第10話 味気ない殺人
早朝4時38分。僕は同室のものに叩き起こされた。なんだよ。せめて7時までは寝させろよ。昨日の疲れのせいで、僕は朝からイライラしていた。
「敵襲だ!」
廊下で誰かが叫ぶ。僕は驚きもしなかった。心にあるのは、勇者のせいで眠れなかったという怒りのみ。僕は軍が用意してくれた寝巻きのまま、単独で外に飛び出した。寝起きのダルさはどこにも無かった。体は怒号で強化されたかの様によく動いた。しばらく走ると、刀やら弓やらを携えた大群が押し寄せてくる。この前の戦争の仕返しを、全力でしに来たと見える。しかし僕は、そんな事にはおかまい無しで体にバリアを張り、敵軍に突っ込んだ。放たれた矢も、突き出された刃も僕には届かず、僕の能力は、敵を鎧ごと呑み込んだ。勇者の軍が2つに割れる。そして、僕が縦横無尽に駆け回る事で、勇者軍は散り散りになり、消えていった。
勝利の愉悦に浸る間も無く、僕は返り血の1つも無い草原で2度寝した。
何も無い草原の上で、彼は眠っていた。寝返り1つ打たない熟睡である。そして、その様子を伺う白装束の男が、近くの物陰に潜んでいた。男の能力は「無垢なる回帰」。触れている対象が能力者の場合、能力発動を無効化する。男は短刀を取り出し、一瞬で彼の脇に移動すると、腹を刺した。
僕は、尋常では無い腹の痛みで目を覚ます。食当たりとかでは無く、腹に刀が刺さっている。誰かに抑えられていて上体が動かせないのは分かるが、何故か能力まで発動できない。あまりの痛みに、僕の意識はしばらく闇に落ちた。微かに見えた相手の顔は無表情だった。
僕が目を覚ますと、薄明かりの灯る無機質な部屋にいた。隣で泣いていた陰地君は、僕が目を開けた事に驚き、叫びながら出ていってしまった。腹の刀は抜けていたが、代わりに大きな穴が空いていた。能力を使って傷を消す。穴は無くなったが、僕の血はほとんど流れ出てしまっていた。しかし彼が死ぬ事は無い。体から「死」という概念を消してしまったからだ。血が足りなくなって正常に働かなくなった頭は、この短い間でまた思考を停止させるのだった。
【勇者軍拠点】
「報告します!魔王の城へと奇襲を仕掛けた第四軍隊が、突如消滅しました!」
「消滅した?あの中には私が直々に鍛えてやった者達が編成されていたはずだぞ!敵の数は?」
「王直属の精鋭勇者200名は、魔王軍のたった1人の人間によって消息を絶ちました。恐らくは能力者かと。」
「魔王軍に人間が?それではもしやあの者らの・・・。」
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