第5話 チートの次はハーレムだ

 ノライムを瞬殺できることが分かった。次の獲物を探すため神社の参道を進む。


 その間、防具を身にまとい自身の背丈ほどの大剣を持った親子が戦っていた。子供は俺と同じくらいの年に見える。掛け声などを聞くと子供に剣術指導しているようだ。


 この世界では親子のキャッチボールをするようなものだろうか。ほほえましく思えないのは仕方ないことだろう。



 この氷川神社の参道には全く装備をしていない私服の参拝客もちらほら見える中、ノライムも出てくる。なんなのだろう。

 道行く人に質問してみたいが、ここはどんな世界なんですかなどと聞けば不審者であること間違い無いだろう。


 そんなことを考えながら新たに出現したノライムを蹴散らすと声が聞こえてきた。


「キャッ!」


 女の子の短い悲鳴だ。


 振り返るとそこには銀色の甲冑を来た女子の後姿が見えた。

 まだ距離があるのでよく見えないので確かじゃないが、背丈からするに恐らく彼女も俺と同年代だろう。


 そして、相手にしていたのは初めに出会った忌まわしき『子供オオトカゲ』だった。


 その女子は子供オオトカゲに対して苦戦しているようだ。

 手を貸してやろうかな。


 ハーレム主人公の第一歩というところか。

 俺はその子を助けることに決めた。




 戦闘している一人と一匹に近づく。どうせなら子供オオトカゲの背後から狙っていきたい。

 2メートルまで近づくとエンカウントの領域に入ったのだろうか、子供オオトカゲがこちらに振り向く。完全に振り向く前にバックアタックで攻撃をする。

 エンチャントダーツを使うと子供オオトカゲでも問題なく一撃で倒せた。

 初めてこのモンスターと会ったときには驚いて何もできなかったが雑魚敵だったのか。


 どちらにせよカタキ打ちはできた。


「大丈夫か?」


 やばい、イケメン主人公っぽいセリフを吐いてる。

 こんなんで惚れられちゃったらどうしよう、なんてくだらないことを思いながらも女の子をもう一度見てみる。


 彼女の装備をよく見てみると皮の鎧などではなく、ゴツゴツしている甲冑を来ている。

 恐らく中級者向けの防具だろう。背は遠目から見たのと変わりなく俺より少し低いくらい。


 顔はまあ、言ってはなんだが普通。俺は参加していないが、クラスの男子がやっている可愛い女子ランキングの格付けをしたら中の下といったところか。

 鼻筋は通っているが目がたれていて平べったい顔なので賢くはなさそうに見える。パーツは悪くないが位置によって残念になっている感じだ。なんだったら俺が化粧した方が可愛くなれるかもしれない。

 いや、自爆ダメージがあるのでこの考えはやめておこう。


 助けた子はぼんやりした顔でこちらを見続けている。嫌な感じがするのは気のせいか。


 そういえば区役所でこの世界では経験値の概念があると聞いた。もしかすると敵を勝手に倒してしまったことはマナー違反になるのかもしれない。


 そんなことを考えていたら女の子が口を開いた。


「ありがとうございました。強いんですね」


 女の子は笑顔で答えた。

 よかった。怒られることはなさそうだ。


「いや、そんなことないよ」

「私は大橋日菜です。あなたは?」

「俺は富谷」

「富谷君、ありがとうございます」

「ああ」

「ねえ、私と一緒にパーティ組みませんか?」


 ニコニコ顔で言われた。


「パーティって、仲間になって戦うやつ?」

「そう、そのパーティ。ダメですか?」

「いや、駄目じゃないけどまだ会ったばかりだしなあ」

「そうですよね、私みたいな可愛くない人と一緒にいても面白くないですよね」

「え?いや」

「分かってるんです。富谷君みたいな格好いい人と一緒に歩くだなんておこがましいというのは。きっと可愛い彼女がいてその子と一緒にパーティを組んでいるんでしょう?」

「そういうことじゃなくて、彼女もいないし。何よりオオミヤに来たばかりだし」


 そう伝えると大橋さんは一瞬キョトンとした顔をして俺の装備品を見た。正義のおっさんが言うには、今の俺の装備は初期装備に毛が生えたものだそうだ。


「それなら私は装備品とか回復薬とか沢山持ってるから仲間にしたら富谷君のメリットにもなるよ。お願い!」


 その子は右手には剣を持っていたので左手だけで拝むようなしぐさでお願いのポーズを作った。

 顔がニコニコから若干ニヤニヤが混じってきている。


 俺が初心者と分かったら急に態度が軽くなったな。


「ねえ、いいでしょ。きっとお互いの為になるよ。ギブ&テイクだよ」

「いや、やめておくよ」

「なんで! 分かった……。そうだよね、私なんかどうせ邪魔なだよね。一緒にいても面白いこと言えないし。可愛くないし。何をやらせても駄目だし」

「あの……」

「きっとパーティ組んでも足手まといになるだけだよね。分かってる。これまでもそうだったから……」


 分かった。この娘のことが分かった。何でパーティを組もうと言われた時に即座にいいよと言えなかったのか。



 コイツ。めんどくさい奴だ。



 顔が好みじゃないとかそんな事は関係ない。はじめに感じた違和感はこれだ。いまだに人に聞かせるともなくネガティブな事を延々と呟いている。私が死んだ方が世界のためだとかブラックジョークを飛ばしているが聞くに堪えない。

 これは是非とも関わり合いになりたくない人物だ。

 パーティーを組むのは辞めておこう。


「じゃあ、俺は行くから」


 俺に聞こえるようなボリュームで自虐ネタを披露している。そのネタの間にチラッと俺を見るのはやめてほしい。

 俺はそこからそっと離れた。




 その後、大橋と別れて俺一人でレベル上げをした。


 神社の参道の入り口付近まで戻ってきている。時折ガッチリとした甲冑に身を包んだ青年二人組がウロウロしている。皆同じ格好をしている所を見ると見回りをしている何かしらの自警団なのだろう。


 大橋はどうしているかというと俺の後ろだ。陰から見ている。

 草場の陰から見守るではないがこれまで俺の戦いの邪魔をせずにそっと見守っている。物理的には邪魔にならないが精神的に邪魔だ。


 後ろから見られているのを気にしない振りをするのも限界だ。

 チラリと見てみる。目が合った。


「パーティ組んでくれるの?」


 大橋の顔がパアッと明るくなる。


「そんなことは思ってない。付きまとうのはもうやめてくれない?」

「付きまとってなんかないよお」


 あからさまに悲しそうな顔をする。


「別に俺じゃなくてもパーティになってくれる人はいくらでもいるだろ」

「そうなんだけど、この人だ!って感じがしたんだもん。パーティ組もう?」

「なんだよそれ……」

「それに私どうしてもレベルあげなくちゃいけなくて。それなら強い人が一緒にいてくれると心強いと思って。さっきも言ったけど一人よりも二人の方が効率良いし、アイテムも分けてあげるよ」


 効率云々の話はさっきしなかったと思うが……。ただ、確かに二人の方が楽かもしれない。何より大橋は大剣を持っている。

 恐らく前衛だ。

 一方、俺は投擲で後衛だから相性は悪くない。回復アイテムを融通してくれるのも確かにメリットだ。


「お願い!どうしても早くレベル上げたいの」


 お願いのポーズがさっきの片手で拝んでいるポーズで、さらに今回は片目をつぶっているというオプション付きだ。

 いわゆるウインクをしている。こんなことする奴が現実にいるとは驚きだ。


 しかもレベル上げの理由を聞いてほしそう感を出しているが、俺は興味が無い。一生聞くことはないだろう。

 それでも熱意は本物のようだ。一生懸命さだけは伝わってくる。

 そんなに頼まれたら俺も鬼じゃない、少しは譲歩してやろうという気持ちが浮かんできた。


「分かったよ。他に一緒に行く人が出来るまでのパーティならいいよ」

「本当!? やったあ!」


 ぶりっ子な喜びのポーズと言ったらいいのか?

 大橋は両手を胸の前まで上げてわきを締めた状態から小さいガッツポーズをした。


 それを見て俺の心はある感情に支配された。


 うぜえ。

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