第13話B 女子×1、女性×1、おっさん×3


○佐藤 「な!おい、長谷部!消えたぞ!」

◎長谷部「そうだねえ、消えましたねえ。消えたというより転移石を使った感じに似てましたけどね」

○佐藤 「悠長に分析してる場合かよ」

◎長谷部「そんなことを言われましても、分からないものは分からないんですよ。この部屋は出られないようにプロテクトがかかっているはずなんだけどな。個人指定できなかったからかな?」

○佐藤 「結局どうするんだ」

◎長谷部「これで逃げられるなら私には無理ですね。また捕まえたとしても逃げられてしまいます。多分彼は私より上位の権限を持ってるんじゃないですか?」

○佐藤 「はあ!?お前はこのゲームの中じゃ最高権限持ってるんじゃなかったのか?」

◎長谷部「そうなんですが、とりあえずそのことは秘密にしてもらうという約束だったはずですよ。まあとにかく、彼は開発権限でも使って仕様変更でもしているんでしょうね」

木下  「え、たっくんゲームの開発者だったの?」

○佐藤 「そんな話は聞いてねえぞ!」

◎長谷部「まず確認してみましょう。GMコールです」


メッセージ『◎長谷部→●西島』

「緊急事態、至急応援お願いします。」


原田  「一体どういうことでしょうか?初心者だと思っていたのにおかしな力を持っているなんて」

◎長谷部「さあねえ、どうなんでしょう?」

○佐藤 「何か知ってやがるな?」

◎長谷部「とにかく西島さんが来たら聞いてみましょう。なんせ本物の開発者なんですから」




●西島 「お待たせしました。長谷部さんが緊急事態なんて言うからには相当のことなんでしょう」

○佐藤 「西島ぁ!遅いぞ!」

●西島 「これでも今の案件を部下に振って急いで来たのですよ。こちらはこちらで緊急事態なんです」

◎長谷部「早速ですが、埼玉県警察刑事部、長谷部警部補からの正式な依頼です。開発室室長の西島さん、今回私のプロテクトから逃げ出した呼称『偽たっくん』について調査をお願いします」

原田  「偉い方だったんですね」

木下  「ビシッ」

◎長谷部「いや、景子さん敬礼なんて止めてください。ただのしがないオンラインゲーム担当の刑事ですよ。ところで西島さん、結局のところ偽たっくんは開発者なのですか?」

●西島 「いえ、開発室にいた人間でそのような人はいません。これまで開発に関わってきた人間も全て補足しているので該当する者もいません」

○佐藤 「じゃあ、何で長谷部のプロテクトから出れたんだよ?」

●西島 「この空間を解析したところ確かにプロテクトがかかっていましたが、今は解除されています。コード編集者はと……」

●西島 「駄目ですね。表示にバグが出ています。正規の手順でコード編集されたものではないですね」

◎長谷部「西島さん、仮にですが、今現在、別件で起きている事と関連があったりはしませんか?例えばその発信元が例のハッキングされたサーバーだったりとか」

○佐藤 「どういうことだ?」

●西島 「仕方ないですね。緊急事態なのでお話ししましょう……。本来は部外者であるあなた方に漏らしてはいけない事なのですが、区長会議に使う補助脳用サーバーが何者かにハッキングを受けて現在アクセス不可になっています。そのためOpen Oomiya Onlineの最高意思決定機関である区長会議が行えない状態です」

原田  「それってまずいんじゃないですか?」

●西島 「ええ、この件のせいで様々な決定事項が決められない状態で、今日中にさいたま市議会で補助脳用サーバーの初期化をするための時限立法が成立する手はずになっています」

○佐藤 「さすが、三セクだ。面倒なこった」

木下  「さんせく?」

原田  「第三セクターのことで官民共同で行う事業の事です。この『OOO』では何かを決める際に各サーバーの責任者である区長達が集まって会議をする区長会議があるんですけど、大きな変更になると法令で決まりを作らなきゃいけなくなるの」

木下  「へ~」

○佐藤 「この分かって無さそうな顔した嬢ちゃんは放っておいて、結局長谷部は何が言いたい?」

◎長谷部「ええ、それがですね。偽たっくんはゲームシステムを改変するような権限を持っているだけでなく、会話の過去ログの閲覧権限も持ってるようなんですよ」

●西島 「ありえません。各区長でも出来ないことですよ。それこそ裁判所に請求が必要なことじゃないですか」

◎長谷部「でも西島さんもシステムを書き換えて出来ないことはないでしょう?」

●西島 「やってできないことではないですが……」

◎長谷部「私もその権限を持っているだけで令状無しでやったら始末書を書かなくてはいけないのでやりません」

○佐藤 「その偽物はそこまでできるってことでいいな」

木下  「あのたっくんは悪い事してるって感じじゃなかった。それに多分、偽物じゃない……と思う。変な表情はしてたけどみんなに疑われてるってだけで、あれはあたしの知ってるたっくんだった、多分……」

◎長谷部「ええ、本人からは悪意は無さそうに見えました。これは私の刑事としての勘ですが、偽たっくんは自覚は無しにこれらの事を行っているのではないかと思っているんですよね」

○佐藤 「結論から言え、お前の回りくどい言い方はうんざりだ」

◎長谷部「私の推測ですが、偽たっくんは本物の富谷拓斗が補助脳にコピーされた人格なのではないかと思っています」

○佐藤 「そんなふざけた話、誰が信じるか!」

◎長谷部「いえ、こうして考えると富谷拓斗君がゲームにログインできない理由も、昨日の夜からサーバーが動かない理由も、偽たっくんが変な権限持っていることも納得いくなと思いましてね」

●西島 「とりあえず、その線で調べてみます」

◎長谷部「ええ、お願いします」

原田  「それじゃあ、もし偽たっくんがコピーされた人格だとしたら……」

◎長谷部「はい、今日、条例が可決し次第消えてしまいます」


 ログを読んでいた俺は混乱した。俺は偽物のコピーで、もうすぐ消えてしまう。


 ゲームの中にもかかわらず吐き気がした。


 もし俺がこのゲームの仕様を変える権限を持っているのならデバフは消すことが出来るはずだが、何をしても吐き気が収まらなかった。

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