第8話 二人の距離

「あ、雨が降ってる」

「私は折りたたみ持ってるけど、空峰くんは?」

「僕も持ってるよ」


 バサッ

 バサッ


「ふふふふ」

「手をつないだままじゃ、別々の傘は差せないね。僕の方が大きいから、入って」

「はい!」

(いいんちょが濡れないように……)

(空峰くんの肩が濡れてるじゃないの……)


 ピトッ


「あっ」

「こ、こうやって、く、くっついた方が、濡れないんだから」



「今日はいろいろあったわね」

「うん、そうだね」


「今日、私の夢が一つ叶ったの」

「えっ、なになに?」

「お姫様抱っこ……最近の夢で。重くなかった?」

「全然、重くなかったよ」

(ていうか、逃げることに夢中で、それどころじゃなかったんだよな)

(よかった、でもダイエットした方がいいかな……)


「それにしても、写真集や手錠を学校に持ってくるなんて、なんて非常識なのかしら」

「ソウダネ」

(声が裏返ってますよ、空峰くん)

「今まで没収したものって、どこにあるの?」

「それね、キョウコ先生が持ってるわ」

(あの先生なら私物化してそうだ)

「と、とにかく、もう学校には持ってこないでね」

「ハイワカリマシタ」


「体育の時間、覚えてる? ボールが飛んできて、空峰くんに当たったこと」

「うん、思いっきり頭に当たって、でも、その後目が覚めたらいいんちょの膝の上だった……」

「あ、あれは……そう、空峰くんが天国に行ったかと思ったんだけど、息はちゃんとしてたから、目が覚めるまで安静にしてあげたのよ!」

(いいんちょの顔がトマトみたいに真っ赤になってる。あのときのいいんちょの寝顔、かわいかったな……寝てたことは黙っておこう)

(空峰くんの寝顔かわいかったな……空峰くんが起きたとき、私が寝たふりをしてたこと、黙っておこう)


「そうそう、いいんちょの絵まだ見てないな。次の授業の時、見せてね」

「えっ、いやよそんなの。恥ずかしいじゃない」

「僕の絵だけ見て、ずるいよ」

「そうそう、そ、空峰くんは、えっと、私、髪の毛を下ろした方が似合うと思う?」

「えっと、ちょっとずるい言い方だけど、僕はおさげのいいんちょも下ろしたいいんちょも好きだよ。もちろん、メガネをかけても外しても。でも、今みたいに髪の毛を下ろしたいいんちょを知ってるのは、僕だけだよね? なんかそういう特別って独り占めしたくなるよね」

「な、ななな、何言ってるのよ!」


 バシッ


「痛っ」

「変なこと言うからよ……」

(変なこと言ったかな)



「そうそう、お昼の約束覚えてる? 明日お弁当を作ってきてくれる約束」

「あ、あああ、あれは、そう、なしよ、なし」

「えっ、なんで?」

「だって、ま、毎日一緒に、おおお、お弁当なんて、こここ、ここ、恋人同士みたいじゃないのよ……私たち、まだ、つ、つつつ付き合ってないから」

「えっと、じゃ、いいんちょの、か、彼氏になる人は、いいんちょとお弁当が食べられるんだ」

「そ、そうよ! 私の彼にだけしかお弁当はあげないんだから!」

「じゃ、じゃぁ……」

「はい!」


 ドキドキ


「あ、着いた」


 バシッ


「痛っ」

(なんで殴られなければいけないんだよ……)

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