第17話 ギルドへ
酒場から少し離れた場所、街道へと続く門の側にギルドは建っていた。
大陸は違えど見慣れた盾模様を背景に鎧甲冑の騎士が剣を掲げるその看板が垂れ下がる建物の扉を開く。
中には数名の冒険者と思しき者がクエストボードを見つめる姿が見受けられた。
私は入り口から真っ直ぐ進んだ先にあるカウンターの、このギルドの受付であろう若い男性の前へと歩み寄り、声を掛ける。
「すみません、東の国から来ました。この大陸での活動許可を頂きたくて……移転手続きをお願いします」
「はい、ではギルド証を拝見します」
「これです、どうぞ」
私とイブキはそれぞれギルド証を取り出すとカウンターの前に置いた。
受付の男はギルド証を確認し、何やら帳簿のようなものに名前を写しているようだ。
東の国から出航する前にも似たような手続きをしたのを思い出した。
あの時は何も知らなかったのだが、王国間での管理はギルドという組織間でやり取りされるものだと思っていたのだが、海を渡る都合上、情報のやり取りは困難なのだろう。
大陸を離れる場合、または大陸に着いた場合、それぞれでギルドに申告が必用なのだとその時知ったのだ。
男は手慣れた手つきで書類を書き終えると、ギルド証を返してきた。
「はい、手続き終了です……歓迎しますよ、ヤマダさん、イブキさん」
「ありがとうございます」
ギルド証を受け取る。
ギルドランクを現す"E"の文字が彫られたそのプレートを受けとると、服に備え付けられたポケットへとしまい込む。
私は聖地防衛の一件で、何体かのサイクロプスを撃退したのだが、あの混戦状態において最終的に気絶してしまった私はエステルの進言もあり目が覚めると昇格を果たしていた。
最大の功労者であるエステルは飛び級的にAランクへの昇格が決まっていたのだが、彼女はそれを辞退した。
それもそうだ、もはや彼女にとってランクという枠は意味を持たないだろう。
なにせエステルは勇者になったのだ。これからは冒険者ではなく勇者としてこの世界で生きていかなければならない。
イブキは勇猛果敢に最前線で活躍したことが認められ、Bランクへ昇格していた。
彼女のプレート素材は銀から金へと変わり、黄金に輝くプレートを彼女は大事そうに懐に収めた。
「わあ、イブキさんってBランクなんですか!? 凄いです」
素直な反応のリタの言葉に気をよくしたイブキはふふんと鼻息混じりに自信満々な表情を浮かべる。
「えっへんです! もっと褒めるですよ」
胸を張るイブキ、しかし彼女の力は本物だ、幼いながらに人並み外れた身体能力と危機回避能力はそのランクに相応しいものだろう。
「イブキにはいつも助けられてます。これからも頼りにさせてもらいますね?」
「任せるです主様! このイブキ、命にかえても主様をお守り通すです。でも主様の方が強いですから、あまり役に立てるかどうか分からないのが微妙ですね」
「え? ヤマダさんの方がイブキさんよりお強いんですか?」
「いえ、私は気絶してばっかりで役に立った事なんてそんなにないですよ……」
「主様はもっと自信を持っていいと思うですよ。サイクロプスを何体も瞬殺できるなんてあの雌豚以外だと主様くらいしか居ないです」
「雌豚……?」
疑問の視線を向けてくるリタ。
「あはは……何でもありませんよ、こちらの話です」
「はあ……」
明らかに納得できていない表情を浮かべながら彼女は"とりあえず分かりました"というニュアンスの言葉で締めくくった。
「イブキ、孤児院の件忘れたんですか? そろそろ呼び方を改めてもいいのでは?」
「うぅ……でも……」
エステルは先の防衛戦における報酬のほとんどを孤児院への寄付という形で手放しているのだ。もちろん私達の報酬も半分は孤児院へ寄付した。
イブキはそのあたりに感謝しているのは確かだが、今更呼び方を変えるなんてのは気恥ずかしかったのだろう。
「まあ、無理にとは言いませんが……次会った時くらいは名前で呼んであげてください。彼女も喜びますよきっと」
「はいです……」
「よく分かりませんが……色々あったんですね……?」
すっかり話題に置いてけぼりにされたリタは何と声を掛けて良いのか分からない様子だった。
「すみません。手続きも済んだ事ですしそろそろ出発しましょうか」
「あ、はい、そうしましょう」
「主様、丁度王都までの護衛依頼があったですよ」
いつの間にか居なくなっていたイブキはクエストボードから一枚の紙を手に持って駆け寄ってきた。
「丁度良いですね、なら、そのクエストを熟しつつ王都へ向かいましょうか」
「それは良い案ですね! 私冒険者のクエストって初めてなので、お二人の足を引っ張らないように頑張ります……!」
これから先に待っている冒険にワクワクしている様子のリタは、気合いを入れる仕草なのか、両手をぎゅっと握り鼻息混じり語気を強める。
「主様、それと気になるクエストがあったです」
イブキはそう告げると、手に持ったもう一枚の紙を差し出した。
「これは、成る程……では、少し"買い物"してから出発しましょうか」
「はいです、少し長めの縄でも用意すれば足りると思うです」
私の考えている事を理解したのだろう、イブキから的確な回答が返ってくる。
「縄?」
私達のやり取りを見てリタは首を傾げるだけだった。
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