第3話 強すぎた僕

岩の様に隆起した硬い肌。常人の倍以上はある巨体。ドラゴンの様な頭。それだけでも充分恐ろしいのに、僕達2人が力を合わせても動かせない様な巨大な金棒を両手に持っている。

僕達は、生きるか死ぬかなど考える暇もなく走り出した。追いつかれれば、死ぬ。異世界に来て、ものの数分で死ぬのは御免だ。しかし、打開策らしい打開策も浮かばない。そこで僕は、本当かどうかも分からない、一度も使ったことが無い「能力」に頼る他無いと考えた。魔王側に来たのは7人中2人だけ。少ない上に、陰地君の能力もまだ知らない。考えれば考える程、状況は絶望的だと知らされるばかりだった。

色々考えながら全速力で走っても、大きな怪物にはたちまち追い詰められてしまった。作り物(フィクション)の主人公ならば、ここで相方に的確な指示を出し、うまく立ち回るだろう。しかし、これは現実。いきなりの戦闘で的確な指示など出せるわけも無く、陰地君に伝えられたのは 「攻撃を僕に集中させろ。」 これだけだった。

僕は、相方の能力の確認もせず、更に、こちらの能力を伝えもせずに相手に無茶振りをしてしまったのである。これで陰地君の能力が、相手の攻撃を躱せるものでなかったなら、いや、躱せる能力だったとしても、気を使って僕を攻撃させたりはしないだろう。そうなれば、僕が一か八かで相手に向かって行かなければならない。だが、ここに来て陰地君は臆病者だった。攻撃が自分に向かっていると分かるなり腰が抜け、作戦も忘れ、逃げることもできず、藁にもすがる思いで口から出たのは、陰地君の能力だった。


「墜峰(ついほう)!!!!」


次の瞬間。彼の体が一瞬光ったかと思うと、彼の頭上に振り下ろされていた金棒は、勢いよくこちらに向かっていた。こんないきなりの状態で助かる方法は、脳裏に浮かぶあの能力しか無い。僕は不思議と冷静だった。一直線に飛んでくる金棒に対して右手を出し、


「夢幻の運命」


僕の体は、金棒によってグチャグチャになると思っていたが、そんな事は無かった。本当に何も無くなっていたのだ。金棒は僕の指先に触れる瞬間に消え始め、僕の体に届く事なく消滅してしまった。

「ほぇ?お?おぉあぁぁあ?!」

困惑と興奮が入り混じった声を上げる。まあ、8割型が興奮だが。今起こった現象が、僕達2人でやった事だと理解し、心を落ち着かせる頃、怪物は不自然な程に大人しくなっていた。

怪物に一応距離をとって警戒しつつ、僕は陰地君とステータスを見せ合った。これから共に勇者と戦い、世界征服を目指す仲間なのだから。



陰地 優太

Level 2

attack 153

block 205

能力「墜峰」

・自分の周囲15メートル以内の重力を自在に操る。


さっきの戦いで、お互いLevelが上がったようだ。しかも驚いた事に、陰地君のステータスも、僕程じゃないにせよだいぶ高いのだ。僕との相性によれば、最強のコンビになれるかもしれない。そんな事を考えていた時だ。

「素晴らしい。報せ道理、とてもお強い様ですね。」

近くの森の木陰から、知らない男が2人、偉そうに出て来た。1人は背が高く、ハンサムなカリスマお兄さん。もう1人は強面で、屈強なおっさん。鬼の様な顔だと思っていたら、頭に角が生えていて内心とてもびびった。ゲームで言えば、このままバトルになってしまうのが流れであろう。しかし、この2人は敵では無いと思った。心から信じられる何かがある気がしたのだ。

聞けばこっちのカリスマお兄さんは現魔王 「フロウ・デザール」で、もう1人は魔王の側近である 「ドルゲフ・ムンク」と言うそうだ。僕は、異世界転送1日目にして、魔王軍のナンバー1とその側近に顔合わせしてしまったのである。魔王は、先の怪物に「もう良い。」と言うと、怪物は一瞬ビクッとして。そして、自分が何をしていたのか分からない。といった雰囲気でどこかへ行ってしまった。

怪物を見届けると、魔王は爽やかスマイルで僕達に言った。

「君達には今から戦争に加わってもらおう。」


・・・・はい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る