第4話 二人のデッサン

「今日はデッサンを行います。ペアを組んでお互いの似顔絵を描きます。早速ペアを組んで席についてください」

「はーい」


「ペア組もうぜ」

「おまえは委員長だろ」

「私とペア組みましょ」

「委員長は空峰くんでしょ?」


「……」

「……」


(やっぱり……)

(みんな、ごく普通の対応ありがとうね……ううう)


「いいんちょ……よろしく」

「風紀委員長の私を描けるなんて光栄に思いなさいよ!」


 ビシッ


(はいはい……ふぅ~)


「えっと、そうね。じゃあ向かい合って座りましょう」

「え、それじゃキャンバスが邪魔で顔がよく見えないよ。隣の方がよくない?」

「隣だったら描いた絵が見えるじゃない。せっかくなんだし、終わるまで見ないでおきましょう」

(いいんちょがそう言うなら仕方ないか)


 サラサラ ジー サラサラサラ


(いいんちょ、もう書き始めてるよ。でも顔がよく見えないや。デッサンって苦手だ……)


 キョロキョロ


「ちょっと、あまり動かないでよね」

「は、はい……」


 カキカキ ジー


(空峰くんって、案外凜々しい顔をしてるのね。そういえば、一部の女子の中では隠れイケメンって呼ばれるような。でも髪の毛はボサボサだし、シャツはしわしわ。学校なのに平気でエッチな本を見るし……でもちょっとだめな感じ好きかも……はっ! 何を考えてるのよ! デッサンに集中! あっ、もう少しこうすればイケメンね。ふふふ)

(いいんちょが一人で笑ってるよ……それにしても、本当に顔が少ししか見えないよ)


「いいんちょ、あの、(隣でキャンバスが倒れる~がしゃーん)かわ(バタン)いいよね」

 正:いいんちょ、あの、キャンバスで顔が隠れてよく見えないから、隣の席と替わっていいよね


(えっ、かわいい?)

「ななななな、何を言ってるの、そ、そんなこと当たり前じゃないのよ!」

(急に何を言い出すのよ! もしかして空峰くんって……)

「いや、だめよ、だめ! うん、だめ。デッサンに集中!」

(これ以上考えたらだめね)


(そんなに否定しなくてもいいのに。それになんで顔を赤くしてるんだか。結局全然見えなくなったじゃないか。

 どうしよう……)


「キャンパスを倒さないよう気をつけるんだぞ」

「はーい」


(何か参考になるようなものは……)


 キョロキョロ


(ん、モナリザか……メガネをかけて三つ編みおさげにしたら、ちょっといいんちょに似てるかな。そうだ、とりあえずモナリザを描いておこう)


 カキカキカキ


***


「はい、今日はここまで」

(終わった~)

(ふ、なかなかのイケメンに仕上がったわ。ふふふ)


「空峰くん、どう? 見せて」

「はふ? え、終わるまで見ないって言ったじゃないか……」

(どうしようか……まだモナリザだ)

「今日の授業が終わるまでって意味。いいじゃないの」

(これを見せたら……全然似てないじゃない! バシッ ってなりそうだ……あっ)


 ガサッ


「ん? えっと、これは……私?」

(あーどうしよう。嘘をついてもすぐにばれそうだし、ここは正直にモナリザだと言おう)

「いや~実は(キーンコーンカーンコーン)。僕の(キーンコーンカーンコーン)、だめだと思ったけど、め、メガネを取って、か、髪をほどいた、いいんちょをもう(おーい)そう(委員長~)して描いたんだ」

 正:いや~実は顔がよく見えなくて。僕の目の前にあったモナリザから、だめだと思ったけど、め、メガネを取って、か、髪をほどいた、いいんちょをもう少し想像して描いたんだ


 ずきゅーん


「はぅっ」

「あ、いいんちょ、先生が呼んでるよ? あれ、なんでそんなに顔が赤いの?」

「ななななな……」

(何言ってるのよ、空峰くん! メガネを取って髪をほどいた時って何を妄想してるのよ! もしかしてお風呂上がり? 私のお風呂上がりを妄想したのね! 空峰くんのエッチ! ああ、なんだかドキドキするわ! いいわ……あなたのために、髪をほどいてメガネを取るわ!)


 シュッ パサパサパサ


「い、いいんちょ、なんでメガネをとるの? 髪までほどいて」

「空峰くん、私……」


 ゴツッ


「あ、痛い!」

「だ、大丈夫? メガネをかけないから椅子ですねを打つんだよ。はい、メガネ」

「だ、大丈夫よ、メガネがなくても。いくわよ」

(急に歩いたら……)


 ゴツッ


「あ、痛い!」

「ほら、また椅子にぶつかって。そんなんじゃ心配だよ。はい、メガネ」

「あ、ありがと。実はメガネがないと、十五センチぐらい近づかないとちゃんと見えなくて。メガネをすると視力2.0よ。えっへん!」

「もう危ないからちゃんとメガネしてよね。もしかして、メガネが嫌いなの? いいんちょのメガネ姿、僕は好きだけどな」

(はふっ! え、メガネがあっていいの? もしかして空峰くんってギャップ萌え?)

「し、仕方が無いわね。メガネするわ。心配しないで、ちゃんと取るときはとるから」

(へ、どういう意味? でも、髪の毛を下ろしたいいんちょっもかわいいかも……)



「おーい、委員長~先生を無視するのか~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る