第3話 二人でお昼休み
「やっと昼休みだ~」
ぐで~
「お昼休みはウキウキお弁当!」
ガサガサ
「あれ、いいんちょは弁当派なんだ。僕は弁当じゃないから、とりあえず食堂に行こうぜ」
「はぁ? 何言ってるのよ、こんなつながれた状態で恥ずかしいじゃないのよ」
ビシッ
「そんなに威張らなくても。じゃ、売店に行こうよ」
「それも同じ」
(昼休みは教室から出ないんだからね)
ガクッ ぐで~
「飢え死にしそうだ。いいんちょの鬼、悪魔、メデューサ! そんなんだから彼氏も出来ないんだよ!」
ボコッ バシッ
(な、なんで彼氏いないって知ってるのよ! ムムム)
「私みたいな天使に向かって何を言うのよ! 空峰くんも彼女いないでしょ!」
(そうさ、彼女いない歴十七年!)
「あっそうだ」
ゴソゴソゴソ
(む、無視した?)
「じゃ~ん。今朝、おやつにサンドイッチを買ったの忘れてた~よかった」
ずきゅーん
(そ、それは駅前の天神堂のたまごサンドじゃないのよ! 私の大好物!)
じー
(え、いいんちょが睨んでるよ……)
ガサガサ ビリビリビリ
(一口食べたいな……)
じー
(いつも帰りには売り切れなのよね。少しでいいから食べたいな……)
じー
(そんなに見られちゃ食べられないよ……もしかして、ほしいのかな?)
「いいんちょ、半分食べる?」
キラキラ きら~ん
「い、いいの?」
スッ
「えっ」
(横取り!)
「ありがと、いただきま~す、うん、おいし~。この少し甘めの食パンがサンドイッチにぴったりなのよね。それにこの挟んであるある卵、口の中に広がってすっと溶けるこの食感。ボリュームがあるのにいくらでも食べられちゃう。もう最高」
(うわ~ひまわりの種を頬張るハムスターみたいになってるよ、ぷぷぷ)
「僕もいただきます……」
じー
「えっ、い、いただきます!」
じー
「えいっ、全部あげるよ、持ってけ泥棒」
「ええっ、ほんとに~」
きらーん
「空峰くんって優しいのね。見直したわ!」
(何を今更。僕の昼飯を返せ!)
「このサンドイッチ私大好きなの、覚えておいてね。あ、そうだ。お礼に私のお弁当を半分食べさせてあげるから、喜びなさい!」
「おおっ、マジで、さんきゅー。空腹で倒れるかと思った」
ぱかっ
(こ、これは少し小ぶりのお弁当だが、定番のおかずはすべてそろえられている。彩りも美しく、栄養バランスも整っている。まさにザ・お弁当だ! ちなみに僕の好きなものばかり入ってる!)
「はい、卵焼きからどうぞ」
「えっ」
(なんでお箸に挟まれた卵焼きが僕の口元に近づいてくるんだ?)
「早くしてよね、あーん」
ばきゅーん
(あーん? いいんちょが『あーん』? これは何かの間違え?)
「私のお弁当が食べられないって言うの?」
ギロッ
「へ? い、いや、あ、あーん」
ぱく むしゃむしゃむしゃ
「おいしい?」
「おいしいよ、いいんちょ! この卵焼き、僕の好みの砂糖たっぷり甘い卵焼きだ」
(あまい、あまい、あますぎるぅ。こんなのが食べたかったんだ!)
「そ、そう? そんなに喜んでもらえるなんてちょっと嬉しいかも……」
(ちょ、ちょっとほめすぎじゃないの? なんだかドキドキするわ)
「じゃ次、はい、唐揚、あーん」
パク もぐもぐ
「こ、これもおいしいよ、いいんちょ」
「そう? これは冷凍食品なのよね」
ギロッ
「えっと、最近の冷凍食品はおいしいよね……ははははは……」
アセアセ
「ところで、このお弁当っていいんちょが作ったの?」
「そうね。お弁当は私の当番だから。妹と弟たち四人の分も作ってるのよ」
(いいんちょって五人姉弟!?)
「だからこんなにおいしいお弁当が作れるんだね。素敵なお嫁さんになれるよ、絶対」
「はへ?」
(急になんてこと言うの? びっくりしてたこさんソーセージを落としそうになったじゃないのよ、なぜかドキドキするわ)
「ところで、いいんちょはいつも教室でお弁当を食べてるの?」
「そうよ。静かでいいわよ」
(もしかしていいんちょって隠れぼっち?)
「空峰くんはいつも学食?」
「うーん、そうだね。たまにコンビニ弁当かな」
(そんなのだめじゃない。私のお弁当なら安全安心なのに、空峰くんが心配だわ。そうだわ)
「だめね! そんなんじゃ体を壊すわよ。し、仕方が無いわね、私がお弁当を作ってきてあげる」
「えっ?」
(今なんて言った?)
「だからお弁当を作ってきてあげるって言ってるの。か、勘違いしないでよね。五人分も六人分も変わらないってこと」
(いや、変わるでしょ。でもいいんちょうれしいよ。なんだか目から汗が……)
「あ、ありがとう。いいんちょ」
「か、感謝しなさい!」
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