第8話 報酬プリン

道中、ドルゲフさんはなかなかの上機嫌だった。厳つい顔にも、思わず笑くぼができる程の手柄だったのだろう。その功績の立役者が僕達なのだから、それは僕もスキップして山を下りたい程の喜びだった。しかし、流石にそれは危ないので、緩ませるのは顔だけにして慎重に斜面を下りた。

【シャロンド】の近くまでは、実に簡単な道のりだった。野生動物の出現も、勇者の出現も無く、ただの山道を歩いていると急に視界が開けた。森を抜けると、青い空と黒い焦げ跡が点々と付く壁が広がっていた。山の向こうでは戦争が起こっているためか、人の気配も無い。門番らしき人もおらず、僕達はあっさり敵の領土に侵入できた。


「ここは戦争している地域に1番近い町だから、ほとんどの人間は奥に避難している。しかし、治安維持のために勇者が見回りをしているので、私はこれ以上共に行けない。お前達が魔王軍だとバレる事は無いだろうが、くれぐれも諍いを起こすなよ。」


人がいない理由は予想通りだったが、ドルゲフさんが来ないのは予想外だった。「怒号」の効果は切れているので、想定外の能力者が来たら対処できないかもしれない。そう言うとドルゲフさんは、


「もし私が見つかると、お前達も危険な目に合わせるかもしれない。それに、お前達の能力なら、どんな奴が来ようと大丈夫だ。」


あらかっこいい。ドルゲフさんのかっこよさに、僕達はすっかり丸め込まれた。しかし、この後ドルゲフさんは、衝撃的な一言を発する。


「あと、私は金を持って来ていない。」


「はい?」


「 金は無い。」


「じゃあ、どうやってプリンを手に入れるんですか?」


「盗め。オンジの出番だ。」


なるほど。陰地君の能力なら、姿を見られずにプリンを盗って来れるかもしれない。って、そうじゃない! 幾ら世界の征服を企んでいるからって、人の為に頑張っているプリン屋さんから商品を盗むなんて、


「プリンは3つ盗んで来てほしい。王と、、、お前達2人の分だ。」


ド、ドルゲフさーん!


その日、シャロンドのプリン屋から、プリンが4つ消えた。


店から快くプリンを盗み、ドルゲフさんの元に帰ると、彼は勇者2人と戦っていた。


「いや、何やってんですか!」


「おう、すまない。見つかってしまった。」


ドルゲフさんは2人の刀をかわしながら答える。意外と余裕なんですね・・・。とりあえず、陰地君が1人を吹き飛ばし、僕がもう1人の刀を消滅させる。すると勇者2人は、慌てて逃げて行った。


「助かったよ。」


いや、1人でも勝てたでしょうに。そう思いながら僕達は、彼にプリンを1つプレゼントした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る