巡る世界を燃やす僕ら 〜業火の火種〜

ウエミヤ

第1話 終幕の始発点

【市立梅田高等学校】

弁当を食べ終えた僕「山内悠人」は、フォトライブラリの写真を眺めていた。男女共学、全校生徒371名。田舎の小さな高校に通う僕は、仲の良い友達と時折はっちゃけ、他の人とはあまり話さない。所謂、内弁慶な生き方をしていた。

そんな僕にとって昼休みは、あまり好きな時間では無い。中学が同じだった同級生は、半分以上が別の高校に行ってしまったので、僕のクラスには片手で足りるほどの数しかいない。周囲の目を気にする僕には、昼休みの45分が1時間にも感じられる様だった。何もすることがない。それがまた、周囲を意識させる。だから僕は1人、写真に集中しようと、奮闘していたのだった。

夕日が好きで、学校帰りに撮影した唐紅に染まる海を眺めると、途端に僕の視界は黒に包まれた。目を開けているのか閉じているのかも分からない闇の中で、聞いたことのある声が聞こえて来た。みんな、此処はどこ?どうなってんだ?など、思い思いの声を上げている。中には女子もいる様だ。声だけで推測すると、ざっと6人。おかしな状況になっているのが僕だけではなく、クラスの数人が同じ場所にいることに、少し安心した。しかし、状況は変わらない。昼ごはんの途中に、いきなり何も見えない場所に来てしまったのだ。ちょうど、夜暗くなってから、誕生日サプライズで電気を消された時の様に。

「ようこそ。そして、おめでとう。貴方がた7人は、自分の世界を離れ、異世界で生きて行く権利を与えられたのです!」

急に明るくなった視界と、美しい女性の登場に、僕達は数秒黙り込んだ。誰も状況を飲み込めていない沈黙の後、一番に口を開いたのは・・・。不確かな情報を探る。学級委員の「達富愛」さんだ!少し華奢だが、端正な顔立ちでカリスマがある彼女は、まず、此処がどこなのかを少し詰まりながら質問した。どれだけ頭が切れる人でも、この状況を一度には理解できない様子であった。

「此処は、世界と世界の狭間。無数にある、貴方達目線で言うと【異世界】から、これから貴方達が生きて行く世界を私が選んで見ました。そしてそこに向かう門が、、、こちら!」

そう言うと道案内風の彼女は、かかっていることにすら気づかなかった壁の幕を勢いよく引き剥がした。勢いが強すぎたからか、幕の上の方が破れて少し残っているのは、突っ込まない方が良いのだろう。考えはみんな同じなのか、はたまた気づいていないのか、そこに突っ込む者も笑う者も僕達7人の中にはいなかった。もしかしたら、まだ状況を飲み込めていないだけかも知れない。達富さんは一人で淡々と理解しているのか、会話をするのはさっきから彼女と道案内の2人だけだった。


・・・・

「つまり。その門を通って異世界に行き、私達はそれぞれそこで生きていかないといけない。と?」

「その通り!まあ、あちらの世界に使いを送って知らせていますので、貴方達はまとまって生活すると思いますけどね。あぁ!そういえば。あの門をご覧ください!」

門というより完全に普通の扉だけど。その考えは、きっとみんな同じだった思う。

あれ?

「門が2つある。」

口を開くのは、やはり達富さんだった。

「そう!貴方達が行く世界は、現在世界征服を目論む魔王と、それを阻止しようとする勇者の勢力が争っています。そんな世界で貴方達は、魔王側か勇者側のどちらかに入って敵と戦ってもらいます。」

これには流石に全員が声を荒げた。当然である。ただの高校生だった僕達に、いきなり戦争に加われと言うのだから。

「もちろん。何も持っていない貴方達が行けば、直ぐにやられてしまうのは目に見えています。なので貴方達にはそれぞれ特別な能力を与えます。その能力を駆使して、戦争の勝利に役立ってください。能力はあちらになります。」

なるほど。何も僕達に死ねと言っているわけではないらしい。指さされた先を見ると、もやがかかったガラスの様な球体が、幾つも並んでいた。この中から適当なものを1つ選び、割ることで特有の能力を得られる。と、案内人は言う。僕はもうこれ以上説明をされても頭が追いつかないと思い、手前にあった球をおもむろに掴んで床に叩きつけた。煙が上がり、僕を包む。

「自分のステータスと能力は、それぞれ左腕に刻まれます。能力名を触るとどんな能力か知ることができますのでー。」

煙が晴れると、みんなが一斉に腕を見た。


山内悠人

Level 1

attack 285

block 520

能力「夢幻の運命(むげんのさだめ)」


むげんの、、さだめ?どんな能力かと大いに期待しながら能力の文字を触ると、目の前に文字が浮かんだ。他の人には見えないらしい。実際、ほとんどの人が何もない虚空を呆然と眺めていた。


夢幻の運命

・自分に関わる(触れる、攻撃する)ものをどんなものであろうと任意で消滅させる。

・自分の体から30センチ以内に入ったものを消滅させるバリアを作る。


あのー、これ強すぎない?

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