第4話 チート万歳
両手に木々が立ち並ぶ。
住宅地のど真ん中に我が物顔で立ち並び、普段から手入れをされているであろう木々が奥まで延々と並んでいる。
奥の方になると多少道が曲がっているのだろう、先まで見通せない。
左右には腰の高さほどまで積まれた石垣と石畳によって整備されている道路。
背中には今さっき通ってきた大きめの鳥居。
普段なら小鳥のさえずる声とハトがうようよと出てくるはずなのだが、ここはいやに静かな空間。
今いるのは大宮駅東口にある氷川神社の参道だ。
今俺の目の前に対峙しているのはブヨブヨとしたバランスボールくらいの大きさの物体。
名前は野良のスライムが由来になったのであろう「ノライム」と呼ばれている生物だ。
ゲームでよく出てくるようなスライムよりも気持ちが悪かった。
戦闘の訓練でもしようとここに来たのだが一番楽そうに倒せる敵が出てきたので丁度良い。
ノライムに対峙しながら、戦い方をもう一度思い出してみよう。
そうして区役所での事を思い出す。
区役所は面倒だった。
タクシーで先輩探索者の二人に区役所へ連れられてきた後に、まず行ったのが住民登録。
オオミヤの住民になるために必要な知識を聞いて、お金を入れておくためのカードにもなるマイナンバーカードの交付。
そして念願の転職だ。
まず希望の職種を申請書に書き込み、受付へ行って手数料を支払う。すると申請許可書を交付されるので二階へ行き許可書の提示と後見人の確認を済ませる。
後見人はもちろん一緒に来ていた佐藤のおっさんだ。
この手続きを済ませ、様々な説明を受けるとやっと転職受理書を渡され転職場という広間へと通される。
これらにかかる時間は二時間。長かった。
転職は本業と副業の二種類を選べるので俺はまず『
ちなみに佐藤のおっさんと原田さんと別れ、ついでにネギとせんべいは売った。
結構な金額をもらった上に、お古の装備品である皮の装備一式までをもらった。
これで「ひよっこ探索者」から「初心者探索者」くらいにはなれただろうか。
そんな面倒な手続きを思い出しながら改めてノライムの前に構える。
区役所でスキルの使い方を教えてもらった俺の持っている初期スキルは
『
ちなみにこのスキルは初期状態で持っている人が多いそうだ。ゲームや漫画の影響だろうか?他の人が使えない解析を使って無双するというチート展開にはならないということは分かった。
まあ、とりあえず使ってみよう。試しておかないといざという時になって使えなくて困る。
「
使用すると目の前にまるでゲームのようなウインドウが現れてノライムのデータが表示される。
============
名前:ノライム
HP:13
MP:8
============
ノライムの状態は分かった。攻撃を加えてみる。
攻撃方法は単純だ。
自らの脚で蹴り飛ばす。
足がノライムに触れた直後はあまり感触が無く、奥にめり込んでいくだけだった。
徐々に反発力が強くなりノライムの三分の一程体の中に入ったあたりで反発力が強くなり足の力で押し出すことができた。
感触としては空気の抜けたサッカーボールのようだった。
蹴りの勢いにより1メートル飛んだあとベチョッと地面に落ちた。
ノライムはこちらにゆっくりと近づきながら触手のように体の一部を伸ばしてくる。
きっとこれが攻撃なのだろう。
「ふっ、そんな攻撃遅すぎて当たらないぜ」
マンガの主人公のような言葉をつぶやきながら俺は距離を取る。
一度言ってみたかっただけだ。
もう一度『解析』のスキルを使う。
============
名前:ノライム
HP:9
MP:8
============
HPがさっきより4減っている。足で蹴っ飛ばすと4ダメージを与えられるようだ。
さて、敵を倒せることが分かったし実験だ。
転職した『遊び人』だが、この職業を選択すると特定のアイテムを使うことができるようになる。
早速ウィンドウを開き、道具一覧を呼び出し、一つの道具を選び出す。
「ダーツ」
手の中に光とともにダーツが現れた。
俺は元の世界でも趣味で使い慣れた道具を使いたかった。
利き手である右半身を前に半身の構えを取り、ダーツを頭と目標の間まで持ち上げ構える。
一度集中し腕の関節から指先に至るまで神経を行き渡らせる。
もう一度目標を確認。
敵の身体は半透明で透き通っているので中がすべて見える。核の様なものが見えることもない。
先ほど物理ダメージを与えられたことからどこに当っても同じだろうと推察する。
とりあえず狙いは直球ド真ん中だ。
ダーツをノライムに向けて投げるとブヨブヨの身体に吸い込まれるように向かっていった。
狙い通りノライムの中心に刺さり、その直後ダーツはスッと消える。
スキルを使ってノライムのHPを確認するとダメージは1だった。
ダーツというものは急所に当たらなければ1しかダメージを与えられない。
その反面、当たれば必ずダメージが通る。
どんなに防御力が高いものにもだ。
事前にダーツの説明を聞いていたためここまでは予想通り。
次は実験第二弾だ。
『付与術師』のレベル1の魔法は
初めての魔法にワクワクする。
「ダーツ」
「
ダーツ言葉と共に手の中に現れたダーツを持ちながら続けて中二的な詠唱を唱える。するとダーツの下に光る線で描かれた小さな魔法陣が表れた。
少し待つと魔法陣が回転を始め光がダーツに吸い込まれていく。
ぼんやりと光を発しているダーツを改めて構え、敵に向けて放った。
そのまま先ほどと同じように刺さって消えていくと思いきや、ノライムの中心に大きな穴をあけて貫通した。
ノライムは光の粒子とともに消えていく。
この攻撃、いかにも強そうだ。
チートいけるかもしれない。
期待に鼓動が高鳴った。
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