第7話 この世界は、何?

 サクラちゃんが倒れた後、身体が光の粒に変化して消えた。残ったのはサクラちゃんが付けていた装備だけだった。


 俺は目の前で人が一人死んでしまったショックで声が出せなかった。

 静寂が訪れる。そんな静かな空気を打ち破ったのはウザ子だった。


「あーあ、死んじゃった」


 俺は耳を疑った。人が死んでいるのにまるで食べ物を床に落としてしまったかのような軽い言い方だった。


「せっかくだから、装備品を拾っておいてあげるか」


 ウザ子のせいで死んでしまった挙句に、まずやることが金目の物を回収か?

 俺はカッとなって叫ぶ。


「おい!サクラちゃんが死んだのになんだその言い方は!お前のせいなんだぞ!」

「ごめーん、ビックリしてつい押しちゃった。あは」

「何が『あは』だよ!友達が死んだんだぞ!」

「何怒ってるの?よくあることじゃん」


 それを聞いてさっきの会話を思い出した。前にパーティを組んでた人がいたと言っていたが、サクラちゃんのように人を犠牲にして生き残ったのかもしれない。そんな考えが浮かぶ。


「いくらダンジョンでは人が死ぬからってその言い方はないだろ!大体お前はこれまで何人犠牲にして生き延びてきたんだよ!」

「後で謝っとくよ」

「謝るってなんだ?サクラちゃんの家族にそんな軽い感じで謝るのかよ!」


 すると急にウザ子が表情をこれまでのニヤニヤしたものから冷めた表情を浮かべ言い放った。


「何マジになってるの?いいじゃんゲームなんだから、そんなに怒らなくって。なんかキモイんだけど」

「ゲームじゃないだろ!」

「ゲームだよ。遊び。そんな感情移入されてもサクラちゃんも困るだけだよ。取り敢えずダンジョンを出て、サクラちゃん迎えに行こう」


 迎えに?何を言っているんだ?ゲーム?

 俺は混乱した。

 落ち着け。ウザ子は今なんて言った?これはゲームだと言っていた。

 このダンジョンはゲームの様なものなのか?それよりもサクラちゃんを迎えに行くといった。ダンジョン内で死ぬと別の場所から出てくるのか?

 まるでゲーム内で死んでリスポーンしたかのような言い方だ。いや、この世界がゲームのようなシステムならあり得るのか。

 それなら納得できる。サクラちゃんを迎えに行くと言っていたからまず迎えに行くのが先決だろうか。

 俺は無理矢理自分自身を納得させダンジョンを出ることに同意した。


 ダンジョンの帰り道、俺とウザ子の間にはこれまでにないしらじらしく張り詰めた空気が流れている。ウザ子が話しかけてくることはなかった。

 俺も考えを整理するのに忙しかったので丁度いい。




 ダンジョンから出てきて15分。俺は中央デパートの屋上にいた。

 中央デパートの屋上は小さなフットサル場が二つ、ボールが外に飛び出さないように網で出来たフェンスがあり、それを観覧するベンチがいくつか置いてあった。

 そこには沢山の探索者らしき人たちがたむろしている。

 服装は防御力の高そうな甲冑を着込んだ人や戦闘に向かなそうな私服を来ている人など様々だった。つまりここがリスポーン地点ということか。


 そこには確かに制服姿のサクラちゃんが存在していた。


「ごめんねえ。ウッカリサクラちゃんを押し出しちゃったよ」

「うん……、出来るだけ……そういうことはやめてね」

「うん、ごめんね。その代わりドロップはちゃんと拾っておいたから」

「ありがと……」


 サクラちゃんは生きていた。たくさんの木の棒に串刺しにされたにもかかわらずだ。ウザ子の言っていたことは嘘ではなかった。

 ぼんやりとその光景を眺めているとサクラちゃんは言った。


「じゃあ……、今日はもう落ちるね。怖かったし。じゃあね」


 自身のウインドウを操作してサクラちゃんの身体は光と共に消えていった。

 俺はもう一度ウザ子に向いて話し出した。


「なあ、この世界はゲームなのか?」

「え、うん、当たり前でしょ?」


 ウザ子は一歩引いた目で俺を見ている。仮にここがゲームの中だとしたら。俺は現実とゲームの境が分からなくなった頭のおかしい奴ってことか。


「そうか、もう一つ確認するが、さっきサクラちゃんが言っていた『落ちる』というのはログアウトするってことだよな」

「そうだけど、それが何?」

「いや、なんでもない」


 俺はウインドウを開きログアウトの項目を探した。見つからない。

 ただ、ウザ子が嘘を言っているようには感じない。そしてそれが事実なら俺はゲームの中に閉じ込められたということか。


 ウザ子が話し出した。


「そうだ、今日買い物頼まれてたんだった。じゃあね、富谷君」

「あ、またログインした時に声かけてよ」


 俺はとっさに声をかけたが、ウザ子の目が泳いだ。


「うん。また連絡するね」


 そう言ってウザ子は光と共に消えていった。


 そして俺は一人になった。

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