第3話 面倒事は勘弁してくれ。回れ右に流れたい。


攻防戦を繰り広げた私達は、まるでバイ◯ハ◯ードに出てくるゾンビの様だろう。私の真っ正面に座ってブロンド色の髪の彼女は、眼が据わって居りまして今にも襲われそうな程に身を乗り出しているので恐怖しか感じません。誰か、彼女をどうにかしてください。今なら1ドルあげます。


「さぁ!観念しなさい!」


「いや、しません。」


「おい!しなさいよ、この女たらしぃ!」


ドンッ!

ビールがごくごくと彼女の喉の奥へと飲み干されていく。空になったグラスをテーブルに叩き付けた彼女は、最早鬼婆にしか見えない…。


「…君、大分酔っているよね。口調が彼氏に浮気をされて尋問している彼女の様だよ。」


「私はぁ!貴女の事が好きだからぁ!勇者になれっつってるのよぉ!」


「へぇ、好きなんだ。良かったねぇ、わぁ嬉しい。…何これ、好き=勇者になれ?無理矢理関連付けの線を結びつけたの?話が通じないわ、こりゃ。」


「ちょっと!聴いているのかしら、女たらし詐欺師ぃ!」


「はっはっはっは!…酷い言われようだな、私。と言うか、何だ詐欺師って。詐欺をした事も無いんだが…。」


「大体ねぇ!貴女はー」


「あーはいはい。マスター、代金は此処に置いておくので。」


「あいよ、気を付けて帰れよ。」


私は彼女の小言の説教を遮って、マスターに代金を払って無理矢理彼女を引きずり出…引っ張って外に出た。

現在の時刻は、深夜の1時。どれだけ時間を無駄にしたかが解るであろう。さっさと家に帰って彼女を風呂に放り込んで洗わないといけない。臭過ぎるのだ、酒と煙草の臭いが染み付いて。え?家はどうしたのかって?ちっちっちっ、私を誰だと思っている?女版の日曜大工と呼ばれているんだ、家位建てられなくてどうする?知らないって?そら、そうだ。知らなくて当然である。因みに、家を建てるのに十時間程費やした。


「…はれ?此処は…何処かしら。」


「此処は私の家だ。全く、どれだけ酒を呑めば気が済むんだい君は。」


「げっ…私、そんなに呑んだくれだったかしら?」


「あぁ、呑んだ数は…28杯程ね。まぁ、過去最低記録だけれど。」


「あら嫌だわ、もっと呑んでいた認識だったのだけれど…駄目ね。ふふふっ」


「どれだけ呑むのよ…。マスターは呆れていたわよ。」


「あらぁ、あれ程マスターは優しかったのに?」


「サービス業だから、優しかったんだろう?」


「違うわよ、アッチの事よ。」


「…は?アッチとは?どっちの事だい?」


「勿論、解るでしょう?」


「また君は…性悪な女性だね。」


「ふふっ!せめて魔性の女と言って欲しいわ。」


そう言った彼女は、酒が抜けていないのか陽気で無邪気に笑った。まるで、昔の彼女になったかの様な錯覚に陥る。



「あ、それと…私、勇者になろうかと思う。」


「え?」


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