フェアリーテイルは瓶の中

宮原 桃那

???話:断片化された記録


 ――「私」がそれを見つけたのは、とある森の中で朽ち果てた家の一部屋、そこに置かれた机の引き出しの中だった。

 何重もの紙に巻かれたそれの中身は日記で、持ち主の拙い文字が日常を綴っていた。

 しかし、ある日を境として持ち主は変わってしまったらしい。


『わたしは かみさまに えらばれたの』


 神。我が国はおろか、他国でも滅多にその単語は口にされない。何故なら、この世界で神を見た者など居ないからだ。

 だが、文字の主は違うのか。読み進めていくと、衝撃的な事実がいくつも、いくつも綴られていて。


『きょうは かみさまが おしえてくれた。このせかいは いつか なくなるんだって。でも わたしが しんだ ずっと ずっと さきのことだから、わたしは かんけいないんだって』


『かみさまの いしは とっても きれい。ひかりの したで きらきら ちかちか ひかる とうめいな いし。かみさまは これを いし じゃないって いってたけど その いみは わからなかった』


『かみさまの いしは すごい。おねがいを いう だけで それが かなうの。でも おとうさんに それを みられて いしを とりあげられて しまった』


『かえして かえして。かみさまの いし! おとうさんも おかあさんも きらい!』


『だれも いなくなった。かみさまも よんでも でなくなった。おとうさんの せいだ。おとうさんが へんな おねがいを たくさん かなえたから。だから わたしは――』


 ――ぱたん、と日記を閉じた私は、それを手に故郷へと帰る。この世界は狭く、小さい。半年もあれば、すぐに帰り着くだろう。

 道中、日記の内容をこうして留める。日記自体、ボロボロになっていて、慎重に扱う必要があったためだ。

 日記の主は恐らく、少女だったのだろう。文字は幸い、我々が扱っていた言語そのままだったため、解読は容易かった。

 だがそこで、不意に疑問が生じる。この手記を見る限り、我々が生まれるそれこそ千年は昔の文字だ。だというのに読めるのは、どういうことか。

 ……考えてはいけない、と、頭が拒否をした。当然だ。「私」は、きっと気付いてはいけない事実を認識してしまったようだ。

 だが「私」は当初の目的、即ち「奇跡の石の発見と破壊」を全うしたい。それが、奴隷戦争で討ち果たされた王の最後の末裔である「私」の役目なのだから。


――『???の手記』より抜粋――

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