第11話 本物、偽物
俺の性別は男。高校二年生。中肉中背。いや、少しばかり背は低い。血液型はAのはず。
そして名前は富谷拓斗。しかし、この目の前にいる自称正義の味方は俺のことを富谷拓斗ではないと言う。
ただでさえ混乱しているのにさらに禅問答はやめてほしい。何を言っているんだ。考えれば考えるほどイライラしてくる。
だが、一つ違うのは今まで通りのニヤニヤした顔ではなく極めて真面目な顔をしている事だ。人のことを皮肉気に楽しんでいる様子はなかった。
真剣な顔つきのおっさんの横には景子がいた。
景子の顔を一瞥するとこれまでになく不安そうな表情を浮かべている。そんな景子が重々しく口を開いた。
「ねぇ、あなたは誰?ログアウトしてからたっくんと会ったらゲームにはログインしてないって言ってた。何度やっても入れなかったって」
「何言ってるんだよ、俺は拓斗だろ。景子まで俺をからかうのか?」
「でも……、たっくんはゲームはしてないって……」
「俺だってゲームに入った記憶は無いよ。言っただろ!」
そんな俺と景子の会話に佐藤のおっさんは横から口を出す。
「だが、ここはゲームの中だ。俺はあの後
「俺が偽物だって言いたいのか?」
「ああ、お前はまぎれもなく富谷拓斗を語った『偽物』だ」
「じゃあ、俺は何なんだよ」
「それはこれから調べれば分かるだろ。偽タッくん」
おっさんは不敵に笑った。笑ってはいるが目は真剣そのもので鋭く俺を見つめている。
なんだ?みんなして俺をからかってるのか?
段々不安になってくる。まさか本気で俺を疑っているのか?
二人の目を見るたびに鼓動が速くなってくる。
大体、ゲームからログインできなくなっただけなのに、現実世界には俺がもう一人いるわけないだろう。そいつこそ偽物だ。
「そうだ!そいつが俺になり替わってるんだ。その現実世界にいる方が偽物なんじゃないのか?」
「何言ってるんだ、本物そっくりに変装するより、他人のアカウントデータを乗っ取る方が楽だろ。何の為に本物の振りして、なおかつ自身の家族にも幼馴染にも怪しまれず変装なんかするんだ?」
「それを言ったら俺の振りしてアカウントを乗っ取ることだって意味ないだろう」
「悪い奴はいくらでもいるさ。このオオミヤは普通の遊びじゃない。リアル・マネー・トレードだって認められている。悪用なんていくらでもできるんだよ」
おっさんは吐き捨てるように言った。
「景子も黙ってないで何とか言ってくれよ。拓斗は俺だろう?おかしいところ何も無いだろ?」
「う……ん、たっくんだと思う……。でもゲームの外にもたっくんがいるの……」
おっさんは改めて俺を見て言った。
「もう一度聞く。お前は誰だ?」
気まずい沈黙が三人に訪れた。
誰も何も答えられない。目の前の二人は俺を見て何か言うのを待っている。しかし、俺は俺だ。富谷拓斗以外であるという答えを持っていないから何も言うことはできない。
そんな沈黙を破ったのは新たな訪問者だった。
「はいはい、どうもどうも。何やら不穏な雰囲気だねぇ。修羅場かい?修羅場なのかい?」
淡い茶色のスーツに身を包んだ男が現れ、勝手に自己紹介し始めた。
「どうもどうも、刑事の長谷部です」
長谷部と名乗る男は警察手帳を取り出し俺に見せながら、どうでもいいことをつらつらと並べ立てた。
「いやあ、この警察手帳もね、ゲームの中じゃただのデータでぶっちゃけ法的拘束力がないからいくらでも偽物を作れるんですがねぇ。ああ、どうも富谷と名乗る方。初めまして。話は聞いてるよ。ちょっとご同行願おうか。色々聞きたいことがあるんでね」
「やっと来たか、長谷部」
「いやあ、遅くなっちゃったかな?これでもなかなか忙しい身の上でしてね」
このおっさんとは昨日会ったGMのように顔見知りなようだ。無駄に顔が広い。後ろには原田さんも来ていた。原田さんがこの長谷部さんを呼んできたらしい。
「で、どこに連れていかれるんですか?」
突然来て失礼な疑いをかけてきた男に俺はふてくされるように答えた。
「いやあ、ちょっとお話をしようじゃないか。ああ、警察手帳は
そう言って長谷部と名乗る男は自身のウインドウを開き操作を始めた。
「ええと、どこがいいかな?駅前の交番でいいか……」
そう言うと長谷部さんを含めた俺達は光のエフェクトの中に埋もれていった。
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