第14話 勢い任せの指揮官

頭の整理が追いつかない。私は今何を言われている? きっと、仇を取ろうと決めた人の跡を継げと言われている。その理由は? 何故私? 脳は言葉の解析に追われて、声を出す事ができなかった。そして、少しして呻く様に私がした質問は、


「なんで私なんですか?」


その質問には、私の疑問が全て詰まっていた。勇者の中には、この世界に来て2日と経ってない私より優秀な人はごまんといるはずだ。なのに何故私を選ぶのか。軍師を断るより先に、これを知りたかった。


「何故、か。それはな、やってくれる者がおらんかったからじゃ。手練れのものに声をかけても、自分には無理。リビウスには勝てない。などと言って断わられる。だから、せめて形だけでも軍師という役職に就いてくれんかの?」


なるほど。つまりは誰でも良かったわけだ。軍師という役職が不在のままでは示しがつかないから、とりあえず私を立てておこうというわけだ。さっきまで仕事を断ろうとしていた私は、心が、顔が、胸が熱くなるのを感じた。リビウスさんの事を考えると泣きそうになった。そして、そうなった私には、もう嫌だと言え無くなった。どうしようも無く悔しくて、悲しかった。瞬きをする度に涙が落ちそうになった。


「我々も、君に指揮を取れとは言わん。ただ戦場にいてくれるだけで・・・。」


「やります。」


もう自分の意思は関係無かった。必死に涙をこらえる私の口をついて、その言葉は王の言葉を遮った。王がリビウスさんを侮辱したいわけが無いと分かっている。私にリビウスさんと同じ事が出来ない事も理解している。ただ私の心にあるのは、彼に報いる気持ち。それだけだった。

王は私に微笑みかけた。初めて会った時の様な笑みでは無く、少し元気に見せようとした、不自然な笑みだった。それを見た私は、笑っていた。さっきまでの胸の痛みが嘘だったかの様に。笑った私は、目からたくさんの水滴をこぼした。笑いながら泣くなんておかしいとは思ったけど、笑みと共にこみ上げるそれを、私に止める術は無かった。

私が落ち着くまで待っていた王は、優しそうな顔でこう言った。


「それじゃあ明日、軍師として戦場に行ってくれないか?」


あまりに突然の事で、またもや私の頭は理解が追いつかなくなった。王は相変わらず笑顔だが、どこと無く申し訳なさそうな表情が垣間見える気もする。軍師になる事を承諾してしまった私に、拒否権など無かった。


翌日の朝、私は自分よりも遥かに強そうな人達に号令をかけていた。皆が軍師を断った末に私に辿り着いたのだから文句を言うものはいなかったが、やはり皆不満そうな顔をしていた。そんな彼らに、慣れない大声で合図を送る。


「それじゃあ、出発!!!(しますよ。)」


これ程までにその場の勢いを恨んだ事は無かった。

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