第4話B 勘が囁いている!飯の種に違いないと!

 佐藤と原田は富谷少年を区役所に連れて行き転職させた。


 その報酬として転職後見人確認書を受け取ったことにより、佐藤は念願の探索者ランクCに上がることが出来る。


 探索者のランクを上げてもいいのだが、手続きをするとなると、またどれほど待たされるか分からないと佐藤は考え、その日は富谷少年とのやり取りに専念することにした。


 原田は富谷少年の職業の選び方について疑問を持った。ゲーマーの端くれ、いや、廃人一歩手前と言っても過言ではない位のゲーマーとしては、珍しい構成の職業を選んだ彼に興味をあるので聞いてみた。


「ねぇ、富谷君。どうしてその二つを選んだの?」


 富谷は興奮気味に答える。


「これはですね、俺はダーツが趣味なんですが、それを武器にしてみたいなと思っていて。まさか本当にそんな職業があるなんて思ってなかったですよ。『遊び人』という名前が少し格好悪いですけどね」


「そうなんだ、それで副業枠で『付与術師エンチャンターを選んでいたけど、それはどうして?」


「このダーツにエンチャントをして強く出来ないかなと思いまして」


 原田は思った。着眼点は悪くない。自分の得意な武器はそれが思い込みにしても、このゲームの中ではLUCK値が上昇する。

 この追加分は隠しパラメータとして分類されているもので数値には表れないが有志での様々な検証の結果、確かに存在するということが分かっている。


 さらにダーツはお遊び用のネタ武器として扱われがちだが、珍しい付加効果がある。それが、防御不可・ダメージ値『1』という効果だった。

 この効果はこちらの攻撃力と相手の防御力に関係なく当たれば必ずダメージが入るのである。これらの当たれば確実に攻撃が通る効果にダメージ増加を加えれば確かに有用な武器だ。


 しかし、これには大きな見落としがあった。


 付与術師エンチャンターの初期魔法『攻撃力アタック付与エンチャント』は増加分が元の攻撃力に×120%をした数値となる。

 そもそもの攻撃力が『1』なので攻撃力アタック付与エンチャントを掛けたところで攻撃力は1.2。

 端数は切り捨てなので攻撃力は変わらないことになる。


「あ、それは……。いい考えね。頑張って」


 大半の職業についての知識を持っている原田としては、それは全く意味の無い攻撃になるだろうと注意を促そうと考えたが、もうすでに転職をしてしまった後であり、更なる転職をするにもこちらが転職費用を出す義理もない。

 そう考え、注意喚起を途中でやめた。かなり喜んでいるようだし、どうせ遠からず気づくことである。

 この職業構成だとしてもパーティの支援系としての活躍をする分には問題なさそうだ。


 その罪滅ぼしというわけではないが今は使っていない皮の装備一式を上げるとまた喜んでいた。今にも『モンスターを倒しに行きます!装備なぞ眼中にありません!』と目が訴えていたので何もないよりはマシかと思ったのも原因の一つだった。


 一方の佐藤は少年から初期アイテムである深谷ネギと草加せんべいを買い取っていた。


 そして佐藤と原田は富谷少年と分かれた。


「ここまできてやっとCランクに戻ったか。正直面倒になってきた」

「佐藤先輩、何言っているんですか、それもゲームの醍醐味ですよ」

「お前のような根暗ゲーマーと一緒にするな。俺は仕方なくやってるだけだ」

「その割には正義の味方ごっこなんてことして、楽しそうにしてたじゃないですか」

「何事も楽しんでやるのは俺のモットーなんだよ。そんなことより」


 佐藤は区役所を意気揚々と去っていく富谷少年の後姿を一瞥した。


「あいつ、何か匂うな」

「へ?そうでしたか?特に食べ物を持っていた様子は無かったですが」

「原田、古典的なボケはやめろ。普段友達いないからそんな使い古されたギャグしか言えないんだ、お前は」

「と、友達ならリアル現実世界でもいます!」


 そんな原田の抵抗をスルーして佐藤は話を続ける。


「あいつ、何かおかしい」

「そうでしょうか?」

「初心者であんな住宅街にいたってことは、住所登録した家から出てきたってことだよな」

「はい。きっとそうでしょうね」

「そこまでやっているのに、まるで何かに連れてこられてきたような言い方じゃなかったか?」

「どうでしょう?職業については事前に調べていたか、ゲームに慣れていたような口ぶりでしたが」

「そう、そこも何か引っかかる。面白いバグ見つけてきてくれるかもしれん。行くぞ」

「行くってどこに行くんですか?」

「決まってるだろあいつ、なんだっけな。えーと、そうだった、富谷少年を付けるんだよ。俺の勘が囁いている!あれは飯の種に違いないと!」


 佐藤が少年の向かった方向へ走り出していく。それにつられ追いかけた原田の顔にはまた先輩の悪い癖が出たなと、隠す風でも無く呆れ顔がありありと出ていた。



 佐藤と原田の二人組が富谷少年を見つけたのは氷川神社の参道の入り口まで来た時だった。


「おい、あいつはどこに向かっている?」

「知りませんよ。ふらふらとあてどなくさまよっているだけに見えますが」


 実際に富谷少年はどこに向かうわけでもなくブラブラとしていた。モンスターを倒してみたいのだが、町の大通りには敵MOBがいない。

 仮に出てきてもどこからともなく現れた同じ装備に身を包んだ二人組にすぐに倒されてしまう。このゲームに配置された警邏隊だった。

 その為、出来るだけ人気の無い場所に移動しているうちに大宮区民としては誰もが一度は訪れたであろう氷川神社の参道まで足を向けたのである。


 参道横に伸びる小道に身を隠しながら佐藤と原田は富谷少年の動向を見守った。


「あ、佐藤先輩。富谷君がスライムと戦闘を始めましたよ」

「そうか、まあ、頑張ってくれ」


 佐藤は何も進展の起こらないどころか何もしない富谷少年の尾行に飽きていた。それ以前にここまでくる間、何度か富谷少年の視界の先に入ってしまったのだが、富谷は全く気付くことは無かった。


「不用心にも過ぎる。やる気が起こらん」


 そう言っている間にも富谷少年とノライムとの戦闘は進んでいく。すると突然原田が大声をあげた。


「な!なん……」


 佐藤はあわてて原田の口を両手で塞ぎ、小声で話しかける。


「はかやろ!尾行中だぞ!」

「すいません。だけど、あんな光景見たら驚きたくもなりますって。ノライムをダーツで一撃ですよ!」

「それがどうした俺でもノライム位なら一撃だぞ」

「それは普通に戦ったらの話です。あの『ダーツ』はかならず『1』ダメージ与えられるのですが、それでも『1』です。いくらエンチャントで攻撃力増やしてもダメージは『1』のままなはずなんです」

「エンチャントが凄かったって話じゃないのか?そうでなかったらダーツに何か仕掛けしてあるか」

「そうだとしたら攻撃力にダメージプラス補正のかかるもの、例えば『+30』とかです。そういったアイテムか呪文を使わないといけないんです。あのやり方だとノライムの平均がHPが15、レベル1の通常攻撃が大体5くらいだとしても攻撃力アタック付与エンチャントの効果が『×1000%』の補正がないと。納得できることじゃありません」


 佐藤は不敵な笑みを浮かべながら言った。


「つまり……」

「ええ、佐藤先輩の勘は大当たりです」

「飯の種だ!」

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