!」

「毎日しなくちゃ、駄目だからね!」

「……ありがとう」

 少し嬉しそうに笑う里琉を見て、少女達も笑顔を浮かべた。合格、と言う事らしい。

「リル姉ちゃん! その武器持ってこっち来て」

「……? うん」

 彼女は素直に従い、こちらへ近付く。それを見て、サルジュは一瞬驚いた。

「姉ちゃん、化粧すると印象変わるんだな」

「……素顔と違うってよく言われるよ」

 褒めたつもりなのに、彼女は途端に表情を曇らせる。化粧をしなかった理由は、もしかして昔、誰かに何か言われたせいもあるのかもしれない。

 だから自分の言葉はそうじゃないと信じて欲しくて、サルジュは言葉を増やした。

「そうだけど、化粧すると大人の女性だなって思っただけだから。あいつらも大丈夫って言ってるんだ。信じなよ」

「……うん。化粧してくれた人まで、悪く言うのは良くないって言われた」

「そうそう。さて、姉ちゃん。その剣使って何か出来る?」

「持ち方と姿勢くらいしか教わってないよ」

 そこからかー、とサルジュのみならず、他の男子も天を仰ぐ。

「ますます放り出したら駄目だろ……」

「大臣様、人の心が無いんじゃねえの」

 正直、そう思われても文句は言えない扱いだ。彼女を信用しないのはともかく、やり方が悪辣過ぎる。

 ともかく、彼女には少しでも剣を扱わせなければ。そう思ったサルジュは、早速剣を鞘から抜いて言った。

「時間ないから、ちょっと手短に教えるね。ほら姉ちゃんも、鞘抜いて」

「えっ、でもこれ、本物……」

「これも本物だよ。でも姉ちゃんには当たらないようにするし、姉ちゃんの攻撃も防げる自信がある。心配要らない」

「…………分かった」

 ここで拒んでもいい事はない、と分かっているようで、里琉も素直に剣を抜いた。

「じゃあ、まず剣の受け止め方からな。俺が振り下ろすけど、姉ちゃんはそれを上にしっかり持った状態でじっとしてて」

「う、うん」

 女性ということもあって、サルジュは振り下ろす力を半分以下にした。

 がんっ、という音と同時に、里琉は目を瞑っている。

「姉ちゃん、駄目。目を開けてちゃんと攻撃を見て。防ぐ為に教えてるんだから」

「……あ、ご、ごめん」

「怖いんだろ。……でも、姉ちゃんは死にたくないはずだ」

 その言葉に里琉は、一瞬驚き、次いで――悲しそうに笑った。


「うん。……死にたくないな」


「じゃあ、もう一回いくよ。今度はちゃんと見て。怖くても、向き合って」

「分かった。お願いします」

 ぎゅっと柄を握る手に力がこもるのが見えて、サルジュは頷く。そして少し強めの攻撃を振り下ろした。

「っ」

 今度は、ちゃんと目を開けてこちらを見ている。だが、やはりというか、恐怖が浮かんでいて、サルジュは大丈夫だと頷いて見せる。

「そう。ちょっとずつ力を強めるからね。全部見て、受けて」

「……うん」

 少しずつ方向や位置を変えて、サルジュは続けて彼女の剣に攻撃を叩きこむ。十を数える頃、彼女の腕が震えているのが分かって、一旦下ろさせた。

「姉ちゃん、力込め過ぎてる。手を見せて」

「……あ、ほんとう、だ」

 緊張も相まってか、触れた彼女の手のひらは汗ばみ、だが冷たい。それでも、耐えられるだけの根性はあるのだろう。

「感覚だけでも掴んで。本当は今のやつの何倍も速くて強い攻撃が普通なんだけど、そこまでは出来ないし、姉ちゃんが怪我しちゃうから」

「……どうして、ここまでしてくれるの?」

 きっと不思議だったのだろう。信用していないはずの相手だったのに、と。

 サルジュはそれに、首を傾げて問いを返す。

「姉ちゃんは、俺達をどう見てる?」

「……すごいな、って思った。私には全然出来ない事が、出来るから」

 嫉妬でも劣等感でもないそれに、サルジュは彼女に再び剣を握らせて頷く。

「出来なくちゃいけない事なんだ。姉ちゃんも、黙ってあんな大人に殺されたら、嫌だろ」

「正直、置いてかれても、責められるのはあの人だと思ってるからね。……それに、いいんだ。信じてくれる人は、ちゃんと居るから」

 彼女自身も剣を握り直して、立ち上がった。

「まだ時間大丈夫かな。もう少しだけ、教えて欲しいんだけど」

「外どうだー?」

「まだ出てないよ!」

 よし、とサルジュも剣を握る。

「じゃあ、次は他の奴らの剣も受けてみて。十回ずつね」

「分かった」

「あと、力の入れ方なんだけど、肩と腕で支えて。手は、剣を放さないようにだけ握って」

「う、ちょ、ちょっと難しい……」

 こればかりは慣れが必要だ。だからこそ、今のうちに少しでも慣れを教えたい。


 ――そうして、大人たちが村長の家から出て来るタイミングを図りながら、彼女の剣の指導は終わった。


※ ※ ※


 子供たちの様子を見に戻った時、彼女は隅で大人しく座っていた。子供達も、我関せずといった風に、めいめい遊んでいた。

 だが、化粧だけは誤魔化せない。彼女は一体どんな手を使って、彼女達を手懐けたのか。

「……何か」

 静かに鳥車で問いかける彼女の声は、冷たい。

「…………子供達と、打ち解けたのですか」

「そう見えましたか?」

「では、その化粧は」

「見かねた彼女達が、それだけは絶対にするように、と。……仕方なく、化粧道具を貸して下さっただけの事です」

 窓の外を見ながらの返答は、嘘か本当か判断がつかない。だが、化粧に関しては確かに、この国の女性のみならず男性でさえ必要だ。

 それくらいなら、と判断したのであれば、それ以上の干渉は無かった、と考えるべきか。

 ――それよりも、盗賊の数が増えている方が問題だ、とラバカは思っていた。

 何しろ、就職難であぶれた行き場の無い者達が、どんどん盗賊のアジトに集まり、群れを作り始めているという。

 だが、そのアジトがどうしても掴めないらしい。オアシス内部は半年前に一方的に管理局が封鎖し、水の補給と周辺の植物の採取程度しか許可されなくなっている為、協力は仰げない。

 おまけに、管理局に近付けば見回りの警備員に追い出されるらしい。王の居ない間に、随分と勝手な事をするようになったものだ。

 加えて、子供たちは一向に自分を含めた大人たちを信用しない。恐らく三年前の事を、今も怒っているのだろう。

 だからこそ、彼女が彼らに取り入る事が出来たら、と思っていたのだが。

「……大人は信用出来ない。そう言われましたよ。何をしたんですか」

「…………貴女には、知る必要がありません」

「そうですか。では今後、私は同行しなくていいんですね」

「それは、僕の教育を拒否する、という事ですか」

 反抗の意志を見せるなら、見せしめに捨てていく事もやぶさかではない。だが、彼女はもっと違う意味を持って続けた。

「あなたに連れられて行く度に、いつ砂漠に捨てられるか不安になるのはご免です。信用出来ないのでしたら、宰相様にその話をし、今回の報告を以て、私への教育を放棄なさって下さい。私も命が惜しいので」

 どうせ何もしてないのだ。教育報告も、それだけで済む。だが、とここにきてラバカは嫌な予感を抱いた。

「……貴女は、僕が本当にそうすると?」

「するでしょう。だって私は、あなたの役に何一つ立っていません。無能と判断して捨て置きました、とでもどうぞご報告なさって下さい」

 敵意が増している気がする。だが、子供達から何か聞いた素振りは見せない。それとも、だからこそか。

「……そんなにも、貴女は、仕事が与えられなかったのが、不満でしたか?」

「新人を潰す方法、知っていますか?」

「!」

「本来の仕事を取り上げ、能力を否定し、ひたすら長時間、単調な仕事をさせ続けるんですよ。何一つ教えずに」

 ラバカは、それを自分がしたのだと突きつけられ、苦い気持ちになった。

 それを分かっていながら引き受けたのは、彼女の方こそが「ラバカ大臣」という人物を見定めていたから、だろう。

「今回のことでよく分かりました。……ラバカ大臣。私の教育を放棄して結構です。それとも、こう言いましょうか。……私の方から、願い下げです」

「っ!!」

 怒りが湧く。だが、それ以上に当然だとも理解してしまった。

「あなたから教わる事など、何もありません」

「…………そう、ですか」

 感情に任せて彼女を今すぐ、放り出す事は出来るだろう。

 だが、報告を聞いた宰相はきっと、彼女を取り戻す。そしてラバカの方を切り捨てる。そう思うに十分な言葉だった。


 ――そして、王宮に戻ると、何故か宰相がそこに待っていて。


「ああ、お帰りなさい。……その様子ですと、上手くいったようですね、リル」

「私は何もしていませんよ。それより、ラバカ大臣の教育は今後必要ないです。というか、何も教わってません」

 告げ口めいた言葉は、だが真実だ。ラバカは宰相に頭を下げる。

「申し訳ありません」

「……ラバカ大臣。彼女を何故、信用しなかったのですか? 彼女をきちんと見ていれば、分かったでしょう」

「…………は?」

 どういう意味かと思っていると、呆れた宰相が、里琉の左腕を掴んで袖をまくる。そこには――あの近隣の村特有のお守りが巻かれていた。

 それをもらえるというのは、親愛の証でもある。つまり彼女は、子供達にあんな短時間で信用されて――だがそれを、ラバカには一切告げなかったのは、子供達の意思を汲み取ったからだろう。

「隠してたのに、気付いたんですか? すごいですね」

「逆ですよ。隠してたからこそです。……子供たちは警戒心が強いらしいのですが、あなたはその信用を勝ち得たんでしょう?」

「……それが何か? だとしても、何も報告することはありませんよ。信用していない相手の報告とか、無意味にも程がありませんか」

 ――ああ、そうか、とラバカは首を横に振る。自分の浅慮が招いた結果だ。文句は言えない。

「さすが、あの騎士団長に保護されただけはありますね。同じことを言う」

「ああ、半年前の事件でしたっけ? それなんですけど、一つ分かりましたよ」

「何がです?」

 里琉は冷えた眼差しをラバカに向けた。まだ何か言うつもりか、とぞっとする彼に、容赦のない言葉を告げる。

「私が仮に王様なら、少なくともこの人には真実を言いません。王様、人を見る目ありますね」

「……リル、その辺にしなさい」

「そうですか。もう教育は止めますか?」

「なかなか、いい性格ですね。……ラバカ大臣。しばらく、猶予を与えます。どうぞ、ご自分の身の振り方をお考え下さい」

 もう何も、彼らに言い返す事は出来なかった。


 ――自分は見る目を誤ったのだから。


※ ※ ※


 ――実際、子供達の連携はとても素早く、統率が取れていた。

『おい、出て来た!』

『よし、リーフは武器を隠せ。お前ら、あとはいつも通りだぞ。姉ちゃんは隅っこで座ってて。何も無かったように出来るよな?』

 里琉もサルジュの言葉に頷き、移動する。

『お姉ちゃん、これあげる。見せちゃ駄目だよ』

 手首に巻き付けられたのは、簡素だが鮮やかな紐で組まれた、ミサンガのような腕輪だった。里琉は頷いて、袖をギリギリまで引っ張り、そして武器を抱えて座った。

 そして迎えに来た大臣や大人に対し、彼らはめいめい、待ってた振りや「もっと遊びたい」と駄々をこねる振りをして、帰って行き。

 ラバカ大臣は里琉を見て「では戻ります」とだけ告げて、鳥車へと向かったのだった。

 ――おかげで里琉は、あれだけ強気な態度に出る事が出来たのである。これでラバカ大臣が手首の飾りに気付いたら、少しは変わっていただろうか。

(あの子供達には、いつかお礼言えたらいいな)

 三人ほどの攻撃を受けたが、どれも全く違う手ごたえがあった。あれはいい経験になったと思う。

 普通の剣、曲刀、それから大剣。彼らはきっと将来、強くなる。

「何だお前、機嫌がいいな」

 次の場所に向かう途中で行き合ったガルジスが、声を掛けてきた。

「ん、そう見える?」

「お前、顔に出るよな。これからどこ行くんだ?」

「んーと、法務大臣とかいう人のとこ。確か……処刑場」

「うげ……マジか。昼前だってのに」

「処刑いきなり見せつけられるのかな……あ、気分重くなってきた……」

 大臣達がどんな思惑だろうが里琉には関係ないが、ここぞとばかりに日頃の鬱憤を里琉で晴らそうとしないで欲しい。

「まあ、食欲無かったら水でも飲んでるよ……」

「じゃあついでに案内してやる。……と、そうだ。もし大丈夫そうならお前、また一緒に食うか?」

「え?」

 また、という事は、彼も一緒に、という意味か。里琉は怪訝な顔でガルジスを見た。

「どうせまた、一人で食うつもりだったろ。……お前は言いふらしたりしないって断言してるし、別にいいってさ」

「でも、昨日みたいな綺麗な化粧じゃないよ?」

「関係ないらしいぞ。というか、最初の時もあの時も、別に態度変わらなかっただろうが」

 そういえばそうか、と里琉は少し嬉しくなる。あの化粧で歩き回ったせいか、今日は視線が痛いのだ。ずっとあの化粧で居てくれと言わんばかりで、居心地がとても悪い。

「じゃ、お願いしようかな」

「分かった。言っとく。じゃあ終わったら、この間と同じ厨房に来てくれ。……頑張ってこい」

 くしゃっと頭を撫でて、ガルジスは立ち去る。

 随分奥の方にある扉の前に立っていたのは、一人の金髪の男性だった。


「ようこそ。法の裁きを下す聖域へ。私はイーマ。法務大臣を任されています」


 処刑場を聖域、と呼ぶ人間は初めて見たかもしれない。里琉は頭を下げる。

「里琉です。よろしくお願いします」

「貴方は、人間の死体を見た事がありますか?」

「……本物はないです」

 ドラマなどの作り物はともかく、本物を見た事があったら大事件だ。それを聞いて、彼は無表情なまま頷く。

「そうですか。昏倒、嘔吐などの無いように」

 マジか、と里琉は少し血の気が引く。本当に死刑を見せるつもりらしい。

 重い石扉になっているそこをイーマ大臣は開き、里琉を通す。

 外に繋がっているそこは、だが広く更地で、更に石で出来た塀が囲んでいた。

 その一角にぽつんとあるそれは、近づくにつれ、里琉が知っているものと酷似している事に気付く。


「ギロチン……!?」


 あの斜め刃こそないが、板の真ん中に空いた穴は、確かに首を落とす為のもののはずだ。歴史上、多少の種類は違えど、多くの国で扱われる処刑法でもある。驚いた里琉に、イーマ大臣が静かに肯定を示した。

「この国の処刑法は二種類あります。絞首あるいは斬首。前者は女性、後者は男性と決まっています」

「……何故、男女で違うんですか?」

「歴史上、女性の方が罪が重いようにされています。絶命するまでの時間がより長い絞首を女性としたのはその為です。統一化するべきでは、という声もありますが、今の所、変更する予定はありません」

 女性は守るべき存在であり、弱い存在である。だが、だからこそ罪を犯した時の重みもその分増える、ということなのだろう。理解は出来るが、あまりいい気分はしない。

「処刑人も男女で別です。今日は男性ですので、男性が処刑します」

 そこは別々ではないらしい。もっとも、斬首するとなれば相応の重い殺傷器具が必要となるので、当然だろう。

「絞首台は別にある、ということですか……」

「処刑に応じて、台を持ち出します。劣化をなるべく抑える為に、普段は専用の場所へしまっていますので」

 なるほど、と納得した。雨風に晒され続ける時期もあり、更にこの激しい日差しの中に置いていたら、替えがいくらあっても足りるまい。

 ややして、別の所から誰かがやって来た。手を後ろにくくった男を連れている。

 男の服はボロボロで、ところどころ血が滲んでいた。何をされたらそうなるのかと問いたいが、嫌な答えしか想像つかないので、里琉も口をつぐむ。

 そして連れて来たのは小太りの男だ。怯え震える男を無言で台に固定し、備え付けられている斧を引き出す。それは良く磨かれ砥がれた、まさしく殺す為の道具で。

「……執行を」

 短いイーマ大臣の言葉を合図に、斧は躊躇なく男の首を――ずどん、と重い音を立てて斬り落とした。

 首から噴き出す血が、地面を赤く染める。転がった男の首は顔が見えないが、里琉は口元を押さえて血の強い匂いに顔をしかめていた。

(…………気持ち悪い)

「執行の完了を確認しました。ご苦労様です。あとはいつもの場所へ」

「……へえ、分かりました」

 処刑の凄惨さに顔色一つ変えず、イーマ大臣は背を向ける。里琉はそれについて歩きながら、ちらりと背後を見た。


「……これで、お前さんは眠れっからなぁ」


 そう処刑人が声を掛ける姿を、イーマ大臣はきっと見ないのだろう。

 イーマ大臣が次に連れて来たのは、全く違う場所だった。正直、見た瞬間に里琉は一歩下がった程度に、陰惨な場所。

「ここが拷問室です」

「……この国、拷問が普通にあるんですね」

 宰相が拷問にかけると言っていたのは、誇張でも何でもなかったらしい。さすがにこんな場所で死にたくはなかったので、結局のところ、部下の話は引き受けて正解だったようだ。

「当然です。己の罪を認めぬ者には、苦痛を与えて白状させなければ処刑出来ませんから」

「……処刑する為に拷問するんですか?」

 拘束具、あえて手入れのされない刃物、こびりついた臭気。道徳も倫理も、この部屋に限っては存在しないのだろう。

 イーマ大臣は冷たい瞳で里琉を見た。

「例えば、先ほどの処刑された男。何の罪で捕まったと思いますか」

「……処刑されるくらいですから、何人も殺した、とか、ですか?」

「いいえ。あの男は未婚の女性の住む家に押し入り、強姦した罪で捕まりました」

「…………? それだけで、死刑、ですか?」

 よくある話だ、と思ってしまうのは、これまで生きていた国でよく耳にしていた事件だからだろう。

 だが、法の重みが違い過ぎて、里琉には上手く理解が及ばない。

「この国の女性の存在意義は、子を成し育てる事です。ですが、同時に弱者でもあります。弱者は守るべき存在であり、蹂躙してはならない。この国において、弱者を蹂躙するという行為は死を以て償うべき大罪なのです」

「……な、何故、そこまでするんですか? 更生の余地も無く処刑するのは、極端に思えますが」

「この国の歴史、成り立ちはまだご存知では無いようですね」

 興味が無かったが、関係しているのだろう。彼が話すなら、里琉も聞く姿勢だ。

 そしてイーマ大臣は里琉の態度を見て頷き、その部屋を出て別の場所へと移動した。

 小さなその部屋は、だが本棚が壁一面にあり、どれも分厚い装丁がされている。

「どうぞ、お座り下さい」

「……失礼します」

 椅子を示され、里琉は座った。彼も座り、本を開きながら話を始めた。

「かつてこの国は、誰も居ない土地でした。数百年前、ティネにて起こった奴隷解放戦争にて逃げ延びた者達は、この土地に辿り着き、新たな国を興したのです」

 その大半が、奴隷だったという。奴隷たちは自由を手にし、二度と屈辱を味わう事のないように、確固たる国を築いていったとイーマ大臣は語る。

「そして、奴隷の証であった首枷、或いはそれを想起させるものを禁止し、重大な罪を裁く為に、首に関係する処刑法を定めたのです。そしてその一方で、国を繁栄させるには、女性の存在が必要不可欠だと結論づけられました」

 だが女性を優遇した結果、一時期は女性本位の政治となり、国は傾いたという。その為、女性の罪を重くし、その力を削いでいった結果が、今の状況らしい。

 何とも極端だが、元奴隷という、政治とは無縁の者達で興した国だ。バランスなど、簡単にとれるはずもない。

「女性を政治に関わらせてはいけない。それが暗黙の了解というものでした。しかし前王妃様が政治に介入したことで、それも崩れ、そして今、貴方という女性が宰相の部下になるべく、我々大臣からの教育を受けている。……当然、会議でも反対の声が上がりました」

「あなたも、反対した方ですか?」

「いいえ。貴方が法を犯すその日が来るまで、私は宰相様の指示に従います」

 なるほど、つまり罪を犯さなければそれでいい、ということか。里琉はそれに頷いた。

「分かりました。では、女性が絶対に守るべき法を教えてください」

 知らずにやったことが罪でした、では困る。明確に、そして正直に教わるなら今だろう。

 イーマ大臣は頷き、カリカリとあの板状になった石板に何か書き記し始めた。

「そういえば、この石板の性質について発見したのは、貴方だそうですね」

「偶然によるものですが、もう使われているのですね?」

「今朝方、宰相様が倉庫にある石板を使って実験を行った結果、黒地石は水によってこのように分離する事が判明した、と報告を受けました。そして各大臣につき石板一枚分を使用し、その経過を報告するよう言われています」

「……そうですか」

「偶然にせよ、貴方が発見したという事実が重要です。女性が政治に再び介入し、我々男性とは全く異なる観点から国を発展させる事が可能だと証明されれば、過去の過ちを繰り返す事は無いでしょう」

 そして書き終えた彼は、それを里琉に渡す。

「文盲との事ですが、読めるようになれば理解出来るでしょう。この国の女性が守るべき最低限の法を記しました。中身は今から説明します」

 いつでも読み返せるようにしてくれたらしい。その方が助かるので里琉もありがたく受け取る。

 そしてイーマ大臣の説明が終わった頃、昼の鐘が鳴り響いた。

「では、法の天秤に乗る事の無いよう。本日はこれで終わりです」

「ありがとうございました」

 頭を下げて、里琉はそこを後にする。さて、あの厨房はどの辺りだっけ、と思いながら歩いていると、不意に声を掛けられた。

「あ、あのっ!」

「……はい? あ、昨日の」

 農園まで案内してくれた彼だ、と里琉は思い出す。

 振り向いた里琉を見てもがっかりした顔はせず、だが赤い顔で彼は言った。

「ぼ、僕と、お昼……を」

「ごめんなさい。先約があって。……また今度」

 物好きだなと思いながらも、ガルジスとの約束があるので断る。見るからにがっくりした彼は、だが次には別の提案をしてきた。

「で、でしたら、夜は……!?」

「夜……ですか。ちょっと色々とする事がありますし、遅い時間になるので……」

「構いません! 遅い時間なら、尚更一人になんてさせられません!」

「……はあ、そうですか……? じゃあ、夜に食堂で」

「あ、あの、ちなみになんですが……今から、どなたと?」

 それを教える義理は無い。里琉は首を横に振って言った。

「別の知人と、です」

「す、すみません……余計な事を訊いてしまって。あの、じゃあ、夜、食堂で待ってますから」

 なんだかな、と思いながら、里琉はとりあえず厨房のある方向へと向かった。多分適当に歩けば着くだろう。

 その途中で今度はフィリアに会った。

「あら、リル。聞いたわよ。あんた凄い事したんですってね」

「もしかしてこれ?」

 手にしていた薄い石板を見せると、フィリアが頷く。

「そうよ。あ、どっか行くの?」

「多分だけど、料理長が居る厨房。こっちで合ってる?」

「合ってるわよ。何なら案内したげるわ。面白いもの見られたし」

「実験って言ってましたけど、もしかしてフィリアさんが?」

「正解。あんな石板、普通水に浸けないわよねえ。バケツの水かぶったものを放置したら出来たとか、後世に語り継ぎたくないんじゃないかしら」

 多くの発見はそういう偶然によるものなのだが、歴史を記す人間はどこか綺麗に書きたがる。そういうのも書き換えられてしまうのだろうか。

「でも、宰相は喜んでたわ。これまで輸入でしか賄えなかった高価な紙の代わりに、それが実用性のあるものだと証明出来たら、かなりの支出が抑えられるそうよ」

「そっか。紙ってこの辺りじゃ難しいよね」

 砂漠地帯では、紙より石板なのはどこでも同じらしい。しかしまるで下敷きのようなそれは、文字を記したものを光にかざすと、光を上手く透かして綺麗に見える。

「ただの文字なのに、模様みたいだ」

「そうね。案外そういうのにも今後、使われるかもしれないわ」

 いい匂いのする場所の扉を開くと、そこには既にガルジスが居た。

「お、来たか。何だ、フィリアも一緒なのか?」

「私は案内しただけ。それより、団長さんが一緒なら安心ね。……ちょっと歩いた時に、あちこちで悪い虫の羽音がしたわ。気を付けてあげて」

「……おう。悪いな」

「じゃ、私はこれで。この後、それの耐久試験したいから、レーションだけもらってくわ」

「まだ何かやるの?」

「もちろんよ。やっと暇潰しが出来るわー!」

「いいなぁ……」

 里琉だって携わりたいが、午後一で正門前に行くよう言われているので、それは無理だ。

 料理長が持って来た料理を受け取った時、料理長がこそりと言う。

「あれは、大成功でしたよ。お礼に、いつでもおいでください。焼き菓子などの試作も行っておりますので」

「わ! ありがとうございます! 嬉しいです!」

 やった、と喜ぶ里琉を連れて歩き出すガルジスは、呆れた声で言う。

「お前すっかり気に入られたな。まさか塩水で苦味抜き出来るとは誰も思わなかったぞ」

「もしかしたら王宮だと逆にそういう発想が無かっただけで、民間だと当たり前だったりしてね」

「それから、そいつもな。偶然でも大したもんだ。お前はここの生活を既に二つも変えたんだから」

「利便性を追及するつもりは無かったんだけどな。……でもまあ、役に立ててるならそれでいいよ」

 以前と違う隠れ部屋にある、蒼輝石のブローチは、相変わらずとても綺麗で。

(恋人じゃないなら、誰があげたんだろう? 自分で注文して作ったようには見えないんだけどなぁ)


※ ※ ※


 あのイーマ大臣の授業を受けてなお、彼女は食事をする元気があるらしい。精神面において、相当な頑丈さだとイシュトはむしろ感心する。

 そんな彼女が、ふと思い出したように問いかけて来たのは、ブローチの贈り相手だった。

「あれは父上からの賜り物だ。……そもそも蒼輝石の事を知らないんだったか?」

「知らないです! 特別な石ってことは、もしかして教えてくれるんですか!?」

 きらん、と目を輝かせる彼女は、何の曇りもない瞳を向けてきた。

「私まだ文字が読めないので、本で調べられないんです。良かったら教えて下さい!」

「……あー、分かった。お前が無類の石好きなのは、何かもう、本当によく分かった」

 脱力するガルジスの反応はもっともだが、知ってた方がいいだろう、とイシュトも教える事にした。

「そもそも蒼輝石は、王族だけが所持出来る石だ。従って、売る事は出来ない」

「そうだったんですね。それなら見れただけでも幸運って事ですか?」

「ま、そうだなー。身に着けてりゃ基本的には王族って証だが、……さて、リル。お前に質問だ。何で堂々と扉に付けてると思う?」

 試すように問いかけるガルジスに対し、里琉は特に深く勘繰ることもなく首を傾げながら答えた。

「そもそも蒼輝石を知らない、あるいは見た事無い人がほとんどだからじゃないですか? もっと言うなら、大臣クラスでも滅多にお目にかかれない代物だろうし、ブローチも石そのものも派手じゃないので、堂々と着けてた方がむしろ見逃されやすいのかなと」

「割と近い。そもそも陛下は装飾具の類が苦手でな。ブローチも式典くらいしか使わないし、石の色も目立ちにくいだろ。で、最後に見たのが一年前ってやつらがほとんどなんだ。……蒼輝石は光に透かさないと、その意味を理解出来ない。傍目には下手すりゃその黒地石に近い色味だしな」

 概ね正解に近かった彼女の答えに、ガルジスが補足する。彼女はそれを特に喜ぶ事も無く、手元に置いてあった薄い石板を手に取っていた。

 そこに書いてある内容に、イシュトは目を丸くする。

「お前、それは誰からもらった?」

「イーマ大臣です。私まだ読めないんですが、この国の最低限の法を書き記してくれたんですよ。これだけでも読めるようになりたいな」

「あのイーマ大臣がか!? ラバカ大臣は駄目だったんだろ!?」

「何でそんなに驚いてるの?」

「驚くわ! イーマ大臣は人嫌いっつーか、この国の人間が嫌いなんだよ。あの見た目で分かるだろうけど、ティネの血を引いてるんだ。前任の法務大臣の息子なんだが、屋敷じゃ随分冷遇されてたらしくて、それで人嫌いになったって話だぞ」

「ふうん。ラバカ大臣よりマシだね」

「……そんなにあの大臣は嫌いか?」

 子供嫌いで女性を軽視とまでは言わずとも政治に介入させるべきではない、という考えのラバカ大臣からしたら、里琉の存在は確かに邪魔だろう。よく無事に戻ってきたくらいだし、何なら自分から教育を断ったというのだから、彼女は豪胆だ。

「どうでもいいです。村の子供達から信じられてない時点で、あの大臣は見るべき事を見ていないので」

「お前には何が見えたんだ」

 ただの疑問だった。しかし彼女は存外真面目な表情になり、その瞳に鋭さを宿らせる。


「村全体が抱える問題が見えました。子供達は独自のコミュニティを形成し、大人たちに頼る事を放棄しています。……少なくとも、ラバカ大臣には解決出来ないでしょう」


 ざっくりと言い切った彼女は食事に戻る。ガルジスはため息を吐いて言った。

「……まあ、こいつを信じられてない時点で詰み、でしたけどね。あの大臣、身内が問題起こしたせいで余計に頑なになってるんでしょう」

「…………ああ、やっぱりそうなんだ?」

「聞いたのか?」

「尋ねられたんだ。身内が罪人ならどうするか、って。あの人の望む答えは、私の答えじゃなかったみたいだけど」

「お前何て言ったんだよ」

「確か、身内なら更生の余地があればそうするべきじゃないかな、とかそういう感じ。身内じゃなくてもそれは変わらないし、悪い事をしたら裁かれてから償えばいい。……それが死刑なら、死ぬしかないよね、とは思うけど」

 なるほど、とイシュトは理解した。彼女はだからこそ、イーマ大臣に認められたのだろう。

 法を第一に考えるイーマ大臣は、罪の重さを何より重視する。だからこそ死刑のやり方を変えるべきではという声に応えないし、何故そうなのかも説明出来るのだ。

「お前あれか。親しい人間にだけ甘いタイプか」

「どうだろう。私、元の世界で友達居なかったんだよねー」

「嘘だろ。その社交性でか!」

 ガルジスも驚いているが、イシュトも驚いた。彼女のような人間なら、放っておく人間の方が少ないだろうに。

 だが里琉は、本当だと断言する。

「だってこの世界では、誰も過去の私を知らないんだ。それって、つまり本来の自分で居てもいいって事だろ。そうしてるだけだよ」

「じゃあお前、元の世界では……」

「あんまり人目に触れたくなくて、一人で行動してた。だから他人に興味無くて、石ばっかり眺めてたよ」

「全然そうは見えなかったんだがなあ。じゃあ何で、帰りたいって思うんだ?」

 ガルジスの疑問はもっともだ。そんな風に人目を気にして生きるような世界に、何故帰りたがるのか。

 しかし里琉は、その問いに黒地石の板を示して答えた。


「義務。結婚が義務の国なんて嫌だ。どうしても帰れなくなったら、こんな義務の無い国に行く」


「……そんなに嫌か?」

「当たり前じゃないですか。義務の為に結婚相手を探すなんて、時間の無駄です。妥協して終わるのがオチです。そんな暇があるなら、鉱石眺めてる方が百倍マシです」

 この国では、繁栄を目的として、認可された事情が無い限り、独身で居る事は認められない。子供が生まれるかどうかはその後の問題なので別だ。

 確かにそれでは、彼女も義務に縛られてしまうだろう。

 だが、ガルジスは苦い顔でそれに返した。

「今のお前なら、逆に候補が結構出ると思うぞ。……ただ、そいつらがまともにお前と話せば別だろうけどな」

「昨日の化粧のせいだろ。そんな理由で誰が」

「自覚はあるんだな」

「化粧した人に罪はないですから。だからってあの化粧だけ見て勝手に候補にされても、こっちは迷惑です。顔で選ぶなら他行けって言います」

 忌々しそうな顔をする辺り、あの化粧は気に入らなかったのだろう。だが、ふとイシュトは気付いて問いかけた。

「その化粧はどうした? ……質が落ちているが」

「! ……え、っと、分かるんですか?」

「……あー、なるほど。確かに質が悪いな。あれか、村の子供にしてもらったやつか?」

「うん。……そうか、私は特に気にしなかったけど、質が悪いのか……」

「どうしたんだ?」

 ガルジスの疑問に、里琉は少し不満げに呟いた。

「質が落ちるって事は、その分、肌に与える負担も増えるって事だ。そうしたら子供達は、この先、質の悪い化粧品を使い続けて、逆に肌に悪影響が出るかもしれない」

 自分はいいのか、と思ったが、気にしていないというのならとやかく言うつもりはない。

「ラバカ大臣はそこも見てないって事か。何が厚生大臣だよ。子供の事一つも知らない癖に」

「なんだなんだ、本当に嫌いなんだな、ラバカ大臣が」

 温厚そうだが、もしかしたら苛烈な一面があるのかもしれない。ラバカ大臣にこれだけの悪意を持つのなら、半年前の事を知ったら、どうなるか。

 しかし里琉は、首を傾げた。

「……嫌い、か。うん、そうかも。何でだろう」

「……お、おいおい。自覚してないのかよ」

「いや、子供達が信用していないのと、私が信用されてないのとで、こう、むかついてるっていうのは分かるんだけど、嫌いっていうのが出て来なかったというか」

 人と関わらなかった為だろう。好悪の感情に対し、鈍いのかもしれない。

「あ、そうだ。身内が犯罪を起こしたら、って話もさっきしたけど……イシュトさん、妹さんの目の前で、人を殺したんですっけ?」

「!?」

 唐突に話を切り込まれて、イシュトはぎょっとした。ガルジスも驚いたあまり、むせている。

「こ、っ、こら、リル!!」

「いや、気になったから。大罪人とはいえ、妹の友人だった人を、家族の前で殺すって、相当すごい勇気が要ると思うんですよね」

「勇気?」

 何とも奇妙な言葉の組み合わせに、イシュトは一瞬毒気を抜かれる。

 そんな前向きな感情ではなかった。あの時あったのは、賭ける覚悟だけ。そしてそれに、自分は負けた。それだけだ。

 しかしそんな事を知らない里琉は、言葉を続ける。

「だって、大事な家族に一生嫌われて会えなくなってもいいから、助けたかったって事でしょう? 結果はともかく、そういう意図だったら私は納得する」

「つまりお前でも同じ道を選ぶって事か」

「分かんない。でも、カズ兄は選ぼうとしてたから、理解はちょっと出来る」

 彼女にとって、模範解答は兄なのだろう。尊敬を込めた声と表情で分かる。

「何かあったのか?」

「アズ兄が反抗期でちょっとまずい道に走りかけた事があったんだ。私は子供の頃だから、後で何度か聞いたけど、結構ヤバいのに手を出そうとしてたみたいで」

 内容は分からないが、法律に触れるようなことなのは、イシュトにも分かった。そして里琉は、苦笑して続ける。

「サト兄とカズ兄がその現場でアズ兄を保護して、サト兄はまずアズ兄を殴って、カズ兄はその場で弁護士……国家資格のある仕事を捨てようとしたらしいんだ。その理由が、大事な家族を止められないなら、自分にはそれを持つ資格なんてないから、って」

 つまり同じだよね、という言葉で彼女は締めくくった。

「お前の兄……すげえな」

「すごいよー。アズ兄はその後、ちゃんと改心して今はモデルやってるんだ。顔が綺麗だし服のセンスはあるし…………私とは大違いで」

 ほんの一瞬、彼女に浮かんだのは――劣等感。

「あっ、私の話ばっかりになってしまってごめんなさい。あと、詮索するつもりはなくて、ちょっと気になっただけなので。……妹さんが大事だったらいいな、っていう私の希望もちょっとあります」

「お前、会ったのか?」

「……はい。昨日、離宮で。……あの女官さえ居なかったら……もっとちゃんと、治療出来るのに……!」

「おい、リル。落ち着け」

 また不意に、彼女から怒りが見えた。妹がどうなっているのかイシュトには分からないが、彼女がそこまで気にする事ではないだろうに。

「……分かってる。でも、うん。……あのカーエって女官も、嫌いだ」

 誰だ、とイシュトは怪訝になる。しかし、ガルジスは首を横に振るだけだった。言うつもりは無いらしい。

「……お前も本当、時々人がいいよなぁ」

「そういうつもりじゃないんだけど……でも、王女様は信じてくれるって言ったし……それに、あんなに具合悪そうな姿を放っておくのはちょっとね」

「それをお人好しと言うんだよ。お前の心配は分かるが、今はやれることをやるだけにしとけ。下手に警戒され過ぎると、動きにくくなるぞ」

 ガルジスに諭されて、里琉は不満そうに頷いた。

「……離宮で王女様が会いに来れば、話は別だからね」

 そう付け加えて。

「まあな。そうしたら、ちゃんと薬湯を飲ませてやってくれ」

「うん。エクスさんも心配してたし」

「……無理に助けようとはするな。お前が背負う必要はない」

「……あ、一つだけ教えて下さい」

 気になったらしい里琉は、イシュトに問いかける。


「妹さんの事、大事ですか?」


 それは、国としてではないのだろう。家族として、兄と妹としての個人の考えを、彼女は聞きたいのだと分かる。

 だからイシュトは、端的に答えた。

「……大事だ」


 ――次の瞬間、里琉の表情は柔らかくなる。


「良かった」

 驚きと、奇妙な高揚感が同時に湧いて、イシュトは困惑した。

「おま……なんつー顔を……」

「え!? 何いきなり!」

「いや、お前確かに女だわ……。他の奴らも心配してるけど、もうちょっと自覚しろ」

「と言われても……。どうでもいいというか……」

 あっという間にいつも通りの彼女は、何一つ分かっていないのだろう。

「っと、いけない! 次は王宮の正面入り口って言われてるんだ! 私先に行きます!」

「あ、待て待て。お前、今日の夜は?」

「昨日と同じコースだから、どうせ時間ギリギリに食堂居るよ。……あ、確かさっき、夜に待ってるって言われてたんだ。どうしてか一緒に食事したいって言われてて」

「は!? お前それ受けたのか!?」

「うん。何かしつこそうだったから、面倒で」

 もしかしなくても、彼女は馬鹿なのだろうか。

 そうイシュトが思う程度には、あまりにも簡単に誘いを受け過ぎである。

「おいおい……それ断っていいんだぞ?」

「遅い時間になるって言ったのに、食い下がられたんだよ。心配してるっぽいけど、何か余計なお世話だなーって」

 そこまで思うなら、何故断らないのか。否、断り方を知らない、という事だろう。

「ったく……お前もっと危機感を持て! ていうか、もうこの際、昼も夜も俺と陛下と食え!」

「えええー!?」

 不満そうだが、これを放置すると面倒な火種になりかねない。イシュトも承諾を返す。

「……宰相の部下になるという自覚は持て。食事の間位なら、話に付き合ってやる」

「…………ますます意味が分からないです。あー、でも断る口実にしていいなら」

「俺が迎えに行くから、それでいいだろ。ほら、片付けてやるから行けって」

「今日はさすがに受けちゃったし、食堂行くけどいい?」

「……よし、俺がお目付け役で付いて行くからな」

 ガルジスの保護者ぶりも極まってきたようだ。

 里琉は急いでいるのか、それに頷いて急いで出て行く。

 それを見送ったガルジスは、ため息を深く吐いた後、イシュトに向き直る。

「…………あの、陛下。一つ頼みがあるんですが」

「何だ?」

 あれを王妃にしろ、とかなら却下だが、彼の提案は全く別の中身だった。


「一ヶ月でいいんで、あれを鍛えるの手伝って下さい」


 なるほど、彼女自身を強くすれば、撃退は不可能でもない、ということか。

「人目に付かない場所と時間なら考えてやる」

「助かります。あと今夜は俺が妨害します」

「好きにしろ」

 彼女の人となりは大体分かった上で、イシュトは彼の提案を受ける事にした。

 それにしても、とイシュトは一人になった部屋で考える。

「……本当に真実を暴く気じゃないだろうな、あれは」

 興味が無いと言いながら踏み込んでくるのは、一体どういう思惑なのか。

 しかし自分の考えで動いているのは間違いない。そうでなければ、妹に関する質問で、あんな顔はしない。

「……厄介な奴が来たな」

 昨日の化粧よりよほど、魅入られた。確かにあれを無意識にされたら、普通の男はあっさり落ちる。

 ガルジスが心配するのは当然だし、イシュトとしても下手な男に手を出されたくないと思ったほどだ。

 だがそれは、恐らく。

「……ライリアーナ」

 妹はあの日、何も変わらなかった。この先も何も変わることなく、終わるのだろうと思っていた。

 だが、アリスィア以外を信じると告げた事が本当ならば、妹はまだ――余地があるのかもしれない。

「…………リル、か」

 初めて口にした彼女の名前は、不思議と心に馴染んだ気がした。


※ ※ ※


 正門前に来た里琉を待っていたのは、壮年の男性だった。

「おお、貴方がリル殿ですな!?」

「はい。よろしくお願いします」

「うむうむ、よろしく頼みますぞ。私はルゴス。この国では建築大臣を担っておりますぞ」

 この国の建造物について教わる事が出来る、ということか。それはそれで興味がある。

「既に隠し部屋などは利用されてますかな?」

「はい」

「では、今回は特に使わないような、隠し通路を案内致しますぞ」

 てくてくと歩き出すルゴス大臣は、気さくに声を掛けてくる。

「私以外の大臣にはもう全員、お会いしたはずですな?」

「そうなんですか? ではルゴス大臣が八人目、ということなんですね」

「そうそう。八人揃った時の会議は中々に賑やかですぞ」

「……ああ、何となく分かりますね」

 揃いも揃って癖の強い人物しか居ない。まとまるどころか口論が激化しかねない大臣も居た気がする。

 里琉の意図を察したのか、ルゴス大臣は面白そうに笑って頷いた。

「宰相殿がそれをうまくまとめ上げておられましてな。いやはや、頭が上がりませんぞ」

「……それはすごいですね」

 胃薬でもプレゼントした方がいいのではなかろうか。もっとも、あの宰相がそれを必要としてるようには見えないが。

 ルゴス大臣は地下の通路を歩いていく。どこに繋がっているのか知らない里琉は、だがこんなに長い通路の上に王宮が建っている事の方に驚いた。

「地盤とか大丈夫なんですか?」

「この通り、問題ありませんぞ。元々ここも山でしてな。我々の先祖が山を越えて辿り着いた先は、先住民さえ居ない未開の地だったと。……当時は木々もあった、と記録にありますな」

「木々……全く見かけないレベルでしたけど……」

「それに関しては今度にしまして。石で出来た山を切り崩しながら開墾し、王宮はこのように出来上がりましてな。元より奴隷達は力仕事を得意としておりました。中央宮、離宮、そしてのちに後宮も作られ、この国はレダとして興ったのです。数百年前の話ですな」

「い、意外と……最近ですね」

 だが、奴隷解放戦争が関わっているなら、妥当な時期だろう。文明が遅れているのも、理解出来る。

「歴史が浅い分、成長の余地もある、と思って下さいませんかな? ……とはいえ、悠長に構えてもいられませんなあ。陛下が戻られなくなってもう半年。王宮より先に国が崩壊しそうですぞ」

「戻す気無いんですか?」

「簡単に言いますなあ。半年前の騒ぎを知っておられたならば、そのようには言えますまい」

「他の人からはざっくり聞いてますけど、真実に辿り着けなければ戻らないって、王様が言ったそうですね」

 さも又聞きしたかのような言い方をしてみせる里琉に、ルゴス大臣は肩をすくめた。

「ええ、騎士団長殿によって、その文書が我々に突きつけられましてな。そもそも事件から三日後に唐突に姿を消した直後、我々も総出で王宮の敷地内をくまなく探し回ったのですぞ」

 そこまでしても見つからなかったのなら、隠れ方が相当に上手かったのか、それとも。

(あの人なら、平気な顔をして探す側に混ざって、しれっと部屋に逃げ込んでもおかしくないかも)

 それくらい、静かな空気と気配を持っていた。大勢の中に居たら、絶対に気付けない。

「見つからない、と焦る我々の元に、その更に三日後、騎士団長殿が我々を集めて、目の前で文書を見せ付けたのです。……事件の真実に至る者が居ない限り、王が戻る事はない、と。それはもう、非難ごうごうでしたとも!」

 非難した側でよく言うな、と里琉は内心で呆れる。しかしディアテラスの事さえ知らないのなら、王を責める事しか彼らには出来ないのだから、致し方なかった、とも言えた。

「宰相殿がもっとも早く、それを承諾しましたな。時間の無駄だと思ったのでしょうが、その後からが地獄でしてなあ。……陛下の仕事がほぼ全て我々に、そして重要なものはとにかく宰相殿に。宰相殿はティネの民ですが、先王の親友でもありましてな。……ティネでも大賢者と呼ばれたというその才能は、まさしく本物でした。宰相殿が居なければ、国はもう崩壊してしまっていたでしょうな」

 だろうな、と里琉は情報から総合判断して内心で同意する。

 各大臣は自分の判断で勝手に動いている感じがした。連携も取らず、己の領分で手一杯。そこに里琉という新参者を投入し、教育するという仕事まで増やされたのだから、内心は文句たらたらだろう。

 それこそ里琉にそこまで思われている時点で、国の基盤などたかが知れている。むしろこれまでよくやってこれたものだ。

「で、真実を探すつもりはないんですか?」

「無理ですな」

 一応尋ねると、即座に返された。まるで拒絶のように。

「……どうしてですか?」

「リル殿は陛下をご存知ないから言えるのですぞ。陛下は肝心な事を何も仰らず、ご自身で決めて行動してしまう悪癖がございましてな。アリスィアの件も恐らくは、ご自身だけの判断によるものであり、我々を信用しなかった、と……そう解釈されても、仕方ないのでしてな」

 ルゴス大臣の言葉はともかく、その声に滲み出る王への不信が、里琉をわずかに不快にさせた。

「事件から三日間、何か調査してたんですか?」

「む? 我々が何もしていないと思いましたかな?」

「いえ。……三日後に姿を消した、と言っていたので、その間に王様から話を聞くとか、しなかったのかなと思いました」

「もちろん、数名が聴取にあたりましたとも! しかし陛下はだんまりでしてな。詳細は知りませんが、尋問の仕方が悪かったんでしょうなあ」

「……ええと、ルゴス大臣は何を?」

「私はアリスィアに関する調査をしてましたからなあ。陛下が殺すに至る動機なども気にはなりましたが、アリスィアが大罪人だという確たる証拠が無ければ、陛下は信頼厚き女官を独断で殺しただけの、愚かな王と呼ぶしかなくなりますからな。……結局それらは、前国王陛下夫妻が遺していた証拠によって、大罪人と断定出来たわけでしてな」

 つまり、彼らの功績ではなく、イシュトやライラの両親の功績、と言う事らしい。

(無能かよ)

 心の中だけで吐き捨てる里琉は、何故こんなに苛立つのか、自分でもよく分からなかった。

「アリスィアの事を調べたなら、アリスィアの死体は調べたんですよね?」

「調べる? 何をですかな?」

「えっ……死んだ後、放置してたんですか?」

「そりゃもちろん、目の前で陛下がアリスィアを刺し殺した目撃者が居る以上、死因など死体を調べる意味もありませんでしたしな。大罪人であれば、葬儀も不要。死の砂漠に埋められてしまうのみです。その手の事は他の者が担う仕事ですからな」

(え? 真面目に言ってるの? だとしたら相当抜けてるんだけど)

 有益どころか無益な情報しか出てこない。つまりそれは、彼らがアリスィアを「ただの人間」だと信じていた事に他ならなかった。推論は合っていたことになる。

 そうやって自分の目で確かめないから、国が傾いたのだろうに。

「じゃあ、他の大臣もアリスィアの死体に関しては何も知らないんですか?」

「知らないでしょうなあ。姫様も懇意の女官を目の前で殺され、半狂乱になっておりました。失意のままにその日の夜には離宮へ移られてしまい、死体の行方など誰も気に留めなかったかと」

(うん、私がアリスィアならこれは余裕で逃げ切れる)

 無数の隠し通路、死なない体、王と王女のそれぞれの騒ぎ。絶対に見つからない自信さえあるだろう。

 何故辿り着けないであろう真実を、と思ったが、これはもう、王の方が正しい。

(これ王様の代で何とかなったとしても、次世代で滅ぶわ)

「あのー、アリスィアが実は死んでなかったらまずいんじゃないですか?」

「いやいや、何を申しますかな!? あの死体を見たら、即死だとすぐ分かりますとも!」

「え、だって死体の行方分からないって、怖くないですか?」

「現にあれからアリスィアを見た者は、誰も居りませんぞ! 全く、どうしたらそんなとんでもない事を考え付くのですかな!?」

 むしろ何故それで安心出来るのかと問いたい。が、ディアテラスの事を言ったら、それはそれで騒がれそうだ。

「……昔読んだ物語で、死んだ人間が生き返る話、あったなと思いまして」

「ああ、何だ、奇跡の話でしたか! だとしても、あのアリスィアを生き返らせようとする前に、奇跡の力がもっと他に使われてもいいはずですなあ」

「……まあ、そうですよね」

(駄目だ、この人、真実を知る気がない。教えないでおこう)

 里琉は彼らの協力を仰ぐのを断念した。ダメ元で考えた事だが、ここまでとは思わなかったのだ。

 やがて、辿り着いたのは見知らぬ建物だった。

 豪奢な雰囲気はあるが、寂れてもいる。窓らしき場所は全て布が張られ、入り口には厳重に鎖が張られていた。

「ここは?」

「後宮ですぞ。いやはや全く、使われなくなって久しいですがな」

「どうしてですか?」

「数代前の王が、側妃の一人と心中しましてな。世継ぎは居たものの、それをきっかけに正妃が自殺、側妃達も次々と気が狂っていったそうでしてなあ。気の毒に、残された世継ぎは一人で中央宮の者達に育てられ、真実は闇に葬られてしまわれましてな。……後宮はそれ以来、閉鎖。その代からは、正妃ただ一人を選ぶ事になり、夜伽の仕組みも大きく変わりましたぞ」

「……よとぎ?」

 聞き慣れない単語に首を傾げる里琉を、ルゴス大臣はぎょっとした目で見た。

「まさか、知らぬのですかな!?」

「え、はい」

「それはいけませんぞ! ……ふうむ、宰相殿は一体、何を考えておられるのか」

 いいから意味を教えて欲しい、と思っていると、予想外の声がした。


「夜伽ってのはね、王様の夜のお相手の事。って言っても、当の王様は五年前からやってないらしいけど」


 フィリアだった。何故ここに、と驚くと同時に、ルゴス大臣が渋い顔をする。

「研究員殿ではありませんか。……後宮の地下を未だに使い続けているようですが、前王妃様も居られぬ今、残る意味はないのでは?」

「あら、ご挨拶ですわねぇ。まあ、大臣様方には王妃様のお考えなど、あずかり知らぬ事ですものねぇ」

 嫌味ったらしく言うフィリアに、ルゴス大臣は苦々しく言い返す。

「……リカラズなどという国の出身なだけでも、十分に怪しいというのに、堂々と訳知り顔で王宮を歩き回る姿。……分を弁えて頂きたいものですな」

「これでも弁えておりますわよ? 今は宰相さんのご命令で、彼女の教育に携わっている身ですもの」

「……あの、ルゴス大臣。リカラズがどうかしたんですか?」

「何と! リル殿はそれさえもご存知でないと!? ……リカラズという国は、狂人の集まり。人体実験を繰り返しながら、国を発展させていったのですぞ。我々にとってはおぞましい代物を生み出しているとか何とか」

「ええ、否定しませんとも。ですが、そこから逃げ出したという意味をご理解なさって? 王妃様は、だからこそ私を拾って下さったのですから」

 二人のやり取りに、里琉は軽く眩暈がした。

(この大臣、もしかしなくても、前国王夫妻にいい感情を持ってなかったんじゃないのか? でなかったらここまで険悪にならないだろ)

 ティネは因縁があるから分かるが、リカラズは理解が及ばない為に拒絶している、というのがありありと伝わってくる。これでは、真実など到底掴めるわけもなかった。

「あの、フィリアさん、どうしてここに?」

「あら、だって後宮の地下室は私が借りてるもの」

「……あ、だからさっき後宮の地下がって……」

「前王妃様に、拾われるなり突然、研究所を強請ったのですぞ! おこがましい事に!」

「どうせ使わない場所なら、有効活用するべきと言ったのは、その王妃様ですわ。私はどこでも良かったのです。……研究設備さえ置けるのならば」

 フィリアにとって、それがあるからこその存在価値だったのだろう。拾った相手に自分の力で報いたい。だからこそ、傲慢だろうとも研究施設を求めたのだ。

 そしてその結果、ディアテラスの存在を少ない人数でも知れたのだと分かる里琉は、とてもルゴス大臣に同意出来なかった。

「さ、リル。せっかくだから見て行きなさいよ。……ああ、大臣様もいらっしゃいます? リカラズの英知、知って損はありませんけれど?」

「お断りですぞ。……リル殿、残念ですがここまでですな。宰相殿にはお伝えしておきますぞ」

「そうですか。ありがとうございました」

 どう伝えるかは、最後に会った時に分かるだろう。そのまま里琉は、足早に去るルゴス大臣を見送る。

 そしてフィリアに連れられて研究所とやらに踏み入った時、その光景にぽかんと口を開けた。


 ――見た事のない機械、パソコンのように見えるが恐らくは別物の何かが、床のあちこちのコードに繋がれてランプをしきりに点滅や点灯させている。まるでここだけ別世界だ。


「ようこそ、私の聖域、研究所へ。あんたなら歓迎するわよ、リル」

「……すっっっ……ごい」

 やっと出たのがその一言だ。どこからどうやって集めて作ったのか、知りたいほどである。

「ちょっとした伝手でね、機材とかバラバラにして持って来てもらって、ここで組み立てたのよ。電気は生成できないから、エレホスを使って循環させてるわ」

 なるほど、使い道さえ間違えなければ、エレホスというものは便利な代物なのだろう。

 それにしても、これを見る限り、里琉の知る範囲を超えた技術ではなかろうか。

「あまり触っちゃ駄目よ。あと、ついでだからバイタルチェックもしてく?」

「え、出来るの?」

「当然よ! 前はここで王族のバイタルチェックとかしてたんだから!」

 じゃあ試しに、と里琉は頷いた。

「本当はね、定期的にチェックしてたのよ。……王族の健康維持と管理は必要だから。だけど、今は知っての通りでしょ。機械も、メンテナンスはしてるけど、使われないのは悲しいものよ」

 彼女はそう言って、下着姿にした里琉を何かの台に立たせる。

 そして目の前を青い光を発したレバーが下がっていった。

「……んー? あんた、やっぱり処女なのね」

「え、今ので分かるの?」

「王妃様が懐妊したかどうかも分かるわよ。処女だと、ほら、この部位がね、赤く点灯するの。妊娠は点滅」

「わぁ……」

 画面に記されたのは、人体の形をしたデータ図だ。下腹部付近が赤く点灯している。

「本当は夜伽相手を探すのにも使う予定だったけど、ま、そこはいいとして。もし体に異常が出たら、そこが黄色になるわ。これ、数日に一回でいいからやりましょ。あんたの血は無敵だけど、それ以外は分からないし。……何より、疲れて倒れるような事だけは、避けたいし」

 それは里琉も同じだ。過労死なんて異世界でも体験したくない。

 そして、同時にこの技術ならば、ディアテラスを作れるだろうな、と確信もした。

 だが、ルゴス大臣の反応を見る限り、半端な説明では信じてさえもらえまい。

「……フィリアさん。真実って、本当の事、たった一つのもの、ですよね」

「急にどうしたの?」

 服を着直しながら、里琉は言う。

「たった一つしかないのに……どうして、それを信じてくれないんだろうって思って」

「そりゃそうよ。人間は、自分の想定の範囲を超えるものなんて、信じられないし、信じたくない。そういう生き物なの」

 そんな理由で国が滅ぶのかと思うと、やるせない。

 今のままでは、王は戻れないままだ。あんな大臣達に国の一端を任せている今、何を思っているのだろうか。

「あんたは、王様の事信じたいの?」

「……ガルジスさんを見てる限り、そして大臣達を一通り見た限り、王様は間違ったことをしたわけじゃないと思います。だけど、それ以上に……今は、失望しているんだろうなって」

「あんたみたいに?」

「……はは、気付かれちゃったみたいですね」

 失望。その通りだ。所詮はこの程度か、と思ってしまった。

 理想と現実の大きな食い違いを目の当たりにした里琉は、彼らのもつ限界の低さに幻滅を抱いたのだ。

「ルゴス大臣の言葉を聞いていたあんた、無表情だったのよ。自分では分かってなかったのね」

「……そうだったんですね」

 あれを笑顔で聞き流せるほど、里琉は大人ではない。昔のように怒って食って掛からなかっただけ、マシだとも言えた。

 だが、それで結果としては良かったのかもしれなかった。


「私は、王様を信じます。それから……真実を知りたいです」


 その言葉を聞いて、フィリアはふっと笑った。

「このお人好し。王様が聞いたら何て思うかしらね?」

「首を突っ込むなって言われそうですね」

「? あんた、会ったっけ?」

「……いえ、ガルジスさんの話からちょっと推測を」

 まだ言えない。言わない方がいい。そう思いながら、里琉は嘘を吐く。

 だがもしかしたら、彼女は見抜いているのかもしれなくて。

「そ。でも、あんたが思うほど、あの王様も冷血漢じゃないのよ。むしろその逆。……そうね。きっと、嬉しいと思うわよ」

 そんな風に、楽しそうに言うのだった。

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