第7話 二人と二人
「いいんちょは何にする? 僕はチーズバーガーチーズ抜きピクルス増量とアップルパイ特大と、いいんちょ、ポテト好き?」
「えっ、ええ、ポテトは好きよ。じゃ、私はアップルパイミニにしようかな」
「了解。飲み物はどうする? 僕は……今日はやめとくよ」
「……私も」
「ありがとうございました。ポテトは後ほどお席にお持ちします~」
「いいんちょ、奥どうぞ」
(女の子と二人でこんな所に来るの初めてだよ。でも今日のいいんちょなら普段通り過ごせそうだ)
(男の子と二人っきりでこんな所に来ることになるなんて。でも今日の空峰くんなら安心だわ)
「空峰くんってパイ好きなの? こんなに大きいの」
「男はみんなパイ好きでしょ。中には甘くておいしい夢が詰まってるからね」
「夢って何よ。ふふふ。あれ、うまく開かないわ」
「どれどれ」
「やだ、無理矢理しないでよ。ちょっと痛かった」
「ごめんごめん、優しくするよう気をつけるよ」
ビリビリビリ
「いいんちょのって、ちょっと小ぶりだね。これもこれでおいしそう」
「何言ってるのよ、小さい方が中身が詰まってるのよ。ほら、張りがあるでしょ」
「本当だ……さて特大パイをいただきます!」
ビリビリビリ パクッ
「う~ん、なんだかとても柔らかいな。張りのあるいいんちょの方が僕にとっては好きかも。僕は間違ってたよ、大きいパイより小さいパイの方がいい!」
「何言ってるのよ、じゃ、少しだけあ・げ・る」
ジー
「はっ」
「えっ」
「あ、あの、ポ、ポテト……」
ドン サッ パタパタパタパタ
(いつからここに立ってたのかしら)
(あの店員、なんであんなに顔が真っ赤だったんだろう)
「南さん、お待たせ。手荷物検査場で引っかかっちゃって」
「上杉さん、私、もう十年もあなたの帰りを待ってましたのよ!」
(なんだなんだ?)
(ちょ、ちょっと、いきなり空気が凍ったように張り詰めたじゃないの)
「イースター島から北極や南極を飛び回って、やっと帰ってこれたんだ。本当に待たせてごめん」
「私にとって、十年というのは待つには長すぎましたわ」
「確かに十年は予定外だったけど……でももう、ここから離れないから安心して」
「いえ、もう一度離れてしまった私たちはもう戻れませんの」
(いきなり別れ話?)
(やだ、どうしようどうしよう……)
「南さん! 何言ってるんだ!」
バン
「そんなに机をたたいて大きな音を出したら、ほかのお客様にご迷惑がかかりますわよ」
「ごめん……」
「十年前、あなたが旅立つまではずっと離れることもなく一緒でした。でも、十年間も離れていた私の気持ちはおわかりでしょうか」
「も、もちろん、僕は君に長い間さみしい思いをさせたことは知っているよ」
「もうこれ以上さみしい思いはしたくありません。だから、だから」
「確かに離ればなれだった。でも僕たちはこの十年間もずっとつながってたじゃないか!」
「えっ」
「一日何回もテレビ電話をして、メールして。別に隣にいるだけがつながってるわけじゃない!」
「でも、でも……これからはどうなさるおつもり?」
「もちろん、これから先も僕たちはつながり続けるよ」
「なら、その証拠をお見せください」
「こんな所で見せるつもりじゃなかったけど……」
ガサガサガサ
「南さん」
「は、はい」
パカッ
「はっ!」
(おおっ!)
(やだやだやだ!)
「ぼ、僕と結婚してください!」
「はい、喜んで!」
パチパチバチパチ
(うわーみんな見たのかよ。茶番だ……)
(うるうるうる)
「南さん、行きましょう」
「はい、上杉さん」
「久しぶりの再会を祝して、つながりを深めましょう」
カランカラン バタン
「……」
「……」
「こんな所でプロポーズとはすごかったね」
(うるうるうる)
「い、いいんちょ?」
「感動したわ!」
ピロリロリーン
「あ、メールだ。なになに、あ、もう家に帰ったから、いつでも手錠の鍵を取りに来ていいって」
「え、あ、うん……そうね、行きましょう……」
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