第28話 接触
「今日は良い物が見れました。ありがとうございます」
「いやいや、これも君のおかげさ」
あの後試作品のサンプルを色々見せてもらった。
水に適用できるならその他の物質への適用も可能という彼女の理論は既に粘土質の物への転用まで進んでおり、その延長線として金属化も可能だという。
「しかしまあ、今の課題としてはこの技術には永続性が無い事だね。ただの使い切り……今だとせいぜい
弓兵が用いる矢の全てにこの技術が適用されれば、戦場における制圧力が格段に向上する。
しかし彼女はそれだけでは満足しないようだ。
これも技術者魂と呼べるものなのだろう。
「ですが、十分可能性のある事だと思います。これからが楽しみですよ」
「君にそう言ってもらえると嬉しいよ。いつでも遊びに来てくれ、君なら北支部一同大歓迎さ」
「ええ、近い内に必ず……それではまた」
北支部を出て、一旦宿舎へ向けて歩きだす。
本部へ向かう前にリタを迎えなければならない。
思ったより長居してしまったようで、既に日は頂点を下り始めた頃だった。
「確か今日は実技の予定もあったような……だいぶ遅れてしまいましたね……急がなくては……」
私は歩く速度を少しだけ早めながら、今日の予定を再確認していた。
◇◆◇
ここ最近の講義は理論的なものから実技にシフトしていた。
理論だけで実際に魔法を行使できないのでは意味がない。
初めは中々古い知識や癖が抜けきらず上手く魔法を行使できない者も居たが、そんな彼らも今となっては魔法の威力制御まで自在に操るまでになっていた。
中には無詠唱で魔方陣を展開するに至った者も現れ、そんな彼らの達成感に満ちた表情は私にも同様の気持ちを与えてくれた。
「──では、今日の講義はこれまでにします。また明日も同じ時間に講義をしますので、是非ご参加ください」
質問を投げかけてくる者や、早々に研究に戻る者、皆それぞれの目的に沿って静かに行動する。
見慣れた光景となったが、今日はそこに見慣れない人物が立っていた。
皆が解散した広場には私とリタ、そしてその一人を除いて誰も居なくなる。
この時を待っていたとばかりにその人物が静かに歩み寄り声を掛けてきた。
「いやあ素晴らしい講義でした。ヤマダ殿」
「ありがとうございます。えっと……あなたは──」
「これは失礼。私は南支部の支部長をしておりますダレンと申します」
「支部長さんでしたか、これは大変失礼を……」
「いえいえ、私も魔法師の端くれです。今はあなたの講義に感銘を受けた一人の生徒……といったところでしょうか」
「それで、ダレンさんは私に何かご用でしょうか?」
「ええ、実は南支部では今新たに魔法研究を行っておりまして、ヤマダ殿の理論のお陰で研究が大幅に進んだ事を感謝しております。そこで、私達の研究成果を是非ヤマダ殿にお見せしたいと考えているのですが……」
リリーから聞いた南支部の技術開発部門の事だろう、彼らの研究内容については私も興味を持っていたので断る理由は無かった。
「なんと、それは是非見せてもらいたいです」
「それは良かった。では早速案内したいのですが、ご足労願えますでしょうか?」
「今からですか?」
「おや、ご都合が悪かったでしょうか?」
「いえ、そういう訳では……」
今朝方リリーから聞いた話について、確認したい気持ちは強かった。
しかしこの事にリタを同行させるべきかどうか思案する。
「……わかりました、ですが私以外にも一人、ここに居るリタの同行も許可ください」
「その方は……わかりました。ではお二方、ご案内しましょう」
一瞬考える素振りを見せるダレンだが、すぐに穏やかな顔に戻り同行を快く受け入れてくれた。
「師匠、あの……」
リリーから聞いた話はリタにも共有してあった。
だからか、彼女は不安そうな顔を私に向けてくる。
ダレンに聞こえないくらい小さな声で彼女に耳打ちする。
「大丈夫、ですがリタは私から絶対離れないでくださいね」
「は、はい……」
私達は彼に先導されるがまま改革派の拠点……南支部へと向けて歩きだした。
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