第14話B 4人寄れば文殊を超える

木下  「たっくん消えちゃうの?」

原田  「うん。だけどコピーされた偽物だよ。本物はリアル現実にいるでしょう?」

木下  「でも、でもせっかくたっくんとゲームできるのに、偽物でもたっくんなのに。どうにかできないの!?」

◎長谷部「どうにかと言われましても……」

●西島 「今、開発室で調べさせていたのですが、ハッキングされたサーバーからこの大宮サーバーに昨日の朝方から情報量が急増しているとの報告がありました。他のサーバーにはこのような情報量の増加は見られません。時間的にも一致していますので、やはり長谷部さんの言った説が正しい可能性が高いです」

○佐藤 「つまり、放っておけば偽物は消えるってことだな。それならそれで一件落着だ」

木下  「駄目だよ。それだとゲームのたっくんが消えちゃ……」

◎長谷部「おや、木下さんが消えてしまいましたね」

原田  「呼ばれたんでしょうか?」

●西島 「恐らくそうでしょうね、何の痕跡も残さないのは今のところ彼くらいしかできませんから」

○佐藤 「まあ、たっくんが消えようが消えなかろうが、会議なんて別のサーバーでやればいいじゃねえか」

●西島 「それは無理ですね。このプロジェクトを運営していく上で補助脳サーバーは必要不可欠なんです。サーバー全部のデータを扱うのに通常の人間の処理能力では全く足り得ない上に、33ものサーバー長が集まるのですから。その意思疎通だけでも莫大な時間がかかってしまいますよ」

原田  「サーバーを増設したらいいのではないですか?」

●西島 「それこそ大幅な予算変更なので、区長会議で決定させなければいけません。それが出来ない今はさいたま市議会で可決させないと難しい問題です。さらにすでにさいたま市の方で条例案の準備をしてもらっているのでうちの重役の顔をつぶすことにもなりかねません。よほどのことが無い限り覆すことは難しいのが現状です」

○佐藤 「ま、たっくんは諦めろってことだな」

○佐藤 「おい、長谷部、さっきから悪だくみでもしてるような顔が俺の視界の端に見えるんだが、何考えているんだ?」

◎長谷部「いえいえ、何。仮に、仮にですが、たっくんを助けることが出来るのならとても便利な存在だなと思いましてね。存在しない、人権も無い、このゲーム上最強のハッカーが出来上がるなぁと思っただけです。オオミヤの中で事件が起きたらどんなことでも対応できます」

○佐藤 「人格のコピーだぞ、そんな訳の分からない存在を使おうってのか?」

◎長谷部「ええ、もし困ったことになればサーバーを物理的に破壊すればいいだけですし。もしこれが成功すればきっと県警の方から金一封が贈られるとか贈られないとか」

○佐藤 「おい、西島ぁ!たっくんを生かす方向でどうにかならないのか?」

●西島 「現状ではどうにもなりません。まあ、実験体としていてくれるとかなり面白い存在ではありますがね」

◎長谷部「こういった不可思議な現象の抜け道は佐藤さんが得意としている分野では?」

原田  「抜け道……」

○佐藤 「あぁ?どうした原田?」

原田  「『抜け道』というか『例外』ですが、決まりには何事も例外が定められているんです。例えば、法律です」

○佐藤 「お前まで回りくどい言い方をするな。結論を言え結論を!」

◎長谷部「せっかちな人は女性にモテませんよ……」

◎長谷部「殴らないでください。アバターでも多少の痛みは感じるんですから」

原田  「確か区長会議で決定できない時で事件が絡んでいたら警察が介入できるという決まりがありませんでしたか?」

◎長谷部「え~っと、これですね。『以下の重要事項は区長会議によって決定される。但し、事件性があると認めるときには、埼玉県警察はこれを変更することを命じることができる』という部分ですね」

●西島 「よくご存じで。確かにそのような条文は存在します。ただ、これまでの慣例的には緊急時を除き、出来るだけその条文は適用させないようにしています。そうでなければ警察側がどんな要求でも通すことが出来てしまいますから」

○佐藤 「今がその緊急事態じゃねえか」

●西島 「それに面子というものがあります」

◎長谷部「うーん、そのあたりはこちらで何とかしましょう。言い訳さえあればなんとかします。何より裏で手を回したとしても成功すれば手に余るメリットが見込めますからねえ。ただのゲーム担当刑事ですが、それ位のコネは持ってますので」

○佐藤 「はッ!何がただの担当刑事だ。どうせ察庁だとか公安とかそんなんだろう?大体、本名かすらも怪しい」

◎長谷部「ふふ、どうでしょう?まあ、今回は実際にサーバーのハッキングという事件も起きているのですからその初動捜査です。重要参考人を確保するという線で偽たっくんに任意同行していただきましょう。そう、これは刑事事件です。いいですね西島さん」

●西島 「ふう、分かりました。サーバー増築分の追加予算案は必ず通してくださいね。そしてもう一つの問題も忘れないでください。明日の市議会で可決され次第、私達にサーバー初期化の命令が降ります。その前に全て事を済まさなければいけません」

◎長谷部「それなら刑事事件として立件し、裁判所に執行を差し止められるよう請求をしましょうか。西島さん、彼のIDは分かりますか?」

●西島 「いえ、捕捉出来ません。昨日からずっと調べてはいるのですが正規に調べると現実の『富谷拓斗』のIDになってしまい、現在ゲームの中にいる偽たっくんの行動から調べようとすると正規のアクセスではない為、IDの表示に不具合が出ています」

○佐藤 「よくわからん、何とかしろよ」

原田  「裁判所への請求にはIDが必要で、そのIDを調べる手段がないということですよ」

◎長谷部「西島さん、どうにかIDを調べる方法はありませんか?分からないことには警察としても動きようが無くて」

●西島 「通常IDはデバイスからの信号を受けとっていますからね。サーバー内で完結させた表示ですと……」

原田  「何かありませんでしたか?ちなみにフレンド登録は上手くいきませんでした。登録しようとしたらおかしな文字が出てきてそのままメニュー画面に戻ってしまったんです」

●西島 「登録がはじかれたのですか?」

原田  「そうなんです、恐らくバグだと思うんですが」

○佐藤 「どうにもならないならしょうがない。この話は終わらせてゲーム進めるぞ!もうバグ報告は終わった。原田も行くぞ!」

●西島 「……。佐藤さん、それです。その手がありました。このままゲームを進めましょう。正規な形でクリアすれば、ゲームクリア者一覧からIDが分かります」

原田  「そういえばOOOにはクリア者一覧というものがありますね」

●西島 「ええ、キャンペーンで告知をすることなどがあるので、正規クリア者はIDがサーバー内で完結された表示で記録されます」

○佐藤 「じゃあ、みんなで最速クリアでも目指そうってのか?」

●西島 「ええ、しかしながら私は開発権限を持っているので攻略には参加できません。長谷部さんも権限持ちなので無理です。仮に参加したとして正規クリアとはならず一覧に載りません」

○佐藤 「俺も権限持ってるから駄目だな」

●西島 「いえ、佐藤さんはデバッカー権限だけなので問題ありません」

原田  「佐藤先輩が参加できたとしても私たちだけではすぐににクリアは無理じゃないでしょうか?」

●西島 「そうでもありません。調べてみたのですが偽たっくんの使う|攻撃力<アタック>|付与<エンチャント>は大きな補正が掛けられています」

○佐藤 「それを使ってクリアしろってのか」

●西島 「ええ、65536%増加補正です」

原田  「だから彼は一撃でノライムを倒していたんですね」

◎長谷部「さて、助けられる目途もついたし、そろそろ姿を現してくれないかい?たっくん」


 俺は追っていたログから目を離し考えた。

 思わずみんなの前から逃げてしまった。景子までも呼び出してしまい情けない姿を見せてしまった。

 今さらノコノコと出ていくのは気まずいが、それでも、俺を生かすために色々考えてくれている。これは戻らなきゃいけないだろう。

 そして、光のエフェクトと共にみんなの前に現れた。

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