第6話 二人で下校

「誰にも見つからず、学校から出られたわね」

(手をつないでいるところなんて見られたら、恥ずかしくてもう学校に来れないわ)

「うん、そうだね。誰にも見つからなかったって奇跡だね」

(いいんちょと手をつなぐなんて、いろんな意味で奇跡なんだけどね。こんなところ見られたら、みんな逃げていくだろうな……)

(私が男の子と手をつなぐなんて奇跡だわ)

「そ、空峰くんの手って、その……大きいね」

「そ、そうかな。いいんちょの手は柔らかくてすべすべしてて、ずっと触っていたい感じだね……はっ、いやそういうわけじゃなく……」

(顔が熱い! これじゃずっと手をつないでいたいみたいじゃないか!)

「そ、そうよ、ずっとダメよ! 今は仕方がなく手をつないでいるんだからね!」

(顔が熱いよ~手をつないでいるだけでドキドキするんだから!)


(あ、前からちょっと怖そうな人だ。ぶつかったら大変。ここは右に避けよう)

(あ、なんて怖そうな人なの。黒ずくめであの態度の悪さ。左の方が広いわね)


 ズンズンズン

 すっ ← 右

 すっ ← 左


「あっ!」

「えっ?」

(いいんちょ、普通右によけるだろ!)

(ちょっとなんで左なのよ~)


 ドシッ ギロッ


「おい、おまえら、何のつもりだ?」

「親方、大丈夫ですか?」

「き、きゃー!」

(ひ、ひ~このおじさん、マジでこえーよー)

「ご、ごめんなさい! い、いんちょ、行くよ!」

「は、はい」


 グイッ ビューン


「お、おい、待てー! おまえら、追いかけろ!」

「はい! 行くぞ!」


 ダッダッダッダ


「いいんちょ、こっち、そこ右、その先左、信号が赤になりそう、急いで!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「待ったら捕まっちゃうよ」


「まて~」


「そ、空峰くん、私もうだめ……もう走れない……」

「いいんちょ、そんな弱気じゃだめだよ! 捕まったら、いかがわしいお店で働かされるかもしれないよ!」

「はぁはぁ、でも……もう走れない……私のことはいいから、空峰くんだけでも逃げて!」

「いいんちょを置いて一人で逃げることなんて出来ない!」


 ズキューン


(そ、空峰くん、かっこいい!)


「だって、手錠でつながってるから、僕だけ逃げるなんて無理だー!」

(へ……そっか……私ったら……)

(うーん、そうだ。これしかない、最後の手段だ)

「いいんちょ、よっこいしょ、しっかり捕まって」

(は、はへ? 何でお姫様抱っこ!)

「行くよ! 二人で逃げ切ろう!」


「まて~」


「あ、空峰くん、追いつかれちゃうよ~」

「はぁはぁはぁ、そこの路地に逃げ込もう」

「そうね、あ、信号で止まってる。今のうちよ!」

(赤信号で止まるなんて、なんて律儀なんだ)


「まてー」


「はぁはぁはぁ、なんとか逃げ切れた……」

「空峰くん、あ、ありがとう」

(私をお姫様抱っこで守ってくれるなんて、悪の大王から逃げ切った勇者みたいだわ!)

「いいんちょ、もう大丈夫だね」

(ん、私を下ろすつもり? まだもう少しこうしていたい~!)

「えっと、まだ追いかけてくるかもしれないし~でも私まだ走れな~い」

「……仕方ないな」

(とりあえずこのまま様子を見て、もう少ししたらここから出よう)

「それにしても、全力疾走したせいで熱い!」

「そうね、太陽もこんなに輝いているもの。走ると熱いよね。その、私を抱っこして走ってくれて……ありがと」

(顔が熱いわ。それになんてまぶしいの。もう少し日陰に行ってよ。まぶしくて目が開けられない)


(……いいんちょ? 何で目を閉じるの? ちょっと顔も赤いような)


「……」

「……」


(いいんちょが赤い顔をして僕の方を向いて目を閉じる → 僕の考える一般論:女の子が男の子の前で目を閉じると……キスをしてほしい!)


「いいんちょ?」

「早く、(ぴーぽーぴーぽー)お願い」

 正:早く、日陰に行って。お願い


 ドキドキ


(いいんちょ、いいんだね! 僕は今ここで戦える勇者になるよ!)

(もう、何してるのよ!)

(ぬうううう)

(あ、太陽が陰ってきた)


 ぱっ


「あっ」

「えっ?」

(はっ)

「な、なな何してのよ! へ、変態!」


 バシッ


「エッチ、痴漢、変態、卑猥、ロリコン、スケベ~」


 バシバシバシバシ


「……」


グデッ


(勇者でも大王は倒せなかった……)

「はっ、ご、ごめん、ちょっとやり過ぎた……かな」

(なんで、こ、こんな所で、キ、キスしようとしてたの? 初めてなんだから、雰囲気を考えてほしいわ!)


「ねぇねぇ、おねーちゃん」

「はっ、いつからそこにいたの!?」

(なんでこんなの所に幼女がいるんだ?)

(もしかしてみられてた? 恥ずかしー)

「おねーちゃんにだいじなことをいおうと、おいかけてきたの」

「えっ、何なに?」

「えっとね、ずっとぱんつみえてたよ。じゃねー」

「……えっ?」

「き、きゃー!」


 バシッ


「あぅっ」

(なんでたたかれなきゃいけないんだ……)

 

「空峰くん、最低!」

(なんで僕が……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る