第16話 最終決戦

 タクトたちが向かったのは最終ダンジョンである「そごう大宮パーキング」だった。


 みんなが揃えてきた各装備品を着込み、インカムを付ける。このインカムで西島が指示を出す予定になっている。


「みなさん、全てのシミュレーションが終わりました。これから最短で行動すればおよそ10分の余裕があります。それぞれ準備して頂きたいものは用意できましたか?」


 タクトと佐藤以外は手持ちの資金を使って予め西島から指示された武器、防具、道具を買っていたらしい。


 作戦を聞きながらタクトは大宮駅内のアンデルセンのアップルパイと新商品のネクターザクロ味を取り出しみんなにふるまった。佐藤からは甘い甘いとクレームが来るが女性陣からは好評だ。


 タクトはこんな風にどんなものでも取り出せるのだから、最強の武器を出して使えばいいんじゃないかと西島に提案した。

 しかし、どこでバグチェックがどのように働くか分からないという理由によりタクトの意見は却下された。

 タクトがこのサーバーの管理権限を持っていてもどこでバグのセンサーが働くか分からなかった。そのセンサーはスタンドアローンでプレイヤーのこれまでの行動をチェックしており、最終ダンジョン内で不審な動きがあればそれがバグとしてアラートが出る仕組みになっているようだ。

 そして初めから攻撃力アタック付与エンチャントバグを使っていたタクトはそのセンサーには引っかかることはないだろうとのことだった。


 それでもシミュレーション上ではボスを倒せるのはギリギリになるらしい。


 それぞれ装備を確認してダンジョンへと潜る。


 ダンジョンはやはり最終ダンジョンと言うべき、いかにもな雰囲気だった。狭く曲がりくねった通路、ゴツゴツの岩肌の壁。某大規模テーマパークのアトラクション待ちの通路のようだ。


 そんな中でタクトたちはモンスターと戦う。


 レベル上げ(主にタクト)の為だ。レシーバーから西島の指示が飛ぶ。


「みなさん、その先では部分的に通路が広くなっています。そしてそこで30秒待ってください。そうすれば敵が単体で現れるので、フォーメーション展開。左から佐藤さんが攻撃、その隙にたっくんは右手前方へ。その体制では敵が通常攻撃をしてきますので佐藤さんと原田さんがスイッチしガード、その隙にたっくんは攻撃を打ち込んで仕留めてください。そこでレベルが上がります。その際に右手を上げたままにしておくとさらに俊敏性のボーナスが付きます。必ず忘れないように」


 なんというか、昔動画で見た『します。させます。させません』の三段活用みたいだとタクトは感じた。


 西島の指示に従い、タクトたちは着実に基礎レベルを上げながらボスへと近づいている。


「さぁ、みなさん。扉を開けるとボスですよ、準備はいいですか?」


 それぞれ返事をする。


「では原田さん、扉を開けてください。佐藤さん、飛び出しちゃだめですよ」

「そんなことは分かってる!」

「それではボスが眠っています。この後5分程はイベントが入ります。終わり次第また指示を出します」


 そのころ臨時発令所にしていた事務所で西島と長谷部が話していた。


「西島さん、ここまでで残り時間はあと何分ですか?」

「今のところ4分の猶予があります。何とかなるでしょう。それより長谷部さんも各方面の連絡準備お願いしますね」

「それはもちろん。知り合いの裁判官に無理行って休日に裁判所に来てもらいました。偽タッくんのIDさえもらえればすぐにでも執行差し止め請求を正式に出して初期化を止められます」


 イベントが終わり、戦闘に入る。


「富谷君、まずダーツコンボで頭を狙ってください。そしたらすぐに木下さんの陰に隠れて!ブレスが来ます。原田さんはブレス後に左に回って……」


 矢継ぎ早に西島から指示が飛ぶ。

 ボスのHPは少しずつではあるが確実に減っていく。




 戦闘開始から10分経過した。


「富谷君、次はダーツで足を狙ってください。そうすれば勝利確定です」


 10分間神経を擦切らすような行動をしていたタクトは疲れが出ていた。

 攻撃力アタック付与エンチャントをしたダーツを構えるが、目元がぼやける。

 タクトは改めて集中した。ダーツを構える。何全何万回と投げてきたダーツだった。特にデータの存在となった正確無比な動きのできるはずのタクトだったが、サーバーの温度にまで気を配ることが出来なかった。


 ダーツがタクトの手を離れる。ボスの脚を狙っていたためわずかに逸れてボスのツメに当ってしまった。


 カキン。


 固いガラスに当ったかのような効果音と共に脚へのダメージが通らなかった。仕様によりダメージ無効の歯と爪にはダーツのダメージ貫通効果が打ち消されてしまう。


 残り3分。


 元々予定していた時間よりも9分40秒ほどロスしていたため、猶予は20秒まで減ってしまっていた。


 タクトの失敗を見て景子が西島の指示無しに動き始める。


「えぇーい!」


 景子の闇雲の様に振りかぶった大剣はボスの前足には当てることが出来ず空振りに終わった。

 そのまま景子の手から大剣がすっぽ抜ける。


 その意表を突いた行動にボスは対応できず脚に大剣に突き刺さる。


「景子ちゃん、やった!」

「でかした!」


 そのまま事前に予定していた佐藤、原田のコンビがボスの巨体を切り付ける。


「富谷君、最後にもう一度ダーツを放ってください。それで終わりです。ちなみに時間はギリギリです。外さないように」


 西島は慌てていたためタクトにプレッシャーをかけるようなことを口走りながら指示を出す。


 タクトは改めて集中し直した。


 タクトは感謝した。これまでみんなに助けてもらい、気を使ってもらい、さらに自らの失敗をフォローしてもらった。これで決められなきゃみんなに申し訳が立たないってもんだろうと。


 ダーツが改めて手を離れる。最後の一本。


 放物線を描きながらボスの身体へと一直線に飛んでいく。


 ボスの身体の中心部、これまでダメージを与え続けてきたおかげでコアがむき出しになっている。


 輝くコアにダーツが刺さる。雑魚のように大きな穴は開かない。


 ダーツはコアに突き刺さったままスッと消えていく。


 それと同時にボスの時だけに表示されているボスのHPカウンターが『0』を示した。


「長谷部さん、ID送りました!」

「はい、受け取りましたよーっと。オッケーイ裁判所から請求来ました!」

「ちょッ、長谷部さんこれ一般回線です。重要書類は専用回線経由じゃないと受理できません!」

「ああ、もう!間違えちった。はい、送りなおしましたよ!」

「受理しました」


 西島は職員向けのアナウンスに切り替えて通達を出す。


「サーバー初期化に関わる職員に通達します。初期化作業は中止。初期化作業は中止。これは県警本部からの正式な通達で市議会の決定より上位の命令です」


 長谷部はホッと胸をなでおろし、戦闘に参加していた4人はEDイベントに突入していた。

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