第19話 王都エルシャナ

「お三方、王都が見えてきたぞ」


「おお、あれが」


 馬車から身を乗り出して見つめる先、そこに王都エルシャナはあった。

 街の構造はサルラスと似ており、中央に王宮らしき巨大建造物がそびえ立っており、その中心から数多の道が真っ直ぐと伸びているのが分かる。

 しかし、大国と言うだけのことはありその規模はサルラスの倍はあるように思えた。

 遠目からでも分かる高い城壁に囲まれ、丘から見下ろしているというのに視界を埋め尽くす程の大きさだ。


「壮大ですね……」


「はいです、サルラスより大きいですよ」


 思わず二人で感動の声を上げる。

 王都サルラスを初めて見たあの日のようにはしゃぎたくなる気持ちを抑えながらその風景を楽しんでいると、私達とは違い座ったままのリタが声を掛けてきた。


「ヤマダさんとイブキさんは初めてなんでしたね、ようこそ王都エルシャナへ! って私が言うのも変ですが」


「リタさんは何度か王都へ来た事があるんですか?」


「はい、幼い頃に何度か……」


 それもそうか、彼女はこの大陸の人間なのだ。

 私はふと、リタが王都へ向かう目的について聞いていないことを思い出した。


「そういえば聞いていませんでしたが、リタさんは王都に着いたら何をする予定なんですか?」


「え? ああそうでした、言ってませんでしたね……目的は二つあるんです」


 そう言って片手をこちらに向け、人差し指を立てる。


「一つは王都で冒険者の依頼を熟してお金を稼ぐことですね、そして──」


 続いて彼女はもう一本、中指を伸ばして言葉を続けた。


「もう一つの目的は、魔法師協会に入会する為です」


 聞いたことのない名前が出てきた。


 協会と言うからには魔法師を束ねる組織のようなものなのだろうか?


「魔法師協会……初めて聞く名ですね、それは何ですか?」


 リタは「それはですね」と一言置いて、ゆっくりと語り出した。


「恐らくヤマダさんと同じ目的になると思います。魔法師協会というのは魔法や呪文、そして魔法師を管理する組織の事です。魔法や呪文の知識は全て魔法師協会が保有していて、その協会の者しかそれを閲覧できないんですよ。私はまだ入門程度の実力しかありませんが、きっと"試験"も上手くいくなって思って……」


 試験? 協会に入るには試験が必用なのか?


 あっさりと知識を開示してくれる事は無いと思っていたが、どうやら私もその協会とやらに入らないといけないようだ。


「試験……ですか、それはどういった内容なんでしょう?」


「そうですね、私もよく知らないんですが、私の師匠が言うには知識と実技の二つがあって、それを全て合格しないといけないみたいですよ。その内容までは聞いてないですが……」


「なるほど、ありがとうございます。しかし、試験ですか……」


 知識──恐らく魔法の基礎理論について問われるのだろう、そして実技は間違いなく魔法の力を示す為のものだ。

 リタの話だとこの世界における魔法師は皆それぞれに"師"が居て、その人物から基礎理論と初歩的な魔法を教わっているのだろう。

 そして、ある程度実力がついたところで本格的に魔法師としてのスキルアップを目指すべくこの魔法師協会に加入するのだと理解した。

 残念ながら私には師と呼べる人物は居ないが、この世界における魔法の理論を作ったのは私だ。

 その点では何も心配する必用は無いが──


「想定外の事態は……考慮すべきですよね……」


「主様、どうかしましたですか?」


 思った事が口に出てしまったようだ。それに気付いたイブキが不思議そうな顔を向けてくる。


「いえ、何でもありません……私も魔法師協会に加入する必用がありますね。今日はもう遅いですから宿に泊まって明日改めて協会の門を叩く事にしましょう」


「あ、あの……ヤマダさん……その……」


 リタは何か言いたげな表情でもじもじしながらこちらを見ている。

 何を言おうとしているのかはこれまでの状況ですぐに理解できたので、私はすぐさま彼女に一つの提案をすることにした。


「ああ、リタさんもしばらくご一緒しませんか? 私達はしばらくこの大陸に居ますので、リタさんの冒険者家業が軌道に乗るまでの間でしたらサポートできますよ」


「いいんですか!?」


 リタは目を輝かせながらこちらを見つめた。


「ええ、その代わりといっては何ですが……私に魔法について色々教えてもらえませんか? その分の宿と食事代はお出ししますよ。授業料ってやつです」


 食事に困る程手持ちも無いだろう彼女を王都に置いてけぼりにするのに罪悪感を感じたのもある、それに魔法の知識に関する情報をもっと彼女から聞き出せないかという期待もあった。その為の提案だった。


「は、はい! 任せてください!」


 知識を教示するという大義名分があれば、彼女も後ろめたい気持ちにならないだろう。

 ともあれ、これで魔法に関する知識はある程度手に入りそうだ。


「王都に到着だ! 冒険者のお三方、今回は助かった。そしてようこそ王都エルシャナへ!」


 景気の良い声で馬車の主が叫ぶ。

 私達を乗せた荷馬車は巨大な門を潜り、王都へと入っていった。

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