第2話 悪の決意

自分が持った強さに困惑しつつ、僕は周囲を確認した。突然渡された厨二感溢れる能力に、みんなも少なからず興奮しているらしい。クラスの中で一番おとなしい印象だった池田君でさえも、口元が少し緩んでいた。

それぞれのステータスを確認した僕達に、案内人は追加説明をし始めた。興奮して復活した脳に、説明はすんなり入って来た。内容をまとめると、こうだ。

・能力は使いたいと願うだけで発動する。

・ステータスの平均値は.Level1でattack50

block100

・能力は自分が見せたいと思った者にだけ見せることができる。

・異世界には明日出発するから勇者と魔王のどちらにつくか考えておけ。


ん?ちょっと待って。

「その平均値間違ってないですか?」

僕の最初に発した言葉だった。案内人曰く、「間違っていない。」唖然とした。つまり僕は初期設定にして、周りに大きく差をつけたステータス。どんな攻撃も防ぎ、どんなものでも消してしまう能力。という、完全なチートボディを与えられてしまったのである。ほぼ最強の能力。こんな力が勢力に加われば、戦争は間違いなく勝利で終わるだろう。

「1つ忘れておりました。勇者側、魔王側につく利点について説明します。」

そういえばそうだ。僕達が無条件で戦わされて、命を危険に晒すなんて理不尽だ。納得して。そして内心ドキドキして、戦いのメリットを聞いた。

「まず、勇者側につく利点ですが、基本的に良い点はありません。あちらの世界のほとんどの者は勇者として戦っていますが、情勢は厳しく、ほぼ無償で命をかけて戦っています。利点を1つ挙げるとすれば、戦争に勝利した場合、国に平和が訪れ、貴方は国の英雄になれます。」

「次に魔王側につく利点ですが、こちらは上下関係が厳しいかわりに、戦果をあげれば莫大な報酬と昇格が期待されます。大物になれば、自分の土地を与えられるのも夢ではありません。」

人間は欲望で生きる者だ。普通に考えれば、魔王側の方がよっぽど良い。しかも僕達は、唯一無二の能力を持っている。聞けばこの能力は、異世界でも1割にも満たないほどの者しか持っていないらしい。戦果をあげるのも難しく無いだろう。しかしここで、人間のもう1つの心「抑制心」が出てくる。正義感が強い人、いや、普通の人ならば、ここで勇者側を選んでしまうようにできているのだ。しかし僕は・・・(お金が欲しい。良い物を食べたい。良い所に住みたい。・・・・)


魔王側につく事を決めた。


景色が変わらないので分からないが、世界はもう夜になっているらしい。道理で眠くなってきたわけだ。気付くと後ろには、寝袋が7つ並んでいた。7つ?最初に声は6人分しか聞こえなかったはず。そういえば、案内人も7人に権利が与えられたとか・・1・・2・・3・・・・6・・7。あ、居たわ、クラスの中でも地味な方だった「陰地 優太(おんじゆうた)」が、部屋の端で小さくなっていた。ちょっとしたモヤモヤが消えた消えた僕は、さらに眠くなり、さっさと寝場所を決めて寝てしまった。

目を開けると、昨晩までの殺風景な部屋はもう無く、晴れやかな草原と青空が延々と広がっていた。近くには陰地君が困惑した顔で座り込んでいる。時間をかけて状況を推察すると・・・・異世界に行くには門をくぐるのでは無く、加わりたい勢力を決めて寝る。という事だったのだろう。・・・・(門必要無いじゃん!!!)心の中で激しくツッコむ僕の頭上に、突然陰ができた。

そこには、ゲームで言う所のモンスター。巨大な怪物が佇んでいた。

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