第3話 夢の中で。

気がつくとよく来たことのある教室。

(ああ、先輩方の教室だ。)

仲良くして頂いた先輩方2人は同じクラスだった。だから、どちらかに用事があって居なかった場合もう1人の先輩に用件を頼むという最低なことをしていたものだ。懐かしいな。

なんて考えながら、私は今、好きだった人の席にいる。


因みに私の他には誰もいない。

もっと言えば、人の気配は、この校舎からは感じられない。そして、とても薄暗い。


悪いなと思っていても試しに、

「何か残ってないかな……」

なんて言って机を覗く。我ながらとてもストーカー行為のように思えて思わず苦笑する。

すると、中には一冊のノート。


笑っちゃう。


だって、あの人はもうここにはいないのだから。

だから、忘れ物なんて、する訳が無いのだ。


そのノートを手に取り、私は一人で言う。

「…好きでした」

誰もいない教室にその一言だけがそっと響く。


私は、これが夢だと知っている。

知っているからこそ、虚しかった。



一筋の涙が無慈悲に流れ落ちた。

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夢の中で。《短編》 飴乃 -いの- @ameno_ino

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