第9話 二人のスペシャル
ピンポーン
「……」
「……」
ガラガラガラ
(えっ!? 委員長と空峰が手をつないでる!? 地球も終わりだ……)
「そ、空峰、鍵これ」
ぽいっ ヒューン ガシッ
(空峰くん、ナイスキャッチ!)
「手錠、やるよ。じゃ」
(隠れ美少女の委員長と変態空峰なんて……なんて……何で? くやしー! うううっ)
ガラガラガラ ビシッ
「ど、どうしたのかしらね、涙なんか流して」
「さ、さぁ……」
「じゃ、手錠外すね」
「うん……」
ガチャガチャ カチッ ガチャガチャ カチッ
「よし、手錠が外れた。うん、大丈夫。骨は折れてないね」
「あ、その手錠、私にくれない? そ、そうよ、また空峰くんが変なものを学校に持ってきたら、これを使って……そしたらまた……うそ、なんでもない……」
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
「あ、雨やんだね。もう傘は必要ないな」
「……」
「じゃ、えっと、帰ろっか。途中まで送るよ」
「うん……」
「……」
「……」
「空峰くん、つながってたものが離れてしまうと、どうなると思う?」
「えっ?」
「あ、あの、ハンバーガーを食べてるときの話よ!」
「ああ。えっと、僕は……心まで離れてしまったら、もう戻れないんじゃないかな。心が繋がってるから、少し離れても、ああやって幸せな顔が出来たんだろうね」
「私もそう思う……」
(私たちは離れてしまったのかな……)
(僕たちは離れてしまったのかな……)
「いいんちょ!」
「空峰くん!」
「何?」
「なに?」
「いいんちょから先にどうぞ」
「空峰くんこそ先に言ってよ」
(私はまだ……)
(僕はまだ……)
「……」
「……」
ゴツッ
「あ、ごめん空峰くん。肩が当たっちゃった。さっきまで十五センチぐらい近づいてたのにね」
(やっぱり、空峰くんの横にずっといたい)
「あっ」
「あ、ごめん、ついさっきみたいに手を握っちゃった」
(これからもいいんちょと手をつないでいたい)
「ふふふ」
「ははは」
ぎゅっ
(私と空峰くんが同じ気持ちだったらいいな)
(僕といいんちょが同じ気持ちだったらいいな)
「あの……」
(今僕の気持ちを伝えないと一生後悔する!)
「いいんちょ!」
(来た! もう私の心は決まってるわ!)
「はい!」
ドキドキドキドキ
ドキドキドキドキ
「いいんちょ!」
「はい!」
「……」
「い、いいんちょ!」
「はい!」
(いつまで待たせるのよ!)
「……」
「……」
(もう、じれったいわね! こういうはっきりしないの大嫌い!)
「いいんちょ!」
「敦子って呼んで!」
「は、はい?」
「だから、敦子って呼んで!」
「あ、敦子……さん」
「あ・つ・こ!」
「敦子!」
「はい!」
「ぼ、ぼぼぼぼ、ぼく・・・・と……」
(緊張する!)
(緊張するわ! 空峰くんの顔が近すぎて、瞬きが出来ないよー。目が乾く……)
「つつつつつつ……」
(もうだめ!)
「えっ」
(なんで目を閉じるんだ!)
(目が痛くて目が開けられないわ)
(もしかして、今度こそ? いや、あんなに殴られたことを忘れたのか!)
(そういえば、今日こんなシチュエーションがあったわね……そう! 今度はちゃんとしてね!)
(唇が待ち構えているように見えるのは目の錯覚か? それならここでしなければ男が廃る、行くぞ、行くそ! ……どうしよう)
「……」
(遅い!)
「もう! ヘタレなんだから!」
(あっ)
チュッ
「もう、待たせすぎ!」
「ごめん……」
(敦子の顔が近い……)
「ごめんじゃない! ちゃんと空峰くんの言葉で言って!」
「あ、敦子!」
「はい!」
「僕は敦子のことが好きだ! 離れたくない! これからずっと一緒にいよう!」
「はい!」
(敦子、離さないぞ)
(空峰くん、浮気は許さないんだからね!)
「こんな時に言うのもなんだけど……朝からずっと我慢してることがあるんだ」
「偶然ね、私もそうなの」
「じゃ、一緒に行こっか」
「はい!」
「急げトイレ!」
おしまい
とある普通の一日がスペシャルになるなんて 温媹マユ @nurumayu
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