一幕0話:招き手繰る糸
――エラーコード『B』。それは、生まれつき、致命的な欠陥を持ったという事を示す。そして、このコードを持った惑星は、有無を言わさず崩壊への道筋を早められてしまう。
その為に、エラーコード『S』を持った、不適合管理端末素体を惑星管理端末として接続し、常駐させる。
このコードを持った端末は、往々にして破壊を促進させる。その為、これが最も効率的な「欠陥相殺」を行える方法だと、誰もが信じて疑わなかった。
――とある端末が、それを知ってしまうまでは。
定期報告及び惑星観察。近隣の惑星で行われるそれが自分の元には来ない事を、端末は疑問に思った。
疑問を、巡回端末を捕まえて問いかけた管理端末は、そこで事実を知ってしまった。
『あなたの管理する惑星は、定期的な観察及び報告を不要とされています。不完全な惑星と端末が導くのは、崩壊のみですから』
愕然とした。そして、次には絶望した。
『僕とこの惑星は、最初から、要らなかったんだ』
管理画面に映るのは、何も知らず、日々の営みを過ごす人間達。
何がおかしいのか。何が不完全なのか。自分とこの惑星を観察して、百年ほど経過した管理端末は気付いた。――気付いて、しまった。
『成長、しないんだ。この、星は』
他の惑星と比べれば分かる事でもある。この惑星は全てがもう、頭打ちになっていた。
『……このまま、後は衰退して、終わる? 僕達は、消えるの?』
――嫌だ、と素体の胸辺りが疼く。エラーを持った端末だとしても、このまま終わるのを待つのは、嫌だと。
『…………成長しないのなら、出来るようにすればいい』
そうして、一つの策を施した。高度な技術を使い、確実に危険を知らせられるように。少しでも変化を遂げて、最悪の未来を回避出来ればと。
――しかし、その願いは失敗に終わった。
呼び水として世界へ投下した一つの装置は、成長と発展を見せはしたが、同時に戦争と汚染をもたらした。彼らには正しく扱えなかったのだ。
だが、投げ込んだそれを回収する術はなく、装置も観測する限りではやがて劣化し、近いうちに破損するだろう。
長い時間によって濫用され続けた装置は、メンテナンスすらされなかったせいか、暴走を起こし始めている。このままでは、延命どころかその逆を辿る一途だ。
打開策を講じた端末は、外の銀河に手を伸ばした。
糸のようなそれを、監視端末の目に入らぬようかいくぐり、他の惑星と同じような発展をする惑星を探知する。
そして、プログラムに合った「人類」をこちらへと引き寄せ、変化を施す。
『情報解析、完了。対象の素粒子変換、開始。当惑星への転送開始。……成功。対象の実体化、成功。体内変質、完了。――これより、外来種人族による、惑星観測の修正を行う』
この人種には、アストラル体があった。この世界の人種には無い「魂」と呼ばれる概念体が、肉体の中に保持され、自我と生存を担っている。
そしてそれさえあれば、この惑星は「成長」出来る。そう端末は信じてアストラル体に干渉した後、対象との接続を一時切断した。後は観察し、様子を見るだけだ。
『ようこそ。リル=サカザキ。どうか、本物の奇跡をこの惑星に』
――これは、いずれ「フェアリーテイル」という特別な記録として残される、一つの「意志」の物語である。
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